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天上のダイアグラム  作者: R section
第3章 価値の器

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第37話 占領する話題

翌日 早朝 都内某所 しずめの学校


朝の陽気と静けさが心地良い空間を演出する教室、しずめは静かに本を読んでいた。


「この本、面白いのかな...いまいちわからない」


未だアイデンティティが確立していないしずめには、趣味と呼べるものがない。

そのため、学校と家を往復するだけの日常が続いていた。


”自己の精神を保つためにはなにかしらの娯楽が必要だ。”と以前、大佐が言っていたことを思い出したしずめは雪乃から数冊の小説をもらっていた。


暫くして、徐々に生徒が登校し始める。


「昨日、ママが使ってたスマホが急に使えなくなって大変だったんだよね」

「えー美嘉の家も?」


連日話題になる程の被害が出ていることもあり、偽物事件は大きく社会に打撃を与えていた。

それはしずめの学校に通う生徒はもちろん、その家族も例外ではない。


「あ、しずめさん。」

同じクラスの女子生徒がしずめに話しかける。


「あ、おはよう。」

「しずめさんは大丈夫?」


「何の話?」

「スマホ事件の話、一人暮らしでスマホが使えなくなったら大変だから」


「あー、あれね。大丈夫、そういう部分は割と頼れる人がいるから」

雪乃を含めMoRSの人達に対するしずめの信頼は厚い。


そもそもしずめの個人端末はMoRS特製であるため、心配はないのだが

そのことよりもしずめは信頼している人がいることに安心していた。


「優紀は大丈夫なの?」

「私も大丈夫、兄さんが機械系得意だから。」


優紀とは、“鹿島 優紀”しずめのクラスメイトだ。

とある出会いからしずめと仲良くなり、近頃はよく会話をしている。


何気ない会話をしていると始業のチャイムが鳴り、各々席に着く。


「よーし、じゃあホームルーム始めるぞー」

担任の教師が開始を宣言し、授業が始まる。



――――数時間後


お昼休みが終わり、眠気を誘う午後が始まった。


今日は社会科の授業であったが、少し変わった話題を取り扱っていた。


「今日は今、社会で問題になっている偽造スマートフォンについて考えてみよう」

「先生、それって今ニュースでやってるやつですか?」


「ああ、みんなの中にも被害にあった人がいると思う。今後も、そのような詐欺商品に騙されないために、今日は授業をしようと思ってな。」


時々、突飛な話題を取り扱う教師に、しずめは少し不思議な気持ちを抱いた。


授業が終わり、四限目前の休み時間、教室の至る所でその話題が飛び交ったのは言うまでもない。



―——同日 夕暮れ 学校の帰り道


近頃しずめは優紀と駅まで帰ることが日課となっている。

変わらない日常に満足していたしずめだが今日は違った。


しずめの中には、少しばかりモヤモヤがあった。

それは、自分の持つスマートフォンが使えなくなるかもという不安ではない。


「みんなあの話ばっかりで面白くない。」


自分は大丈夫という慢心ではなく、ただ今まであまり普通ではない暮らしをしていたしずめにとっては、道具の一つぐらい壊れたとしても大したことではないからだ。


初めて普通の暮らしを手に入れたしずめにとって、学校はかなり新鮮なものであり

そのすべてが面白いと感じるものだった。


「しずめさんは困らないの?スマホがなくなったら」

「あまり困らないかな。だって最近持ったばかりだし。」


「そうなんだ。それってお母さんに買ってもらえなかったとか?」

「違うよ。ただ必要なかっただけ。」


現代の若者としては珍しい回答に優紀はぽかんとしていた。


「SNSとか見たり、写真撮ったり何でもできるのに?」

「できるけど、SNSなんてみて何するのって感じ。」


「ふぇ...」

優紀がおかしな様子になる。


「優紀はどうなの?」

「私は困るかな。何もすることなくなるし」

「そっか。そういう物なんだ。」


しずめにとって普通は普通じゃないと分かっていても、普通を知らないしずめにとっては理解できないことだった。


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