第68話 交わる境界
―――2026年 3月6日
休日の朝、しずめは雪乃と通話を行っていた。
「しずめ様。それは確かに危険かもしれません。」
話の内容は主に、ミヤビAIが使用されている点についてだった。
「この様なAI生成が横行すると、競争に悪影響を及ぼす可能性は大いに考えられるでしょう。」
「ですよね。でも、実際新しい発想であることはわかるんだけど」
「はい。今すぐに何かが起こるというわけではありません。」
危険性は十分にあるものの、緊急性という観点からは特別警戒するほどの事ではない。
「クラスメイトに一緒にやらないって言われたけど、それは大丈夫なのかな」
「それについては全く問題ありません。ただ、今後もミヤビAIを使用したコンテンツの増加が見込まれます。そのすべてが安全ではないことをお忘れなく。」
もちろん、どのデジタルコンテンツにも少なくない危険が潜んでいる。
ゲームはもちろん。画像加工のソフトウェアにも個人情報流出など、ありえないと思い込んでいるだけで、大きなリスクを孕んでいる。
だからこそ、自らの判断で危険を判別できる知識と観察眼が求められていた。
「分かった。じゃあひとまずはやってみるよ。」
「そうですね。あと一つだけ。もし、実際に触れてみた感想などをいただけると。」
「分かった!じゃあ」
しずめは安心した。
大佐や雪乃がいるMoRSが、この世の何よりもデジタル技術に精通していることは知っていた。
だからこそ確認したかったのだ。
―――同日 大佐の自室
「ご主人様。今日しずめ様から連絡がありました。」
雪乃は大佐に先ほどの件を報告する。
「ん?それはまたどういう経緯で」
「学校で新作ゲームについて、思うところがあったようで。」
「いいんじゃないか?しずめが娯楽に触れるのは課題だろう。」
「いいえ、そのゲームというのがこちらです。」
「あー...やはり彼女にとって、異変というのは切っても切り離せない要素なんだろうな。」
大佐は配布者としてミヤビAIの危険性は網羅している。だが、アド戦やその他の新規コンテンツについてはその危険性を推し量れずにいた。
だからこそ、大佐にとってアド戦のようなコンテンツは異変そのもののように見えている。
「大した危険はない。ただ、どこにも危険はあるという旨を伝えてはいますが...不安です」
「そうだな。もしも、雪乃に子供がいて、その子が同じことを言ったら君は同じ反応をするのだろう。」
「それはどういう。」
「それは母性だ。母として単に子供を心配するような。」
「そういう事ですか。すでに私やご主人様にとってしずめは子のようなものです。」
「そうだな。しずめは今後も重点観測を続けていれば大丈夫だろう。ただ。」
大佐は心配だった。AI技術の発展はその裏で人類の尊厳をすり減らす。
すり減らすというのは物理的ではない。
デジタルの進歩が見られた時代、人類の仕事が激減すると危惧されたことがあった。
それよりも大きく、更に広範囲で人類の得意とすることが奪われてしまう。
「人類がAIにとって代わることがあってはいけない。ただ、AIにもルールがなければ、少なくない規模で人類がAIに奪われることもあるだろう。」
「そうですね。デジタルとリアルの境目、それがなくなってしまうことだけは避けないければいけません。」
MoRSは自身の行いで起こったこの一見で新たな壁にぶつかろうとしていた。
次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。
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