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天上のダイアグラム  作者: R section
第5章 共感の贄

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第75話 緩やかな傾斜

来栖は、幽世の会議室へと呼ばれた際に拘禁されていた間に起こったすべてのデータを見ていた。


その際に、大佐が進歩の停滞を止めるために必要だったミヤビAIの公開だったと気が付いた。


「というわけで、とてつもない進歩で失敗したから怖くなった人を後押しするためにみやびちゃんは必要だったんだねぇ」


「それ自体は、私も納得ができますが、現状の危険度を見ているがゆえに...」


腑に落ちたが何か飲み込み切れない小林だった。


「そりゃそうだ!だから対策を考えようって話だねぇ」


「根本へのアプローチを行わないと事態は収まらない。だがその根本がいまいちなのが問題なんだ。」


大佐は補足する。


「じゃあさ、答えから言っていい?」


「ああ、頼む。」


「多分悪意のある第三者による工作...かな」


まだ何も証拠はない。あくまで観測データをもとに、来栖が予測しただけだ。


ただ、その可能性はある。


その事実は非常に大きな意味を持つことをこの場の誰しもが理解していた。


「やはりか...」


大佐はため息交じりにこぼした。


「まだ、予測だよ。大佐」


「もちろん。だが大いにありうる。」


「ではどうすると?」


「そうだな。小林。解析部の一部人員を”敵”ありでの予測解析に回してくれ。」


「分かりました。」


大佐は両方の可能性を仮定になりうると判断した。


動き始めたMoRSと時を同じくして、席を離れた雪乃は


―――MoRS本部内通路 雪乃


雪乃は来栖の振る舞いにただ嫉妬していた。


大佐と近い距離でフランクに会話をする彼女は


例え雪乃が大佐と夜を共にしたとて嫉妬せずにはいられなかった。


「確かに。私の方が大佐との距離は近いですが...」


ボソッとこぼす雪乃だった。


すると


「あら雪乃さん。」


一人の女性が近づく


「お疲れ様です。平井さん」


平井はMoRSの補給部 主任だ。


補給部は限られた調律具を必要なところに必要なだけ渡すことを任務としている。


構成員の精神的ケアも補給部の仕事である


「何か悩み事ですか?お姉さんで良ければ聞きますよ?」


「いえ、私には必要ありません。ただの嫉妬です。」


雪乃はAIだ。もちろんカウンセリングなんてものとは無縁だと確信している。


「珍しい...と言えるでしょうね。嫉妬している人がそこまで素直に嫉妬だと言うのは」


「ですよね。存じておりま...うっ」


「雪乃さん?」


「頭が...痛い?」


「常に働いていますし、恐らく疲労です。休めば少し良くなると...」


雪乃が機械生命であることを知らない平井は気づいていない。


「いえ...これはそういう意味では」


「いいえ、早く休みましょう。」


「エ...イ...レー」


雪乃は倒れた。


その瞬間大佐に連絡が入る。


専用のデバイスを通じて、雪乃の有事を伝えた。


「戦え♪♪♪」


音楽が急になり始める。


それは大佐が好きなアーティストの曲の一部分


戦いの歌だった。


「雪乃!!」


大佐はすぐに走り出した。


現在位置はすぐそこの廊下。


一体、雪乃に何が起こったのだろうか

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