第72話 意思の写し鏡
―――3月11日 ネット上
広大なネットの海では、AIの活用について意見が溢れていた。
中でも、ミヤビAIの活用法は様々模索されてるが、トレンドの上位には自分の人格をいかにうまく投影するかという話題が占めている。
「性格診断の結果をみやびちゃんに送ったらまねてくれた。」
「俺の好みの女性を入力したらまんま片思いのあの子になった。」
「会社を休むために上司をうまく流す方法をみやび(上司)で練習した。」
自身を投影する人もいれば、他人を模倣させる人もおり、その構造はカオスと呼ぶにふさわしいものだった。
―――同日 都内某所
この日、しずめは繁華街を散策していた。
駅近くの大型モニターにはトレンドの動画などを放送することがあり、今日は有名配信者の動画が流れている。
「最近はバーチャルが流行ってるみたいだね。」
しずめは、あまり動画は見ないもののテレビや学校での会話でバーチャル配信者が話題になっていることを知っていた。
渋谷の街を歩きながら、センター街付近へ移動し始めた時、隣で信号待ちをする若者二人の会話が聞こえてくる。
「あの夏目メリダってV、お前の好きなやつじゃね?」
「そうそう。この前おすすめしたやつだよ」
「あーあの中の人をみやびちゃんで再現してもらうやつか」
どうやら、バーチャル配信者の企画で、ミヤビAIを使用した回があったようだ。
「にしてもあの時のメリダエグかったな。」
「ただのメンヘラじゃんって感じだよな」
「あ、そうそうこれこれ」
ちょうど大型モニタに表示された番組が、うわさの夏目メリダの配信だった。
―――動画内 夏目メリダ
「よっす!夏目メリダでっす!今日はね~ミヤビAIであそんでみようとおもってさ~」
陽気な若者をイメージさせる挨拶が、若者に受けているようだ。
「まずは、このミヤビAIに自分の情報を打ち込んでいくよ~」
メリダは、個人情報をモザイクで隠しつつ、実際の情報を入力した。
「なんか情報は多いほうが再現度高いみたいなので、適性検査の結果とかもおくってみるね~」
沢山の情報を入力した後、メリダはテキストで会話を始めた。
「まず...”最近どう?”って聞いてみよっかな」
ミヤビAIは彼女の現実の人格をまねて答える。
「最近彼氏が浮気してるかもって不安なんだよね~」
「ちょっとまって!!!」
明らかにプライベートな内容だった。
おそらく、中の人が本当に困っていることが返ってきたこともあり動揺している。
「まあ、気を取り直して...」
この後も動画内では、きわどい回答が続いた。
きわどいどころか、場合によっては個人の情報につながりかねないような情報まで述べるミヤビAIに半ば混乱するメリダ。
視聴者はあまり深く考えていないが、その危険性は明白だった。
―――戻って都内某所
「確かに、再現度はすごいと思うよ。」
しずめは、技術の進歩という観点では肯定的な評価を述べる。
「ただ、みんなまだ扱いきれていない。」
その通りだった。
人類は進歩の停滞を免れる代償に、早すぎる技術を得てしまった。
MoRSがそう決断したとは誰も知らずに。
しずめは、そっと周りを見渡した。
渋谷のセンター街には、危険性に気づかない若者が跋扈している。
その様子をみて、少し寒気を感じたのだった。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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