第60話 神の意思
指令室の扉が開き、入ってきたのは大佐だった。
「すまない。予想以上に寝てしまった。」
「問題ありません。お待ちしておりました。」
雪乃が裾を持ち上げる。
「浅茅、それに一部の者は未だに平穏である現状をわざわざ崩すのには疑問を感じている者もいるだろう。」
「はい、大佐。私も組織の特別構成員としては納得はしています。しかし」
「私自身、可能性というだけで皆を動かしたことについては申し訳ないと思っている
。ただ、MoRSは倫理の守護者だ。その倫理観に関して、特別構成員としてではなく、一人の人間として疑問を感じているまま調律は行えない。」
「そう思われるのであれば、辞めて頂けると」
「そうではない。今回に限ってはこのまま押し通す。」
些か強引ではあるが、必要だからこそ行動を起こすと大佐は言う。
「だがな浅茅。せめて特別構成員である君だけは納得するように今から話をする。」
「そういう事ですか。傲慢なのか、それとも」
「その先は口にするな。」
「申し訳ございません。失言でしたわ」
その後、大佐は改めて今回の意義を説明した。
そして10分ほどたった後、浅茅はすべてが腑に落ちた顔をしていた。
「それでは、改めて私、雪乃から説明させていただきます。」
調律の概要はこのようになった。
1.ミヤビテクノロジーの役員の確保
2.ASAの検証
3.ASAが虚偽で、ミヤビテクノロジーが行った詐欺であることを公表
4.技術の進歩をとめると経済的損失になることを流布
雪乃が説明を終えると大佐は
「これは失ったことを恐れる社会を失敗を受け入れ成長できる社会に戻す作戦だ。皆心してかかってくれ」
訓示を述べた後、大佐は指令室を後にした。
雪乃は浅茅とともに全体指揮を執るために情報のすり合わせをはじめ、他の構成員も指示通り行動を開始した。
―――2月3日 都内某所
MoRS構成員の笠村は旧友と会食を行っていた。
「笠村...もしかするとお前のかかわっているという組織はとてつもないものじゃないか?」
「そうだ。あらかじめ言っておいただろう。」
笠村の旧友というのは、自衛官時代の友人で防衛相の重役だった。
笠村はテーマパークの一件の後、その旧友に大佐の調査を依頼していたがどうやらその結果が出たようだ。
「聞いていたとしても、これほどの人物はまあいないぞ。それにな...」
「どうした?」
「宇宙開発の件あっただろ。JAXAも少なくない被害を受けているんだが、そこに便乗してMoRS?だったかその組織のフロント企業がJAXAに支援をしている。」
「それのどこにおかしなところがあるんだ。」
「その見返りに宇宙探査用の衛星を積んだロケットを一基打ち上げるんだが、搭載されているものが非公開なんだ。」
「というと?」
「例の一件のあとでそれも今日打ち上げだぞ?非公開にする意味がない。」
「まあそれはいい。大佐について分かったことは?」
「何も。本名すらわからない。」
「国内の医療など福利厚生を使っているのか、CCTVなどの監視設備に映ったことがあるのか、そもそも存在するのかと何も出なさすぎる。」
「どう考えても事実は笠村の妄想だと証明してしまう。」
「それはない。実際に戦ったんだ。SATと」
「だろうな。死者が出たのは事実だし、笠村の証言は見ていないと分からないほどに鮮明だった。」
「でもここに来たってことは何かわかったからじゃないか?」
「その通りだ。別のフロント企業を見つけた。」
「まだあったのか...」
「それにそのロケットの打ち上げの前におそらくだが、量子コンピュータと記憶媒体をありえないぐらい手に入れている。」
「エイレーネ...」
「えいれー?なんだって?」
「ありがとう。恩はいずれ。」
笠村は慌てて駆け出した。
一体大佐は何をしようとしているのだろうか




