第49話 価値の創造
12月14日 早朝 MoRS本部 幽世
「大佐、すべての準備が整いました。」
雪乃はすべての終わりを報告する。
「ああ、後は米国の対応次第だな。」
「はい。基本的なことですが、我々の予測した最悪は訪れないでしょう。」
いったい何をしたのか、先日まであれほど逼迫していたMoRSは非常に落ち着いている。
「大佐、これほどまでに一国家に干渉するのはあまり良くないかもしれません。」
「そうだな。だが、私は一応日本人だ。日本の国家が危機に瀕しているときに助けられないようでは世界の調律なんてものはできないだろう。」
「ええ、もちろんその通りです。」
「だが、このような作戦はできれば避けたい」
国家に肩入れすると、他の国家からの支持を失う。
それは世界調律を目的とするMoRSにとっては避けなければいけないことであった。
「だが今は、我々の調律を最後まで完遂しよう」
「はい。12時00分より、日本国の記者会見が行われます。」
12月14日 正午 国会議事堂
円という概念に金銭的価値が失われてしばらく、独裁的な措置に国民は嫌気がさしていた。
その国会では、依然として財務的な議題が続けられていたが今回は別の分野について話し合われる。
「今回の国会では、我が国で看過できない外患における工作があった件について議論します」
議題の内容
それは、CIAにおける日本国総理大臣の拉致監禁、および円に対する経済工作だった。
公開国会で堂々と発表される議題に世界中が驚く。
MoRSが行った総理と少女の拉致監禁、それに円の価値に対する工作がすべてCIAに擦り付けられた。
もちろん米国は公式にこの事実を否定した。
但し世界は全く信じない。
しかし経済に大きな影響を及ぼしたことは事実で、それはドルの価値を下げるのには十分なものだった。
そしてこの偽の事実と同時に行われたのが円の段階的廃止と、健の発行についてだった。
円という通貨を取りやめ、新たに健という通貨を発行する。よっていずれ円での取引は今後無効になる。
現在所有の円については手数料なしで健に変換できると
但し、健のレートは円と同じく1円=1健
もちろん外貨としても円と同様の扱い、更には一時的に禁止していた民間のインフラや生活必需品の取引を再開すると
よって日本は独自の通貨の価値を取り戻した。
ドルの価値が下がる今、健は円に比べて大きな価値を持った。
まさしく価値の創造だった。
米国はこの事実に対して厳しく非難したが、日本は断固として米国工作の言い分を覆さなかった。
更には、円の消滅で国家の抱える負債がなかったことになり、結果として一から経済をスタートしたような結果になった。
このことをとある専門家はメディアのインタビューにこう答えた。
「もしも、CIAの工作がマッチポンプであれば、それは稀代の天才が考えた経済復興プランに他ならない。」
事実は間違いなく闇にある。
しかし、それを知る者はいない。
――――EIRENE:調律完了




