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王太子暗殺未遂事件~存在しない容疑者~  作者: S屋51
第一章 日常・嵐の前の静けさ
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 朝食室にリアルテが入って来た。

 彼女の後をノワールがご機嫌で付いてくる。ドラゴンでも子供だから食事の時間は楽しくて仕方ないらしい。そもそもリアルテ大好きだしね。

 最初の頃はドラゴンという怪物を気味悪がっていた使用人たちも、今は完全に慣れた。

 ノワールは見た目に反して愛嬌があるからね。リアルテに甘える仕草なんか結構和むものがある。

 食事代は人間より掛かるけど。

 僕の護衛兼監視役のリルフィーネとアルティーネも来た。いや、君らは使用人枠のはずなんだけど、なんで遅れて堂々としてるのさ。

 エルフのリルフィーネとダークエルフのアルティーネは同じテーブルと言ってもそれぞれ反対の端っこに陣取る。

 無駄に長いんだよね、こういうテーブル。

 僕の左手にアルティーネ、リアルテの左手にリルフィーネとテーブルの対角線上に座っているのは仲が悪いからじゃなくて、一応は僕の護衛も兼ねているから。

 万一の時は咄嗟に護衛対象を守れる位置にいるわけだ。

 この2人もかなり食べる。エルフというと草食イメージあったんだけどね。17、8に見えるほっそりしたリルフィーネも14、5歳に見えるアルティーネも肉食上等。

 しかもね、森の主たちへ供える酒を造るのに味見をすると称して飲む。

 どういう肝臓してんだってぐらい飲む。

 味の批評、コメントが具体的だから役立ってるけどね。

 この2人とノワールだけで通常の30人分以上食費掛かってんじゃないかな。

 朝食はシンプルに焼き立てバターロール2個とオニオンっぽいもののスープ、ベーコンエッグにサラダ。乳製飲料がコップ一杯。

 昔々はこういうのは珍しくもない取り合わせだけど、この世界じゃ僕の離宮ぐらい。そもそもベーコンも僕が作って売り出すまで無かったからね。

 これでもかなり豪華なんだよ、この世界の常識だと。

 パンだけって人も少なくない。それもかったい奴。

 王侯貴族は取り敢えず量は食べられるからカロリーは足りてる。でも庶民は足りてない人が多い。飢えない程度になんとか、ってのが大半。1日1食も珍しくないからね。

 その辺の食糧事情を改善していくのも国を主導する者の責務だよね。パパンも頑張ってるよ。長兄も民を疎かにするような人じゃ無いからパパンの路線を継承するんじゃ無いかな。だから、王都の食糧事情は徐々に良くなってる。王都はね。

 地方はまだまだ。

 先は長いだろうね。

 昔々、飽食の時代を知ってる僕としては食糧事情は辛いものがある。だからやれることはやってるんだよね。昔々には遠くとも、少しでも改善できるように。

 肉料理1つとってもね、焼いて食べるか干すか。汁物は少なかったな。味付けも塩ぐらいだったし。

 香辛料は高いし種類少なかった。

 今も値段はかなりお高め。それでもね、僕が使い方広めて、輸入できるものは輸入して栽培できるものは栽培して……頑張った結果、庶民でも頑張れば手に入れれるレベルにはなった。

 まだ金ある人向けだけど。

 これまで知られていなかった香辛料を見つけるのにエルフたちの森の知識が役立った。

 人間が見落としてた食用になるものが森にはまだまだあったんだよね。

 そういうのを無計画に広めると乱獲が始まって、きっと森に棲まう人外たちの怒りを買うから、一般に流すのは栽培法を確立するか、採取に関する法を整備してからだね。

 森の連中との付き合いでなにが大変って、エルフやその上位者たちと交流できるのが今のところ僕だけだってこと。

 みんな恐がっちゃってまともに交渉も出来ない。

 リルフィーネたちにスケベ心から言い寄る連中もね、彼女たちの戦闘力を目の当たりにすると腰を抜かすし、彼女らが仕える森の主に謁見したら漏らすよ。

 リアルテなら大丈夫かもしれないけど、8歳児にやらせる仕事じゃないし、物の怪たちに尻込みしないとしても人見知りするからね。交渉事は無理。将来に期待。

 うん、そんなことできなくてもリアルテの価値には何ら瑕疵はつかないけどね。

 ちらとリルたちの皿を見れば、バターロールがそれぞれ10個ずつ。添えられたカップには果実酒が並々と注がれてる。

 朝からどこに入るんだろうね。しかも飲むし。

「お酒は水の代わりだから」

 と、以前にリルフィーネがにっこりと笑って平然と嘘を吐いた。

 エルフ族にとってお酒類は祭りの時とかにだけ飲む貴重品だって知ってんだからね。

 見た目は高校生ぐらいの美少女だけど、本当の年齢は知らない。僕らより遙かに長命種なのは間違い無い。

 エルフもダークエルフも成人までは人間と同じような成長速度で、それから全盛期が長いらしい。だからアルティーネは僕らより少し年上ということで間違いなさそうだけれど、リルフィーネは分からない。

 前に会話の流れで聞いてみたけど、にっこり微笑んだだけで回答拒否。

 いいけどね、どうでも。

 ノワールの食事はメイドさんがバケツをえっちらおっちら抱えて来る。

 雑食だから余り物でもなんでもいいんだけど、リアルテがそれじゃ可哀想だというし、でかいトカゲのくせに味が分かるらしいんだよね。僕らほど厳選されたものではないけれど、結構なものを与えられてる。

 しかも餌を持って来てくれるメイドさんには愛想が良い。

 ドラゴンって、一応は生物界の頂上付近の存在らしいんだけど、餌を貰って甘えてる姿に威厳はない。完全にペット化してる。

 うちにとってはリアルテの愛玩動物以上の意味はないからそれで問題ないけど、ノワールって知能高いと思うんだけどプライドは育ってないんだろうか。

 僕が見ていることに気付いたのか、ノワールは食べるのを辞めてこちらに視線を向け、無垢な眼で笑う。

 うん、なんかちょっと足らない犬みたい。

 これで騎士団壊滅させるぐらいの戦力だって言うんだから不安だよ。


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