第76話 双子の共鳴
雪乃が倒れて、大佐が駆けつけた。
そばにいた平井が既に状態を検査している。
「平井、触るな。」
平井は、大佐の顔を見て腰を抜かした。
普段、温厚な大佐がまさしく鬼の形相でそこに居たからだ。
そして、急に会議室を抜け出した大佐を見て、ただならぬ状況を感じた来栖が遅れて到着する。
「大佐、落ち着いてよ。戻ってるよ。」
ハァハァと、息を切らしながらも来栖は必要なことを伝えた。
「そう...だな。ありがとう」
「はっ!これはいいものだねぇ...」
感謝を述べられた来栖が悦に浸った表情を浮かべる。
「来栖はここにいてくれ。平井はすぐに第2指揮権に一時移譲を伝えてくれ。」
「了解しました。」
平井はその場を去る。
「来栖、君が私に好意を持っていることは前から知っている。だが、我々心理学者はその極地へ近づくほど人間という生き物を信頼できなくなる。」
「そうだねぇ、だから十六夜くんが好きなんだよぉ。」
「任務中はやめてくれ。」
「失礼しました。大佐...」
大佐は十六夜という言葉に顔が曇った。
「だから君の愛には答えられない。それにもう1つが雪乃だ。」
「大佐は人間が嫌いでしょ?なんで雪乃さんなのぉ?」
「これが答えだ。」
大佐は専用端末を操作した。
その瞬間、雪乃の胸が開く。
文字通り、あたかもPCケースのように。
そして、露出した心臓の部分、そこには放射性物質を示すハザードマーク
「そんな...信じられない。まさか...十六夜くん...」
「やめろと言っただろ。答え...雪乃はアンドロイドだ。」
「どうしてなの?これは禁忌だよ。我々人間にできる範疇を超えてる。」
「MoRSを作った理由。それに、調律者になった理由その全てが雪乃なんだ。」
「何となく。なんとなくそれはわかるけど、違うよ。これはやっては行けないことなんだよ。」
倫理的観点から完全なアンドロイドの作成は現代社会では禁忌とされている。
人間の生産圏を著しく衰退させる可能性があるからだ。
「雪乃については安心してほしい。、雪乃はオリジナルであり、唯一無二になる。量産や一般の国家が行えるように技術を公表するつもりはない。」
「十六夜くんのことだから、破壊のためではないことはわかる。だから一旦はわかった。」
来栖は納得をした。
「それで、問題はこれだな。エラーコードE-11...情報負荷増大によるオーバーフロー」
「というと?どういうことかなぁ」
「おそらく、月のエイレーネが膨大な情報を処理していた時に雪乃の感情制御プログラムが複雑な処理を行ったんだろう。」
「月?エイレーネ?もう少し簡単にお願いします。」
「要はスペック不足だ。」
「ああ...なるほどねぇ」
「雪乃の胸にある原子力ジェネレーターは問題なく稼働している。そしてその上部にある量子コンピュータがエラーを吐いているということは、おそらくだが」
「それだと今後も雪乃さんが倒れ続けることにならないかなぁ」
「ああ、それに本来これほどの負荷がかかるわけがない。それに今エイレーネに接続を試みているんだが応答がない」
大佐は、応答がないエイレーネと雪乃を一時的に切り離す措置をとった。
「これで雪乃は名実ともに完全自律制御だ。だが、一時的に演算能力が低下する。」
雪乃の胸が閉じてどこからどう見ても人間と変わりない状態になる。
すると
「大佐...エイレーネが...」
「一度切り離した。だが、どういうことだ?」
雪乃は説明を始める。
「これは...共鳴です。二つの思いの」
一体何が起こったのか...大佐は不安を隠せなかった。
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