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天上のダイアグラム  作者: R section
第5章 共感の贄

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第66話 進歩の結果

前回、次回は明日更新と予告しましたが、なろうの仕様で章設定が各話の間にしか付けられないので予定外で投稿しました。

―――2026年 3月1日

人類は進歩していた。


ミヤビAIという遺産は様々な分野で活躍している。


例えば、医療ではその感情模倣技術によって、入院患者のせん妄率低下を成し遂げた。


デジタル関連ではミヤビAIを使用して作られた疑似人格と会話をしたいという考えから音声入力機能に関する精度向上が多数の企業で行われた。


時々、ディープフェイクに悪用され、サイバー犯罪はある程度増えたものの、その利便性から消えることはなく、ひたすら拡大していった。


―――3月1日 MoRS本部 幽世


大佐は改めて、種子島での行動を雪乃に説明しようと面談室にいた。


「雪乃、これから説明するのは君に施したUPDATE2.0の話だ。」


「あの日、空の上で見たものは大佐が打ち上げたものだったのですね。」


「ああ、詳細については今まで伏せていた。それはすまない」


「いいえ、必要だから伏せていたということですよね。」


大佐は月軌道上でエイレーネが安定してもなお、雪乃にも詳細を話していない。


それは、実のところトップの多重化というタブーに触れるからである。


「雪乃は国家の頂点に立つものが二人いるとしたらどう感じる?」


「それは場合によります。二人の価値観がある程度一致していなければ不協和になりますし、とはいえ完全一致していたとすればそれは人間ではありません。」


「実に現実的な回答だな。だがその通り」


「人と人が同じ立場でいることの利点に、お互いに違うからこそ、刺激になって新たな発想が生まれたりする。」


「大佐がそういうのであれば間違いありませんね。」


「それに、もしも違い過ぎたりすると単純に関係が劣悪になって主目的に影響がでる。」


「ならば、一人が一般的な今は良いことではないでしょうか?」


「それも一つの選択だ。だが、もしも完全に同じかそれに近いものが二人で同じ目的で動くとするならば?」


「なるほど。そうすればある程度の刺激を与えたり与えられたりしながら、意見の食い違いから劣悪になることも限りなく少ないかもしれません。」


「そうだ。それにこれがAIならば記録的バックアップをお互いに保持することもできるだろう?」


「確かに可能です。」


「AIならばRAID構成による安全性確保と並列演算での能力向上がなせる。」


「まさかとは思いますが、エイレーネの二号機を検討しているのですか?」


「いいや。違う。エイレーネを宇宙に打ち上げたんだ。」


「本当に??本当に私を空に?」


「いいやちょっと違う。」


今回打ち上げたのはエイレーネのみだ。


雪乃というAIは今ここに一人しかいない。


月のエイレーネはその補助をメインとして、感情処理の中核をになう。


雪乃に内蔵されているエイレーネは雪乃という人格が持つ能力だが、雪乃の感情昇華によって負担が増えていた。


だから二号機という名目で、本来の人類感情の分析機構と選択提示機構としてのエイレーネは月のエイレーネが行う。


「君は雪乃だ。代わりなどない。だが月にはエイレーネがいる。たとえるならば、存在は同じ、だが姉妹のような存在だ。そう考えてくれ。」


あくまでも大佐の中では、雪乃という存在は一人の人間として扱っている。


「では、私は姉というわけですか。承知しました。」


世界が進歩する中で、MoRSも進化を続けていかなければいけない。


人類の調律機構であるからこそ、常に備えているのだ。



ついに第5章の開幕です。この章では、新たな要素が多数登場しますのでお楽しみに。


次回は明日更新。つづきを追いやすくするため、**ブックマーク(しおり)**で目印していただけると助かります。


また、作品のご感想やご意見もお待ちしております。厳しいご意見でも構いません。

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