第54話 未知という暴力
国際先端技術シンポジウム、通称AVERに参加している大佐と雪乃達だが、今回はある情報を得て、別の目的で参加しているようだ。
講演スペースでは、アメリカの企業が多客型配膳ロボットのプレゼンを行っており、観覧する人々は様々な反応を見せている。
それなりの拍手で講演が終わり、次の発表者が登壇する。
「ミヤビテクノロジーです。今回は新たに発見された新種の物質とその生産法についてお話します。」
社名を聞いて雪乃が大佐に耳打ちをする。
「あれが例の企業ですね。」
大佐は頷きで返答した。
「まず、我々の開発部が欧州原子力開発機構と共同で発見した物質についてご紹介します。」
会場がどよめく
一企業でましてや日本の企業が欧州の先端技術の中核と共同するというのはとても大きな意味を持っている。
欧州原子力開発機構といえば、エンジニアの2人の話にも出てきたCERNだ。
一部ではタイムマシンの開発をしているなどといううわさが出るほど、大規模かつ広大な先端技術の研究を行っている。
「その物質を我々はアインソフオウルと呼んでいます。便宜上、ASAと呼称しますが、その物質は現在確認されている物質の中に存在せず、極めて膨大なエネルギーを内蔵しています。」
更に会場がどよめく。
中には会場を飛び出す者もいた。
「ASAはいわゆるダークマターと呼ばれるもので、重力エネルギーを発生させる物質です。」
「この物質に半減期は存在せず、特殊な規則性のある動作を行います。」
会場内にはどよめきに加えて各々が所属する組織へ連絡を始めた。
収集がつかなくなるほど大荒れになったが、未だに講演は続く
「この物質は重力を発生させており、ほぼすべての干渉を受けず吸収します。その後自身の許容量を突破すると周囲に光エネルギーなどを放出し、再び吸収を始めます。」
物理学、天文学、化学、力学などありとあらゆる分野での利用が考えられるASAは社会に大きな影響をあたえるだろう。
「その他の詳しい情報はHPにて開示を行います。なお、各研究においてASAを利用したい場合は当社までお問い合わせください。」
講演が終わり、あまりの破格の価値から質問会が設けられた。
当然、生成について質問がでた。
「日本原子力開発局です。このASAという物質はLHCなどで偶発的に生成されるものなのでしょうか。」
「生成については危険性の観点からこの場での詳しい回答は差し控えますが、設備が整っていれば意図的に生成できます。」
「では、次の方」
「米国先端技術開発局です。ASAはどのように管理されるべきものなのでしょう。」
「はい。これについては特殊な装置が必要になります。我々ミヤビが開発した専用の装置でのみ保管や運用が可能になります。」
様々な質問があり、その場は終了した。
「大佐、これはもしかすると?」
雪乃が心配そうな表情を浮かべる。
周囲には明らかに一般の物ではない人物たちが増えている。
「このレベルになると価値をつける方が難しい。」
「はい。とりあえずいずれの機関も独占を狙うでしょう。」
「北田たちを撤収させてMoRSPMに工作員の排除を」
「すでに手配済みです。」
未知の価値を求めて、ひそかな争いが始まろうとしていた。




