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 答えは仕事。

 通常の会社とかならさ、一日の業務に限りがあるよ。商店なら品の数に限りがあったりするからね。

 でもさ、為政者ってそういうわけにはいかないんだよ。

 24時間365日(24時間制でも1年が365日でもないけど)、国内の問題は次々に起こる。予定されている通常業務だけで終えられる日は幸せだよ。突発的な仕事が当たり前に増えるからね。

 土日祝日、定休日無し、みたいな超絶ブラック。

 パパンはとっくの昔に僕を子供扱いするのをやめて、容赦なく仕事を投げて来る。こなせばこなしただけ増えるという悪循環。手を抜くと困るのは国民だからね。そういう脅迫されるとやらざるを得ない。

 強大な権力とお金はあるけど、きついよ、ホント。

 僕なんて5歳ぐらいからあれこれ働いてるからね。もっとも、公的記録に残ってる仕事はそれほど多くないけど。

 そんな僕にとって信頼できる上に能力値高い部下は値千金だよ。

 実家とは表向き縁を切っているし、貴族籍も失っているけど、そのうちいい嫁ぎ先見つけてあげなきゃね。

 ツテの少ない僕にはちょっと難しいけど、なんなら将来僕の領地で代官とか任せてもいいかも。下級の貴族籍の1つ2つならなんとかなるだろうし。

 そのロゼは普段は離宮で寝起きしてる。昨日から実家に戻っていて、今日の午前中には戻って来る予定だった。

 彼女なら僕の状況に応じた的確な行動が取れるだろう。誰に連絡をすればいいかもすべて任せて大丈夫。

 荒事にさせないため、血を流さないために僕が取れる最善策は、後はロゼに任せてしまうこと。

 こういう突発的な事象への対応はリチャードよりも頼りになる。

 芯が強いと言うか、度胸があるというか。

 なにしろ、王太子のためになるならば、と王后殿下に嫌われてる僕のところに相談に来るぐらいだからね。目的を達成するためなら賭けにも出られるわけだ。まあ、失敗したから今現在僕の秘書なんだけど。

 いや、彼女の目的は王太子に功績を積ませることだったんだから、それは果たしてるな。

 長兄がロゼと一緒に手を付けた水道整備、今現在滞ってるのが気に掛かるけど。


 近衛の使う取調室があるのは知っていた。

 王宮で罪を犯した者を捕らえて尋問する場所だね。ここには牢もある。

 王族で取調室、尋問室に連れて来られたのは僕が初めてかもしれないけど。嫌な初めてだな。

 大体王族を捕縛すること自体が異例なんだよ。いや、縄を掛けられてはいないよ。さすがにね。でも、近衛が王族を捕らえて自分たちの本部に連れ込むって異常事態なんだよ。

 そもそも王族や高位貴族は罪を犯してもそう簡単に捕まらない。捕まっても待遇は庶民の犯罪者とはまるで違う。

 事情聴取をするにしても調えられた部屋で行われるものだ。

 貴族相手の場合、たとえ罪人であっても対応を間違えれば近衛騎士の方が罪に問われかねない。

 江戸時代なんかもさ、上街周りが人を捕まえたとして、身分や犯罪の種類によって縄の掛け方が違ったらしい。それと同じで、この国でも同じ犯罪者でも身分によって扱い方が違う。違うはずなんだけど、この近衛騎士たちはそのことを知らないっぽい。

 まあ、未だに名乗りもしないからね。

 まともに相手しても駄目なタイプだよ。

「罪を認めるなら今のうちだぞ」

 リーダー格の騎士が僕に凄む。いや、まったく恐くないんだけど。

 呆れの溜息しか出ない。

「そもそもなんの嫌疑かも教えて貰ってないのに、認めるもなにもないんじゃない?」

「生意気な。

 おまえの罪状を上げれば限りがないだろう。

 働きもせず浪費ばかり続けて、その年齢で婚約者とは言え女性を離宮に連れ込み、莫大な金を掛けて新しく宮を建てるなど、何様だと思っているんだ」

 王子様だよ。

 リアルテは毒親から保護しただけだし、新しい王子宮は公費は一銭も使ってない。僕の稼ぎからの出費だ。公表してないから、税金使ってると思われるだろうけど、調べれば分かることなんだよ、隠してるわけじゃないからさ。

 新しい宮の建設だって、今度生まれる弟か妹への贈り物だって(立場的に良くないけど、やっぱりお祝いしたいからね。生まれる何ヶ月も前から準備してたから、リルやロゼには呆れられちゃった)、前部僕の私費だよ。

 たぶん、兄弟で一番公費負担少ないよ、僕は。

 大体さ、僕が9歳児だって忘れてない?

