第48話 選択という覚悟
―――2025年12月6日 17時00分 霞が関 一般オフィスビル 最上階
MoRSPMを使用して大佐は総理大臣を確保した。
それからしばらく、何もしゃべらない総理に対して
ただひたすら静観する大佐だったが
雪乃がもう一つの作戦が危機的状況だと伝える。
「大佐、恵比寿が限界です。あと数分の猶予しかありません。」
「…」
しかし大佐は答えない。
刻一刻と時間は過ぎていく中、これほどまでに落ち着いている大佐をみて
MoRSPMの隊員は恐怖すら覚える。
この静観の裏では、MoRSの資金が湯水のように消費され、また一方では日本人同士の命の奪い合いが行われているというのに
何もしない。
ただひたすらの沈黙
すると、総理が固く閉ざした口を開いた。
「どうすればいい?」
日本国の総理大臣という職に就くためには、類まれなる才能が必要だ。
それは考えるまでもない。
総理大臣は大佐の無言から意味を悟ったのだ。
「ようやく理解できたか。どこまで理解した?」
大佐は確認する。
「経済破綻、その根本の修正か。それに私に拒否権はない。」
総理大臣は理解していた。
「米国はこういうとき、乗っ取るのではなく過大な恩を売りつけるんだろう」
「そうだな。」
「そして支配せず。傀儡を作る」
「だとして、君に何ができる?」
「何も、だから聞いたのだ。どうすればいいかと」
大佐の思惑通り、間違った正解を理解した。
「まずは国内のインフラや生活必需品を現在の円で国が買い取れ、そして緊急法案として、生活必需品やインフラをすべて国が均等に分配する。金銭での取引を中止してな。」
「それは独裁だ。民主資本主義の原則に反する。」
「だとしてもあなたに拒否権はない。」
「分かった。それで?見返りに何を要求する?」
「なにも、ただこのことはあなた自身が考えたものとして行うことだ」
その後、しばらく話をして、総理大臣の目つきが変わった。
今までは”悲劇のヒロイン”のような顔だったが、”決死の覚悟”の顔になった。
そして大佐はその場を後にした。
総理大臣は解放され、すぐに緊急国会が開かれた。
そこで議論されたのは、国がすべての生活インフラと生活に必要な物品を買い取り、配給制にするという事、それと該当のすべての物に取引を禁止するといったことだった。
外貨としての円は何の価値もないものとなったが、国民は生存できる。
そして娯楽も楽しめる。
何も変わらない。
只、それは独裁だった。
しかし、それまでが地獄だった国民にとって、その独裁は飴だ。
「食べ物がないよりはいい」
「つかえるかもわからない通貨しかないのなら、配給制は非常にたすかる。」
様々な意見が寄せられたが、概ね肯定をしている。
ただ、独裁は続けば毒になる。
それを日本が理解しているのかどうかは未だわからない。




