第53話 人類の進歩
―――2026年1月23日
年が明けてしばらくたった時期
新しい年に振り回されている中、MoRSはしばらくの休暇を終えようとしていた。
観測は規模を縮小して続けていたが、特別異常は発生していない。
そのため、通常の観測体制に戻ることになる。
それに伴って、新年の点検業務が行われており、MoRSの観測員たちは、本部内の観測機器を点検している。
「最先端技術の詰め合わせだからものすごく点検が複雑ですね。先輩」
「ああ、そうだな。だがこれでもダーパやセルンの機器に比べたら大したことはないさ。」
新人観測員の北田とその先輩である野村はエンジニアとして働く傍ら、機器のメンテナンスと観測任務を行っている。
「そういえば、我々の技術ってどこからきているんでしょうか?」
「それは誰にもわからないんだ。技術として、利用できるし単に進歩しているといった印象だ。明らかに一般社会より数十年は先の物だろうな。」
「ですよね。米国や国連の先端技術のプロトタイプの完成品?みたいな。」
「しっかりマニュアルもあるし、あまり深入りはするな。」
「はい。」
MoRSの技術力は大多数の利用を目的とせず、完成品の運用だけを行っているため、規模や実験などの観点でみれば、各国の先端技術の方がすごいと言えるだろう。
だが、明らかに時代の先取りをしているとしか考えられない。
その技術力の出所は、殆どの人員が知らない。
「そういえば、先端技術について興味があるなら、今度国際交流会があるぞ」
「それって誰でも出席できるわけではないですよね。」
「もちろんだ。だが今回は大佐が俺ともう一人後進になる人材を連れて二人で行けってお達しがあってな?」
「本当ですか?ぜひ行かせてください。」
かくして北田と野村は国際先端技術シンポジウム 通称AVERに参加することになった。
―――2月1日 東京 AVER会場
「大佐。お待ちしておりました。」
「ああ、野村さん。今日はおそらく大荒れになると思う。だから北田の事をしっかりと見ておいてくれ。」
「...!分かりました。」
北田と野村の他にMoRSのフロント企業の重役として、大佐と雪乃が参加することとなった。
実はフロント企業の社員として以前より野村はこの手の会に参加している。
先端技術の中でも、更に先端技術を扱うMoRSにとって、現在の社会における技術がどのレベルなのかを知ることは非常に重要な要素となっているからだ。
ただ、今回は大佐と雪乃が直々に参加する運びとなっていることから野村はある程度、不測の事態があると踏んでいた。
会場には、兵器転用できるレベルの高度な技術の数々が展示されており、奥にあるステージでは、各企業や国家機関が順にプレゼンを行っている。
「北田。これはMoRSにすでに導入されている感情予測に関する技術の一端だ。」
「あれってこのセンサを使用してるんですね。」
北田と野村は、様々なブースを回るようだ。
大佐と雪乃は、展示会場の奥にある講演スペースに向かう。
「大佐。本当にここで発表されるのですか?」
「Dによるとそうらしい。」
「しかし、何故独占しないのでしょうか。」
「表向きは企業が発見したから利益のためだろうな。」
「ですが、危険では?」
「ああ、それに別の意図があるかもしれない」
新たな脅威の予感がする。
技術の進歩はとどまるところを知らない。
しかし、進歩の代償はいずれ人類に降りかかる。
その時、MoRSは再び調律を行うのか?
新たな暗雲が社会を飲み込もうとしていた。




