第56話 危惧される事案
MoRSが観測を続ける中、事態は加速度的に進行する。
「大佐、先ほどNASAが火星に基地を建造したとの報告がありました。」
「そうか。これで宇宙進出を果たしたわけだな?」
ついに人類は宇宙に橋頭保を得た。
ASAの実物は未だに後悔されない。
であるのにも関わらず、各国はこぞって宇宙へ足を進める。
「た、大佐!!」
「どうした。」
「ロシアの有人探査機が宇宙で遭難したとの報告が」
「ついに起きてしまったか」
「これはもう一種の戦争です。人命が安易に損なわれる」
「少し待ってくれ。我々が宇宙に行くことはできない。それに...」
ポロン...
指令室の端末にメッセージが入る。
「ASAの現物を確認できず、ミヤビは自然消滅」
実はMoRSには情報調査部がある。
というかその情報調査部が真のMoRS実動部隊である。
その情報調査部からのメッセージには、ASAが虚偽であり、主体のミヤビテクノロジーが消滅しているという事実だった。
「なんともタイミングが悪い。」
大佐は事故が起こる前にこの事実を発見したかった。
「仕方ない。NASAにリークしてくれ。」
ポロン
「了解。直ちに実行する。」
情報を受け取ったNASAは直ちに行動に移した。
NASAが確認したときには、そもそもミヤビテクノロジーが存在した証拠すら残っていない。
無駄に人命とリソースだけが割かれ、各国は大きな経済損失に見舞われる。
「雪乃、ひとまず収まるが余波が心配だ。」
「では、情報操作を行います。人類が進歩するのはもう少しゆっくりでいいと思わせることで、損失よりも進歩したことは事実だと称賛と批判の賛否両論に持ち込めます。」
「そうだな。ひとまずはそれで行こうか」
―――1月28日 しずめの学校
いつも通りの学校。
しずめは静かに授業を受けている。
授業時間が終了し、昼休みに入ってすぐ
「しずめちゃん、ニュース見た?」
「いや、見てないよ?」
「なんか、日本の企業がすごい詐欺をしてNASAが大変なんだって。」
「NASAってあのロケットとか作ってるNASA?」
「うん。すごく技術が進歩するってウソに騙されて。」
「へ~、それは大事件だね。」
しずめの学校でも例の事件が話題に上っている。
「お、笠原も興味あるの?」
男子のひとりが話にはいる。
「というより、そんなに急ぐ必要あるのかなって」
「そうだな。別に今のままでよくないか?」
「どういうこと?」
しずめが首をかしげる。
「だってさしずめさんも笠原も、今幸せだろ?」
「うんまぁ」
「技術が進歩しても俺らにはなーにも関係ない。」
「とはいえ生活が便利になることはいいことじゃない?ねぇしずめちゃん」
「それはもちろんありがたいかな」
「でもこの事件日本にめっちゃ賠償金が要求されているらしくて、下手したらまた去年見たいに不景気になるかもってネットで」
「それはいやだな~、あれはきつかったもん。」
「だろ?進歩なんてしなくていいんだよなんなら少し退化してもいいくらい。」
「ほんとだ。ネットすごいあれてるね。」
しずめはスマートフォンでSNSを確認した。
ほとんどが進歩を否定する投稿ばかりでトレンドには原点回帰など過去に退化するほうがもしかするといいかもしれないというツイートであふれている。
「まあ、なんにしても今のままが一番だよ。」
「そっか...」
社会では、停滞を望む声がほとんどだった。
進歩のために犠牲が出るのなら、それを望まないと。
実際にロシアの有人探査機は未だに宇宙をさまよっている。
日本もそれなりに責任を問われるだろう。
不景気がまた始まるのかと不安が社会を包み込む。
はたして、進歩を望むのはいけないことなのか。
社会は選択を迫られている。




