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天上のダイアグラム  作者: R section
第1章 人知の外

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第13話 異能

――17:43|MoRS本部『幽世』・解析セクター 第2高度解析室


「彼女の“情報構造”の断片、抽出完了しました。──投影します」


雪乃の指先が空間をなぞる。


立体ホログラムが淡く光り、少女の脳内から抽出されたと推定される“意味ネットワーク”が浮かび上がった。


無数の言葉、記号、映像が繋がりあいながら構造体を形成している。


それは、ひとつの思考でもなければ、言語でもない。


感情、記憶、予感、そして“欠落”──それらすべてがひとつの円環を描いていた。


「これは……もはや“言葉”ではないな」


大佐の言葉に、雪乃が静かに応じた。


「はい。“しずめ”は単なる単語ではなく、“状態”を示すラベルです。彼女がその感情にアクセスするたび、この構造体が微細に再構築され、新たな波及を引き起こす。これは自己進化型のミームと言えるかもしれません」


「意味を持たせれば持たせるほど、“しずめ”が拡張されていく。他者に触れられることで、その概念は変質していく」


「ですが、問題はそこではありません」


雪乃の視線が、構造体の中心を指す。


「この“しずめ”の核となる情報が、外部から挿入されている痕跡があります。少女の“自己生成”ではなく、“他者の意図”が差し込まれている。……つまり、敵による“補正”です」


「敵が、“偶発的なミーム”に干渉した?」


「はい。元々この少女は、内面的な構造として《ミーム発生器》のような性質を持っていました。しかし、敵はそのミームに“特定の方向性”を与えることで、社会構造への影響を“調整”したのです」


「社会心理学的改変……」


大佐は、顎に手を当てたまま目を閉じた。


「情報によって人々の行動が変化するのではなく、“選択肢の先にある感情”を予測し、事前に反応を刷り込む──」


「はい。それは、ミームというより“感情のプリコーディング(予符号化)”です。この少女を通して、“共感の在り処”が強制的に変えられた。結果として、不安が伝染し、街の空気を変質させていったのです」


「暴動の芽は、“思想”ではなく、“空気”によって蒔かれたか」


雪乃は、ホログラムを収束させながら言った。


「私たちは、“敵”の姿を未だに明確に捉えていません。ですが、大佐。今回の件でようやく輪郭が見えてきました」


「……」


「敵は、偶然に発生した“弱い火種”を、社会構造の“微細なズレ”に挿し込んで、“巨大な歪み”を生む者です」


「選ぶのは“扉”ではない。“鍵”になる人間を見つけ、その心に適した歪みを挿すそういうやり方だな」


「はい。そして今回、その“鍵”が、しずめという少女だった」


「歪んだ心の中に生まれた、しずめという概念は敵の悪意によってさらに歪められた。その結果、しずめという心が出来上がった。」


「大佐、それは...」


「これは彼女の元あった心が変化したのではない。新たに生まれた二つ目の心だ。

 だがその心に元の心が混ざり合い、一つの心となっている。」


「そんなことはありえません。解離性同一性障害であっても、複数の人格が個々に存在するだけで、その心が結合するなんて」


「それができてしまった。いわゆる上書きだな。元の心にある感受性の部分をしずめという概念が上書きした。結果、それはありとあらゆる人々がしずめという概念に付加した情報が彼女の元ある心を拡張する。」


まとめると、以前、その少女は何らかの要因で精神が不安定だった。


ストレスのはけ口として、彼女はしずめという概念的な安定剤を生み出した。


但し、それは本来であれば彼女の精神を助ける存在だった。


少女が受けた苦しみを、しずめが発散する。それだけの存在であった。


それを敵が利用したのだ。しずめという概念が彼女自らの価値であると刷り込んだ。


そして同時に敵はしずめという言葉を拡散した。


結果、少女は社会がしずめという言葉に付加した意味を自らの心として取り込み、更に彼女の負の感情と合成する。


その後、再びしずめという言葉にすべてを込めて発信する。


そうして出来上がるのは負の感情が増幅するループ構造


「ありえないことです。理論では説明できません。」


雪乃にとってそれは到底受け入れらないことだった。


「ああ、論理じゃない。しかし現実だ。」


数秒の静寂。


言葉は交わされていないが二人の心が煮えていた。


顔にも、態度にも、声にも出さない。しかし、二人の内側は怒りで満たされていた。


優秀な知能を持つ人物が、くだらない悪意のために、本来助けられるべき存在を…


大佐が再び口を開いた。


「……雪乃、最後にひとつだけ確認する。この少女は、“敵と接触した”可能性は?」


雪乃は一瞬、逡巡するような間を置いた後、明確に答えた。


「直接的な接触の証拠は、今のところありません。ですが敵の視線が、彼女の存在を通過した痕跡は、あります」


「ならば、我々の責任は明確だな。この少女を、“人間”に戻す必要がある」


MoRSが動き出す。


今回は一人の少女のために

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