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天上のダイアグラム  作者: R section
第3章 価値の器

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第38話 偽物の意味

11月27日 MoRS本部 観測セクター 第二観測室「フェノメノン」


普段と変わりない日常が流れる中、MoRSは欠かさずは観測を行っている。


一般のデジタル通信やCCTVの観測データから異常行動や問題が生じると

アラートを表示するシステムが存在し、それによって最低一名の人員での観測を可能にしていた。


そのシステムは「フェノメノンプログラム」と銘打たれており、現在は中古品に関連する施設などを重点観測対象としている。


今日は二人の構成員がフェノメノンプログラムを用いて観測の任についていた。


「異常波形の総合値が若干上昇しているな。」

一人の構成員が異変に気付いた。


「類似した事象が過去になかったかどうか調べてみるよ。」

「ありがとう。ただ誤差範囲とも取れるからあまり深くは考えないように」


「了解。」


都内の観測値が若干上昇傾向にあった。ただ、ごく微細に変動している。

観測警戒態勢でなければ、誤差として放置するが、念には念を入れるに越したことはない。


一人が解析セクターに類似する事象がないか解析を依頼していた時だった。


ついに悪意がその牙を見せた。


都内某所のとある質屋、そこに若い女性がブランド物のバッグなどを売ろうとしていたが、そのすべてがレプリカであると査定を断られていた。


その日は同様の事象が数件起こっており、そのほかの質屋でも同様の状況だった。

それを受け、偽物の大量流出の可能性があるとみて、フェノメノンプログラムは異常発生の報を発した。



同時刻 都内 大佐のオフィス


数回にわたってカウンセリングを行っていた対象が今回をもって終了となる。

それは患者が著しく回復したという喜ばしい出来事で、普段は静かなオフィスの中では大佐を含め様々な笑い声が響いていた。


「田中さん。それにしても見違えましたね。」

「有難うございます。無事仕事も決まって、やっと肩の荷が下りました。」


「今後も困ったときにはいつでも相談しに来てください。」

「助かります。ですが私はもう大丈夫です。」


「それでは、お疲れさまでした。」

「先生、雪乃さん。ありがとうございました。」


最後の挨拶が終わると、オフィスに静寂が戻る。

それに合わせて雪乃がフェノメノンプログラムからの通達を伝える。


「大佐、異常が観測されました。」

「詳細を」


静寂を取り戻したオフィスは、瞬時に緊迫した空気に変わる。


「偽物に関する情報の値が、なだらかに低下中です。偽ブランド商品の発覚が都内で相次いでいます。」


「ついに来たか。」

「加えて、偽物に関する事柄すべてに対して、感情値が急速に低下、負の値になりました。」


異常を観測してから、急激に悪化の一途を辿っている。

大佐に報告されるまでの数分で、人々の偽物に対する感情はマイナスに偏っていた。


「このままでは、認知的不協和の加速が始まってしまう。雪乃、早急に飽和意見の流布を行ってくれ。」


「了解しました。それでは、偽物でも良いという意見をSNSを主体に展開します。」


偽物に対して負の感情が強まると、疑心暗鬼になってしまう。

それを防ぐため、偽物が悪だという意見を偽物を許容することで飽和させる。


MoRSが動く。


事態は大佐の予測を未だ出ない。


――――EIRENE接続確認 調律開始

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