第39話 疑念の増加
翌日 11時00分 都内某所
事前にMoRSは飽和作戦を展開したこともあり、崩壊に至るほどの情報偏向はなかった。
今まで通り、レプリカでもデザインが良ければ満足する人や、本物でないと納得できない人など、個人によって意見が異なっていた。
平凡な日常の中で、しずめは生活用品を買いに複合施設へと足を運んでいた。
様々な専門店が隣り合う複合施設では、店員がタイムセールのお知らせを告げる声や人々の雑談が日常を演出している。
「とりあえず、ドラッグストアでトイレットペーパーと・・・」
買う物の確認をしながら通路を歩き、目的地へと向かうなか、とある店舗が目に留まった。
「ルイス・ヴィンテンって有名なブランドだよね。」
特段興味があるわけではなかったが今日はなぜか気になった。
しずめにとって、興味以外の気になるものの多くが、異常な存在である。
経験に基づく直感が、その店に行けとささやいている。
気づいたときには、何気なく直感に誘導されてルイス・ヴィンテンに足を進めていた。
「やっぱり高いね。」
当然だが、到底中学生には買えない金額の商品ばかり陳列されていた。
「う~ん・・・でもなにか気になる。」
もやもやとした気持ちが心の中を埋め尽くした。
言葉にするのはとても難しいが、何かがある。
直感はそう告げていた。
暫く店の前で考えを巡らせていると、いかにも金持ちといった風貌の夫婦が店に入った。
するとすぐに店内から何から言い争うような声が聞こえてくる。
しずめは気になって聞き耳を立てた。
「これここで買ったんだけど偽物だって査定でいわれたのよね」
どうやらクレームのようだ
店員は慌てて履歴を確認している。
幾つか確認を行ったり、客が怒りをあらわにしたり、やり取りが続いたが
最終的には店員から
「査定はあくまでも見る側が一方的に決める者ですので
当店で購入された履歴も証明ある以上査定した者のミスでしょう。」
と結論が出てその場は収まった。
そのやり取りを見ていたしずめは違和感を募らせていた。
「(そこまで本物にこだわるって生きづらいと思うけど)」
純粋な疑問がこころの中を埋め尽くす。
そして、気づいたときにはすでに走り出していた。
答えを知っているかもしれない人物のもとへ
――11月29日 18時00分
しずめが向かった先は廃線の高架だった。どんよりとした空気が、薄暗い雰囲気を醸し出しているそこはMoRS本部への入り口の一つだった。
高架下の壁面にスマートフォンの絵が描かれている。一見すると落書きにしか見えないが、よく見るとMoRS支給の携帯型端末と瓜二つである。
「もしかしてかざせってことなの?」
しずめは恐る恐る端末を絵に合わせる。
すると殆ど音を立てずに壁面に扉が現れる。
「うん。聞いたことないよね。無音の隠し扉なんて」
若干呆れ気味にしずめが呟く。
純粋な少女は真実を求めて先へと進んでいく。




