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王太子暗殺未遂事件~存在しない容疑者~  作者: S屋51
第一章 日常・嵐の前の静けさ
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「今日は午前から出掛けるけど、昼過ぎには戻るから」

「はい、授業の準備をしてお待ちしています」

 食事が一段落したから今日の予定の確認。

 僕は非公式公務が多い身だから1日中外出していることも珍しくない。それ以外でも工房に籠もっていたり、商会の会頭たちと内緒の打ち合わせしたり……9歳児の仕事量じゃないね、ホントに。

 1日離宮にいるときでも書類仕事に忙殺されてリアルテとの時間はなかなか取れない。

 リアルテが寂しがっているから時間を作るようラーラからせっつかれるし、僕としても婚約者殿と過ごしたい。

 むさいおっさんたちと小難しい話してるより、リアルテと一緒に居た方が遙かに気分がいい。精神安定にだっていい。

 ただ第3王子という公の立場を疎かに出来ないし、僕にしか出来ないこともまだ多い。

 それでも夜には戻るようにしてるけど、たまにリアルテの就寝時間に間に合わないこともある。そうするとリアルテは頑張って起きていようとするんだけどね、8歳だから。寝落ちしちゃうんだよね。

 寝落ちしたリアルテも可愛くていいんだけど、子供はしっかり食べてしっかり運動して、しっかり寝るのが大事だから。夜更かしして欲しくないんだ。だから、僕も突発的緊急事態でも起きない限りは夕食には帰るようにしてる。

 寝落ちさせると、翌日機嫌悪いからね、リアルテは。

 リアルテは実家にいた頃は放置され、使用人たちも世話を焼くのを禁止されていたらしい。だから独りには慣れてるはずと言えば慣れてるはずだけど、慣れる必要のないことだよ、それは。

 だから表情の乏しい、コミュニケーション能力の成長が阻害された子になってたんだ。

 今のリアルテは保護した僕を絶対的に信頼できる相手として認識してる。本来、それは親の役目なのにね。

 僕はその期待を裏切らないよう努力してる。

 今日は時間を作って僕が授業をする予定。

 一般的なことはね、一応修めていても専門職の人間みたいに教えたりは出来ないよ。だから僕が教えるのは今のところ僕にしか教えられないこと。

 算盤です。

 なにを隠そう、この世界に算盤はなかった。

 いや、算木っぽい、その走りみたいのはあったけど洗練されてない。

 なんでもそうだけど、時間を掛けてこそ実用面の改良が加えられるからね。その途中経過だけ見て遅れてるのは当たり前。

 貴族でも算数できればいいからね。できない人もいるぐらいだし。

 電卓あれば世界取れそう。

 電卓はまだまだ無理だから馴染みある形の算盤を提案してみました。

 算盤は長い歴史あるからね。電卓が出回ってからも無くなったりしなかったぐらい便利な道具だし。

 算盤を習得すれば暗算もいけるようになる。昔々、3桁掛け算まではいけた。

 暗算検定とかだと10桁とかあったみたいだから、極めてはいないね。

 賢人会で紹介したら、是非導入しようってことになって、今は一部で使用が始まった段階。

 リアルテが学校へ行く頃には授業でも導入されるんじゃないかな。

 そうでなくとも覚えておいて損はないからね。

 面白いのは、僕は昔々算盤を少しやっていた。それで頭の中に算盤をイメージして暗算もやるんだけど、こっちは問題無く以前と同じように計算できた。

 でもね、実際の算盤を使うとそうも行かなかった。

 指が思うように動かなかったんだよ。

 この身体に実際に覚えさせたわけじゃないからね、全然スムーズじゃなかった。

 肉体をハードウェアとすると魂というか、内部はソフトウェア。

 ソフトウェア的には問題無く動かせるのに、ハードウェアにとっては初めての作業だったからうまく行かなかった。

 身体に覚えさせるって過程を経ないと駄目らしい。

 やり方は分かってるから、感を取り戻すのはそれほど難しくなかったけどね。

 同じように身体に覚えさせるって点ではさ、前にリーチェを柔道技で投げたことがある。あのときは割と動けたんだよね。身体が全体的に小さいからやりにくかったってのはあるし、リーチェが投げ技に無防備だったから成功したと考えるべきかな。それでも動けた方だと思う。

