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天上のダイアグラム  作者: R section
第2章 世論の枷

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第25話 決壊する群衆

翌日 9月1日 8:45 MoRS本部「幽世」 観測セクター 第一観測室


「我々の投じた作戦は、今や対立の材料になりつつあります。」

雪乃は表情を崩さない。しかし、その心にはしずめを含め、声を上げた者たちに申し訳ないという後悔の念がこもっている。


「大昔、私が考えた計画では、指導者を擁立して効率的に国家を再構築することに重きを置いていた。」

「大佐の計画とは異なるということですね。そうなると大いに後手に回りますよ」


MoRSの行動は基本的に後発的な対応になりがちである。

だからこそ、観測と分析を常に行い、いち早い干渉を行う準備をしている。


「大きな相違はない。ただ、考え方が少し違う。おそらく“効率”ではなく、限りなく“自発的”に重きを置いている。自らが上に立てば、いずれその国家は第三の革命行動によって崩壊する。」


それは歴史が物語っていた。簒奪した国は例外なく長続きしない。

それに国民が革命という飴をしってしまうと連続してその飴に甘えてしまう。


「とすると、目的は国家再構築のための革命ではなく、国家分断による崩壊。」

雪乃は高速でその可能性を演算した。


始めから存続させる意思がない。

国を良くしようとする善意ではなく、ただ己がための悪意

だからこそ、壊すことに重きを置く。


「確かに、その可能性は現状の情報から予測できます。しかし実行する意味が不明です。」


雪乃は疑問だった。

現代技術から逸脱した存在、その上演算に特化したAI

その雪乃にとって天敵ともいえるものがある。

それが感情だ。


「君にもそのうち分かる。」

大佐は知っている。

“感情“その欠点を克服するための雪乃という存在であることを



翌日 都内某所 公示日当日 街頭演説会


暗雲が立ち込める社会とは裏腹に、空は澄んでいた。

国内有数の規模を誇る第一党の党首が応援演説を行っている。


「―であるからして、事実日本国の政治には、確固たる覚悟が・・・」


練りに練られたであろう聞こえのいい言葉が、会場に広がっている。

白票の嵐が近づいていることを誰も気にも留めていない。


暫く演説が続き、支持者の熱も高くなった時、一人の若者が声を上げた。


「少なくとも、あなたには入れたくない。」


周囲がざわつく。


「あなたにだけでなく、候補者の誰にも入れたくない」


若者は続けて意見を述べた。


警備の人間が制止を試みるが、すでに遅い。


「私も、入れたい人がいない。」

「中身のない演説なんて、騒音と変わりない」

「うるさいぞ。よそでやれ」


多くの人が、先の見えない不安を心の中で秘めていたが

社会という枠組みが、意見を述べることを許さなかった。


しかし、破裂寸前の風船のように、少しの衝撃を加えるだけで

爆発的にすべてが漏れ出す。


すぐに群衆の怒りの矛先は演説を行う人物に向き始めた。

集団を支配した不安が、演説者への刃となる。


民衆の意見は過激化し、あわや暴動に発展しかねない危機的状況だが

しかし、そうはならなかった。


「入れたくなければ入れなければいい。誰もいないなら白票でもいい」


スピーカーを通して増幅されたその言葉は、一瞬周囲の動きを止めた。


「私は白票を支持する。ないことが意見だからだ」


誰もが可否を判断できないその意見の答えを述べた声

その声の主は街頭演説を行った候補者本人だった。


候補者自身が白票を支持すること、それが如何に大きな出来事だったかは言うまでもない。


一部では指示を集めるためのデモンストレーションだという者もいるが

《一瞬にして燃え上がった群衆の熱が一瞬にして冷めた。》

その事実は大きくメディアに取り上げられ、多くの支持を集めていた。



同時刻 MoRS本部 指令セクター


「大佐、構造型ミームに特異点が発生しました。」

雪乃は表情こそ変えないものの、不安げに報告する。


「加えて、社会心理定数が著しく不安定になっています。白票に対する二分化から構造そのものが変化しつつあります。」


「陰謀やマッチポンプを疑い疑心暗鬼に陥るものや、自由意志の象徴として崇拝するものまで出てくるぞ。」

大佐は予測していた。しかし、その予想はいくつもの可能性の一つであり、限りなく悪い状況を予測したものだった。


「はい。問題の焦点が一個人にすり替わりました。これでは投票自体が危うくなるどころか、都議会に対して大きな影響が出ます。」


もはや都議選の結果がどうなろうとも、関係ない。

後戻りできない状況と呼べるだろう。


「雪乃、該当の候補者について観測を強化せよ。」

「了解です。しかし、干渉は行わずとも良いのですか?」

「今、干渉しては被害が大きくなりかねない。」


件の候補者について関心が大きくなりすぎている。

この状態では何が起ころうともその名が出るだけで情報の強度が大きくなりすぎてしまう。


「ですがあまり時間がありません。」

雪乃は冷静だった。


状況が悪化する中、大佐と雪乃は慎重な選択を求められていた

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