第55話 付随する進歩
アインソフオウルという新たな物質の発見が、先端技術界に大きな嵐を呼び込んだ。
―――AVER 翌日 JAXA会見
「我々JAXAはNASAと共同で有人宇宙探査を行います。」
JAXAやNASAなど、宇宙開発を目的とする機関は我先にと宇宙探査を行い始めた。
―――同時刻 アメリカ合衆国
「我が国はミヤビテクノロジーを迎え入れる用意があります。加えて、ASAの研究を支援します。」
様々な国と地域のありとあらゆる機関がASAに振り回されている。
中でもNASAはこの日、午後に有人探査機の打ち上げを行った。
その目的はASAを利用して宇宙の謎を解くこと。
NASAはこの物質が惑星の核であり、引き寄せる力が有機体に作用した場合、外角を形成して惑星になると予想している。
ASAと同様の物質が観測できるかどうかをほかの地上惑星で研究を行うようだ。
―――1月25日 MoRS本部 幽世
大佐はASAの騒ぎには一切動じていなかった。
というよりもはや気を抜いている。
「大佐?」
雪乃は珍しい姿に疑問を感じる。
どうしてアロハシャツを着用し、カクテルを飲んでいるのか
AIである雪乃には何もわからない。
「大佐...それはどっちなんですか?」
「ん?大まじめだよ。」
「いえ、だとしても何故?」
「しばらくは何もできないんだ。」
「というと?」
「今、世界はレースをしている。しかし、あまりにも遠くの土地にあるものをいち早く手に入れるため、特に妨害などはない。」
実際のところ、MoRSは進歩を高く評価している。
進歩の妨害をするのであれば、MoRSはそれを元に戻すだろう。
「これは非常に喜ばしい。国家という不完全な枠組みが一つの物質をめぐって競争しているんだ。」
「進歩の過程だと?」
「ああ、だから私はここで見守っている。」
「調律ではなく観測だと。」
「もちろんだ。雪乃も水着にでも着替えてきたらいい」
「は...はい。」
もちろん大佐は遊んでいるわけではない。
というか逆だった。
口ではうれしいことだと肯定しているが、実はあまりにも早い進歩を危惧している。
第三次世界大戦の引き金になってもおかしくないことや、そもそもASAの実物はいまだにミヤビテクノロジーが公開していない。
下手すれば今世紀最大のマッチポンプの説もあり得る。
だが、宇宙で戦闘が起こったとて、MoRSには何もできない。
ただ地球上で上層部に圧力を加えるなど防ぎようはある。
どう転ぶかわからない以上、気を休めつつことの行く末を観測するほかなかったのだ。
大佐と雪乃は気を抜きながらも観測を続けると、数時間立った時、NASAが火星ではASAと思われる物質は観測できなかったと発表した。
ISSで、各国と共同でASAについて調査を継続することを決定した。
今だ、破格の能力のわりに、詳細があいまいなASAを巡った騒動はより一層複雑になるのであった。