「こそこそ動き回って、王太子殿下に取って代わろうと画策するなど下劣極まりない」

 そういう事実無根の発想する人間の方が余程下劣だと思うけどね。

「おまえのような王子とは名ばかりの身分卑しいものが王太子になどなれるわけがないだろう。身の程を弁えろ」

 なんか、すっごいどや顔で楽しそうだね。

 王子に対して上から物言えるのがそんなに嬉しい?

 取り巻き連中もさ、分かってるのかな。この馬鹿を制止しないなら同罪なんだよ?

 それに、身分卑しいって、それ言って大丈夫?

 そりゃ僕の母の実家は滅んだけど、平民になったわけじゃないんだよ?

 まして、国法が王子として認めている者を卑しいとか言っちゃうのはまずいんだけどね。自分たちは国法も超越した権限を持ってると言ってるようなもので、それじゃ君ら何様だって話。

 理解する頭は無さそうだけど。

「軍部に擦り寄ったり、森の魔物と結託したり、王都を滅ぼすつもりなんだろう?」

 王太子の座を狙ってるって話はどこ行った?

 王太子、最終的に玉座が欲しいなら王都滅ぼしちゃ駄目でしょ。なに言ってるの、この人。

 しかも自分の迷推理に酔ってる様子。

 僕、この人と会話を成立させる自信ないな。

 離宮で自分たちに命の危険が迫っていたことすら分かってないんだろうな。

 軍部に擦り寄ったってのは、騎士団長の娘や将軍の娘と婚約してるから?

 騎士団長も将軍も陛下の信頼篤い人たちなんだけどね。

「おまえの浅慮な計画なんてお見通しなんだ。観念してなにもかも白状しろ。そうすればおまえのような者にも慈悲はある」

 あ、はい。

 どうしよう、本格的に言葉が通じない可能性が高くなってきた。

 罪状を教えろと言ってるのに。

「前置きが終わったら、話を進めたいから罪状を教えてくれるかな」

「それはおまえが一番よく分かっているだろう」

 あかん、やっぱり話が通じない。

 この手の輩とは対話を試みるだけ無駄かもしれない。

 恐いのはね、加減を知らないかもしれないってこと。

 僕を尋問室に連れ込んでるから、真っ当な判断力は期待できない。やって良いことと悪いことが分かっていないんだよ。

 幼児並みの判断力しかない相手だと、なにをされるか分からない。

 それこそ、いきなり剣を抜いて斬りかかってくる危険性すらある。

 さすがにそこまでイカれてるのは主導してる1人だけと思いたいけど、油断は禁物だよね。

 この騎士を止める素振りも見せない取り巻きに期待なんてできやしない。

 僕としては、話を進めたい。でも、相手はどうして僕を連行するに至ったのかすら説明しようとしない。

 取り調べのイロハなんてものも知らないんだろうね、きっと。いや、会話が成立しないんだからそれ以前の問題か。

 まるで言葉の通じない動物を相手にしてる気分だよ。

 いくら貴族の箔付けとは言え、よくこんな危険人物を近衛に任命したものだ。要人の側近くに仕える人間には背後関係を洗うと同時に精神状態なんかも調べた方が良いと思うんだけど、精神医学がまだまだ発達してないから、難しいね。

 しかし、困ったな。

 狭い部屋に5人も6人もいて、まともな大人は1人もいないんだろうか?

 見たところ全員が20歳行ってるかどうかの若手だけど、誰もおかしいと思わないのかな。10歳に満たない王子を尋問することについて。

 類友という奴で、この主導してる騎士と似たようなのしかいない?

 そうなら、真剣に身の安全を考えないと行けなくなる。

 常識が通じる相手が1人でもいればいいんだけど。

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