第57話 望まれない未来
進歩を急ぐあまり、膨大な資源が使用された。
それが嘘であると知らずに使われたとはいえ、日本だけでなく先進国の経済損失は大きなものとなった。
社会では、多数の人々が大きな損失が出るのであれば現状大きな課題がない以上発展すべきでないと考え出した。
―――2月1日 都内某所
「進歩を急ぐより、ゆっくり昔に戻りませんか?レトロ喫茶 明治へぜひ!」
昔の文化を基調とした喫茶店が呼び込みを行っている。
街行く人も懐かしい装いの人が多くみられる。
大手SNSでは、世界的にレトロキャンペーンなるものを行っており、古き良き文化を推奨する動きが大きくなっている。
「大佐、最新のトレンド分析では過去への衰退を望む意見が多数見られます。」
「いかんともしがたいな。」
大佐と雪乃も冬明けの都内を散策していた。
「昭和レトロなるものが最新トレンドの上位を占めています。」
「昔の流行は周期的にやってくる。それだけならいいのだが」
「確かにその通りです。少し前は平成に関する流行が見られました。」
「ただそれが、人類の進歩を妨げるものであってはならない。」
大佐は黄昏の空を見つめ、考える。
「雪乃、ミヤビを徹底的に調査しろ。」
「承知しました。デジタルな部分は私が行います。」
「アナログな部分は観測部と解析部に頼むといい。」
「はい。お任せを」
―――翌日 MoRS本部 幽世
観測セクターと解析セクターが忙しくする中、指令セクターで大佐は集まった情報を精査していた。
「大佐、今回の解析は必要なのですか?」
浅茅が大佐に質問を投げる。
浅茅にとって疑問だった。世の中が自ら望まないことや、明らかに崩壊する社会を未然にこっそりと方向修正するのがMoRSだ。
世の中が大きな失敗を経験して安定を望んでいるのに、大佐は未だにその事実を受け入れない。
「浅茅か、これは予想でも仮定でもない。ただ疑問だからだ。」
「というと?」
疑問はさらに深まる。
「あまりにもシンプル過ぎるんだ。なぜ特に利益もないのに企業はASAをでっち上げたのか。ただの嫌がらせにしてはNASAや他の国家機関の動きが過激すぎる点がなんとなくなんだが腑に落ちない。」
「それは大佐が認めたくないだけでは?」
浅茅は数少ない大佐の過去の一端を知る人物である。
それゆえ懸念もあった。
しかし、大佐が浅茅を特殊構成員として起用しているのは信念がありはっきりとものを言える根の強さと、女性でありながら毅然として指揮を行える統率力があるからだ。
「浅茅はそう言うと思ってた。しかし、これは根拠はないが懸念点がないわけではないから実行しているんだ。」
「確かにあまりにもとんとん拍子に進んでいますね。」
「その通りだ。念には念をということだ。君たちには苦労を掛けるが...」
「であればいいのです。大佐がただ混乱を欲したのでなければ」
「それに限っては2度とない。もういいか?」
どうやら浅茅は大佐の地雷に触れてしまったらしい。
「はい。それでは」
浅茅はデスクへ戻る。
大佐も内心では気づいている。
社会が変革を望まないのは事実であると
しかし、重大な見落としをしているかもしれないという不安が大佐を動かせていた。




