第74話 早すぎた未来
―――2026年 3月20日 午後 MoRS本部 幽世
「大佐。異常の兆候です。」
「ああ、だが原因が不明である以上、我々にはどうする余地もない。」
解析セクターの統括主任であるマイケル小林はやきもきしていた。
「大佐の仰ることは分かりますが、これは人為的かもしれません。」
小林が必死に大佐を急かす中、会議室の扉が開く
「おっまたせ~!まったぁ?」
「う...よりにもよって彼女ですか?いつ拘禁解除に?」
雪乃はとても嫌そうな表情だった。
「来栖ちゃんが嫌いなのはわかるけどさぁ~、大佐の前だよぉ?」
”来栖 明日海”
彼女は観測セクターの統括部長である。
基本的に統括主任以上の構成員は特殊構成員であるが、難のある人物が多い。
マイケル小林は特殊構成員になりたてであるが、その逆に来栖は古株の構成員だ。
「来栖、申し訳ないが少し真面目な話をしたい。」
大佐は顔を顰める。
「わかった。ただ、三年も拘禁したんだから何かあってもいいとおもうなぁ~」
「というと?」
「この件が終わったら...前の約束...ね?」
「もしも、もしもだぞ?もしも来栖が完ぺきに仕事をこなしたら考えてやる。」
「考えるだけぇ?でもさぁ別に悪くない話だとおもうしぃ~」
「そういう問題じゃない。じゃあ問題も何も起こさなかったらそのときは望みどおりに」
「やったぁ~これは失敗できないなぁ...だって私の...」
大佐と来栖の間にはとてもとても複雑な事情がある。
雪乃ももちろんその事情は知らないが、あまりよろしくないことであるとは察しがついていた。
「大佐。ちょっとお手洗いにいってもよろしいでしょうか?」
「???」
雪乃には排泄機能はない。
「よろしいでしょうか?」
「あ、ああ...ごゆっくり」
雪乃は部屋を出た。
「では、本題に入るが、今回来栖を呼んだのは他でもない。観測が難しいケースである可能性がある。」
「だよねぇ~、とはいえモーちゃんの観測力は私と大差ないんだけどなぁ~」
「それはそうだが、人間的視点を考慮したら非じゃない。」
大佐は表の顔として、心理師として働いている。それは大佐は特殊能力と呼べるレベルの観察眼があるからだ。
ただし、その観察眼というのは基本的に相手と話したり、長時間の行動を見て発揮される。
だが、来栖は違う。
大佐の分析でもどうすればそうなるのか全くもってわからないが、なぜか彼女は見ただけで情報をほとんど理解する。
特に、人間の行動心理には人間はもちろん機械でも叶わない。
「資料を見た感じだと、たぶんみやびちゃんのせいだね。」
「それはわかる。」
「それと、これ多分大佐が配ったでしょ」
「え?大佐が?」
小林はとても動揺した。」
「そうだ。」
「だっよねぇ~。でも多分大佐の配ったコードから別の人が悪意のある方向に変化させてるね。」
「ちょっと待ってください。大佐が人類に早すぎる技術を渡すなんて」
例の一件で配ったことは、雪乃と大佐だけが知っている。
「確かに速すぎたかもなんだけどね?多分問題はそこじゃないって感じかなぁ」
「もう少し小林にもわかるように言ってくれ」
「じゃあ今分かったことを説明するねぇ」
来栖が見たのは何だったのか、それは人類にとっておそらくは脅威だろう。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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