 指先の繊細な動きの再現と投げ技じゃ違うのかな。

 視界の隅でリルフィーネが食後のお茶を飲んでいた。

 その動きが止まり、彼女はあらぬ方を見やる。

 玄関の方だ。

 見ればアルティーネも同じように玄関の方向を見ていた。

「どうかした?」

「騒々しいお客のようです」

 僕の質問に答えたリルフィーネはアルティーネと目配せで情報交換し、失礼、と席を立って朝食室を出て行く。

 エルフもダークエルフも僕ら人間よりも感覚器官が鋭い。僕らには分からなくとも2人にはなにか分かったんだろう。

 最強生物ドラゴンは餌を貪っている。それでいいのか、ノワール。

 間もなくして荒々しい怒鳴り声のようなものが微かに聞こえてきた。

 どうやら誰かが玄関ホールで怒鳴っているらしい。

 普通の貴族の家なら不審者が来ても門前で対応するんだろうけど、おんぼろ離宮には門なんてものは痕跡だけだ。門番だっていない。

 客は玄関先での対応になってしまう。

 どうせ来る人なんて限られてるからね、それで事足りたんだよ。

 王宮の敷地内にあるんだから治安が悪いとかはさすがにないから。そう、そのはずなんだけど、朝からの訪問者は粘ってるみたい。

 誰が来たにせよリルが出たなら問題はないと思う。

 リルフィーネもアルティーネも強いからね。

 種族差というのか、外見的には人間と似ているのに魔法に長け、身体的なスペックも圧倒的に上。

 僕の専属護衛騎士であるリーチェは仕事を奪われまいと一層励んでいる。

 リルとアルの2人がいれば盗賊団に襲撃されても大丈夫じゃないかな。さすがにここに盗賊が出るなんてことはないけど。いや、不審者が忍び込む可能性はあるか。

 従僕の1人がやって来て僕に頭を下げた。

 顔色を見るに、酷く困惑しているようだ。なにか良くないことがあってそれを僕に伝えなければいけないけど、良い知らせじゃないから言いにくいってところかな。

「なにがあったの?」

 中々切り出しそうに無いから僕から水を向ける。

 駄目だよ、報告は迅速にしないと。

「近衛騎士が殿下との面会を希望しております」

 ……?

 なんで近衛が?

 近衛の役目は要人警護。

 要するに王族の警護。

 僕の所は例外的にいないけどね。通常なら王族の住まう離宮には彼らが詰めてる。

 それにしても無作法だな。

 近衛騎士が何らかの役目で僕に面会したい。それだけならあり得ることだけれど、先触れも為しにいきなり押しかけて来るというのは通常の手順じゃない。

「誰の指示だとか言ってた?」

「いえ、殿下に会わせろの一点張りで」

 ああ、これは大分オブラートに包んで言ってるな。

 王子を出せ、ぐらい言ってるんじゃないかな。

「今はリルフィーナ様が押さえてくださっていますが、その」

「乗り込んで来そうな勢い?」

 従僕は肯定の意で頷いた。

 まだデザート食べてないんだけどな。そうも言ってられないみたい。

 近衛騎士がリルをどうこうできるとは思わないけど、リルは近衛騎士をどうこうできちゃうから、僕が出ないと怪我人が出るかもしれない。

「大丈夫だよ、ちょっと話してくるだけだから」

 心配そうな目をするリアルテにそう言い置いて、僕は朝食室を出て玄関に向かった。

「ちょっと○○して来る」

フラグかな?


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