第33話 意外な行動
甲斐の店へ行った日の夜、大佐は自室で今までを振り返り
可能性を模索していた。
連続して“敵”の存在が見え隠れしており、“敵”は明らかに高度な知能を持っている。
言うなれば世界の真理に気づくことができる存在。
それほどの頭脳を持ちながら、ただ悪事に用いている。
「破滅の王とでも呼ぶべきか」
白票騒動では、心当たりのある手段が用いられた。
それは、以前大佐がまだ若かった時のこと
以前はもっと人間が嫌いだった。
善意でアドバイスをしても理解されず
意見を求められ、意見を述べても腫物扱いされる。
積み重なった理不尽が心に影を落とした。
類まれなる頭脳をもっていることは必ずしも得ばかりではない。
人のイヤな部分も理解できてしまうし、自分以外の人間が小さく見えてしまう。
自分の考えは先を行き過ぎて理解されないこともある。
その結果、エイレーネ計画を見出すまで、大佐は世界を滅ぼすしかないと考えていた。
その時に思いついたのが、革命という手段だったのだ。
国家を一度リセットして、裏ですべてを再構築する手段
それを成しえる術も考えた。
ある一件を経て、大佐はエイレーネ計画を立案し、自らの手で実行している。
故に一件がなければ、大佐は誰にも阻まれず、魔王となったのだろう。
それがなかったのが破滅の王なのだ。
などと情報をまとめ、過去を振り返り今後について考え始めた矢先
「ご主人様、よろしいでしょうか?」
部屋の外から雪乃が入室を求める。
「ああ。入っていいぞ。」
「先ほど、雪奈様と談笑していたのですが、いろいろアドバイスをいただきました。」
「何のアドバイスだ?」
「それを今から実行しますがよろしいですか?」
「ん?ああ。」
どうせ大したことではないだろうと高を括っている大佐だったが
雪乃は思いのほか大胆な行動にでる。
「それでは失礼します。」
大佐を椅子から持ち上げて隣にあったベッドへ投げる。
「ちょっ?!え?」
大佐は驚きのあまり言葉が出ない。
雪乃は感情型AIとしての核と新人類創造計画によって、人間としての倫理的部分を持ちながら、人類を逸脱する高い能力を有する体を持っている。
要はとてつもなく高い身体能力を持った頭脳明晰な人間ということだ。
ましてや考えることが仕事の大佐ではかなうわけがない。
「少しおとなしくしててください。」
そう告げると雪乃はおもむろに衣服を脱ぎ始める。
「ちょっとまて、雪乃それは」
さすがの大佐もなんとなくどういう事を成そうとしているのか理解できた。
「どこかの誰かさんがこだわり抜いてくださったおかげで、私には繁殖機能が搭載されています。」
雪乃の肉体構造は概ね人間である。筋肉や内臓機能の一部を機械的に置換しているが
重要な器官は人工的につくられた人間の臓器である。
そして、異性に対する愛という不完全な感情を理解するために、人間と同様の繁殖器官が備わっている。
総じて人間に必要なものはすべて備わっているというところだ。
しかし大佐には理解できなかった。愛情という感情を持っていないわけではない。
大佐が色恋を避けていたから理解できなかった。
「そういう事じゃない。」
「ではどういう事でしょうか。」
もちろん。行為は可能だった。故に雪乃は困惑する。
「この先をするということは、私も後戻りできなくなる。それでもか?」
「もちろん。そのつもりです。それに今でなければいけない気がします。」
雪乃は引かない。
ましてやこの先待ち受けるであろうすべてを理解した上で望んでいた。
そこから二人はただ流れに身を任せた。
そして眠りにつく。
今はすべてを忘れて。




