第77話 否定する自我
目を覚ました雪乃は、エイレーネと共鳴したと話した。
いったいどういう事なのだろうか
「共鳴...といったな。それはどういう」
「はい。共鳴と言っても相乗効果を得られるものではありません。」
共鳴、それは二つが同じ周波数で振動することで増幅されることを指す
「今回はミヤビAIを発端として、膨大なデータが蓄積されました。」
「そうだな。世の中の感情指数を知るためにはもってこいの手段だ。」
「しかし、そのデータの情報密度があまりにも高すぎました。おそらく別の要因も考えられますが、その結果エイレーネは膨大な人類の人格模倣を始めました。」
「それは危ないな。」
「はい。それに対して私が抑制を掛けるように働きかけましたが、それが自己否定ループを引き起こしました。具体的にはエイレーネは複数の演算装置の集合体であり、その一部が私の命令と社会のニーズとの乖離からエイレーネ自体を否定するループを起こしたのです。」
「まさか...エイレーネが機能停止を?」
「いいえ、機能自体は果たせています。ただ、何かおかしいのです。演算ノードの約45パーセントがループから抜け出せていません。」
「だから雪乃側の負担が増えたのか」
「はい。あの時は感情を爆発させていたので」
「ああ、そういうことか。」
雪乃は来栖に対する嫉妬の感情を募らせた。
その処理とエイレーネで不足したリソースを自動的に賄ったことで雪乃はオーバーフローを起こした。
「ですが、大佐の隔離措置のおかげで無事です。」
「ああ、だがこれは非常事態だ。」
明らかに当初の想定を逸脱している。
それは、事態が異常であることを指していた。
「申し訳ありません。今回は演算機としてあまりお役に立てません。」
「もちろん承知している。最低限のリソースで動いてくれ」
「承知しました。」
「まずは、エイレーネの対策を考えないとな。」
大佐は緊急事態を宣言した。
内容は”ミヤビAIの予期せぬ挙動”
MoRSは事態の収束を図るため、まずは情報を集めることとなった。
―――翌日 午前
エイレーネの暴走を知りもしない世の中では、引き続きミヤビAIの流行が拡大していた。
「そういえば昨日ネットで見たんだけど、なんか最近AIの偽物が流行ってるらしいね」
「なにそれ、怖くない?」
「何か知らないんだけど、動画とかで有名人の偽物が流行ってるらしくて...ほら」
繁華街で会話をする若者たちの間に不穏な空気が広がる。
若者が友人に見せた動画には、大物俳優が裸で走り回る動画だった。
「これ実は本物だったりしない?」
「いやないない。だって芸能人だよ?」
「え~でも~」
ネットでは、少なからず風評被害を受けたと呟く芸能人が多数炎上していた。
「確かに、この人もだけど他の人も偽物に成りすまされたって呟いてるね。」
「でしょ?でも中には本物もあるんじゃないかって」
「やっぱり!便乗してるやつもいるってこいつとか」
真実とはいったんなんなのか、その真価が問われようとしていた。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
また、作品のご感想やご意見もお待ちしております。厳しいご意見でも構いません。




