第31話 疑念のある品
2025年11月5日 東京都 秋葉原
白票事件から数日たったころだった。少しの寒さが人々を包み、人々が衣替えを考える季節、大佐は珍しく一人で秋葉原を散策していた。
「やはり海外からの観光客が多いな。」
平日にもかかわらずオーバーツーリズムの影響でもはや外国人しかいないのではないかと錯覚するほどにぎわっていた。
「用事を済ませて帰るか。」
大佐は基本仕事以外で人とかかわることを好まない。
故にたくさんの人がいるこの空間は苦痛に感じていた。
それでもわざわざ向かったのはあるものを購入するためである。
“サイバーメイドⅡ 初回限定版”
それは日本が生み出した最高の創作物である。
あまりの人気に一時期は入手困難で10年たった今ではプレミアのつくゲームだ。
その初回限定版が未開封の状態で入荷したと買い取った店から連絡を受けてすぐ
大佐は値段や状態を聞く前に飛び出し、今ここにいる。
JR秋葉原駅から数分歩いたところにある廃墟にしか見えない商業ビルの二階
オフィスのような入口を抜けると
「お~来たか。」
「例の物は(渋い声)」
「もちろん。お前が来ると思ったから置いておいた。」
「さすがだ」
小さい店ながら、取り扱うゲームや関連商品は希少なものばかりの店内
外見からは想像できないほどの商品の密度が店主のこだわりを感じさせる。
「しかしなぁ、よくもまあこんなマイナー作品のために・・・」
そうぼやく店主は大佐の学生時代からの友人である“甲斐 将人”だ。
甲斐は学校を出てすぐ、大手のネットワーク会社に入るが、数年で退職
その後この店を開き、今では知る人ぞ知るゲーマーの聖地となっている。
「それはもう。私の人生だ。」
「そんなことを言ってもまけてやらんぞ。」
「サイメイに失礼なことはしない。適正価格で買わせてもらおう。」
「でもなぁ…」
甲斐は何か引っかかるところがある様子だ。
「それでいくらなんだ?」
「900万円だ。」
「う~ん別に払えないわけではないが。」
大佐はサイバーメイド関連の商品に対する価値観が狂っている。
いくらプレミア価値があったとしてもせいぜい数十万円程度の値段が相場だ。
どう考えても法外な金額だった。
しかし、サイバーメイドⅡは正規品以外も出回っているにもかかわらず
必要以上に凝ったパッケージデザインが施されており、正規品か否かは見てわかる。
今回の物は明らかに正規品であり、色あせや劣化等がなく、開封されていない物というのは、この世にもう一つあるかどうかわからないレベルの品質であった。
「この状態であれば相当な値が付くのもわかる。」
「そうだよなぁ。マイナーオタクの目線からもそうだよなぁ」
「何が引っかかってるんだ?」
「それがな。」
どうやら甲斐はこの商品を明らかに怪しい外国人から買い取ったらしい。
あまりにも怪しかったため、当初は断る気でいたが、大使館に確認すればその人物は重要人物であると説明された。
あげく、最悪国が保証するとまで言われ、逆に怖くなって買い取ったという経緯だった。
「なるほど。いわくつきか。」
「そうなんだ。だから少し保管してていいか?」
「構わないよ。もしも店頭に並ぶことになるときはその前に連絡してくれ。」
「助かるよ。」
甲斐は少し安心した様子で仕事に戻る。
「少し残念だが仕方ない。」
「何が残念ですか。安心しましたよ。」
そこには雪乃の姿があった。




