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王太子暗殺未遂事件~存在しない容疑者~  作者: S屋51
第一章 日常・嵐の前の静けさ
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 朝食室には僕の方が先に着いた。

 未だ食事は運ばれてこない。僕らが揃ってからになる。

 カトラリーは準備されてる。一般的ではなく、僕の離宮特有のものは箸だ。

 うん、僕が使い始めた。一応は権力者、自分の離宮で箸を導入させることぐらいはできる。さすがに使用を強制はしてないよ。やろうと思えば出来るけど、そんなところで権力振りかざしてもね。

 興味深そうにしてみてるのが何人かいて、実際に練習してる人もいるらしい。

 常用してるのは僕とリアルテだけだね。

 リアルテは僕が使ってたから自分も使わねば、と謎の使命感で懸命に練習して今ではレベル4ぐらい。

 ちなみに箸使いレベルは

 レベル1 正しく持てる

 レベル2 開閉運動ができる

 レベル3 食べ物を摘まめる

 レベル4 豆が摘まめる

 レベル5 蒟蒻が掴める

 レベル6 蟻を捕まえられる

 レベル7 飛んでる蝿を捕まえられる

 レベル8 神

 一般人はレベル4から5ぐらいまで習熟すれば十分かな。

 僕はレベル6

 箸で蟻を捕まえる機会って、そんなにないけどね。実際やると行儀が悪いにも程がある。飽くまでも技術としての目安だね。

 朝食には3日に1度ぐらい味噌汁が出る。

 味噌はね、開発に苦労したよ。基本的なところは知っていても、1から作るってのはやったことなかったからね。

 なにより、麹菌。

 うん、代用できるものが存在するかも分からない中で我ながら頑張った。

 国際学術団体である賢人会も巻き込んで菌を集めた結果、やっとできました。

 発酵の過程があるから普通に試験してたらもっとかかったろうね。そこはリアルテの魔法のお手柄。

 彼女は対象物の時間を進めることができる。

 これは一般的な魔法とはまるで違う。恐らく大魔王であるリアルテだからこそのもの。

 最初はものを腐敗させる魔法かと持っていたんだけれどね、どうやら違うらしいってことで調べて、範囲指定での時間加速という物理学では再現できそうも無い不思議パワーの賜。

 最初、リアルテは花を腐らせてしまう自分の魔法をとても忌み嫌っていて僕にも隠していた。それもね、実の父親が魔法を見て酷い言葉を投げたからって言うんだから、ホントどうしようもない毒親だよ。

 自分の娘の折角の才能を汚らわしいとか、悍ましいって娘当人に言うって、どういう神経してんだろうね。リアルテ、まだ幼かったのに。

 でも、僕がそれはとても有用な魔法だから僕の実験を手伝ってと頼むと、リアルテは喜色満面で引き受けてくれた。危険物としか思っていなかった自分の能力が役立つと知って嬉しかったんだろうね。

 ちょっと前のめり過ぎて、魔法の使い過ぎで失神しちゃうこともあったけどね。

 うん、ラーラにすっごく叱られたよ。

「お嬢様は殿下の道具ではありません」って。

 まったくその通りです。

 リアルテを道具扱いする気なんてなかったよ。協力して貰えたら研究がはかどるとは思っていたけど。

 子供は熱中してしまうと何事も限度を忘れるから、ちゃんと監督しなきゃいけなかったんだよね。僕も子供だけど。

 リアルテが気を失ったときは本気で焦った。

 研究は大事だよ。味噌や醤油は切実に欲しかったよ。

 でもさ、どんな代物だってリアルテの健康に代えられるものじゃないんだよ。

 リアルテにもそのことを諭して、決して無茶はしないように言い聞かせた。リアルテが疲れても、途中で実験をやれなくなっても怒りはしないから、無茶だけはしないようにって。

 親に褒められた経験の無いリアルテは僕の役に立って褒められたかったみたい。

 リアルテが健康を損なうぐらいなら研究なんて遣らない方が遙かにマシなんだけどね。

 リアルテの健康状態を気にしながらだったからかなり制限はあったけれど、それでも物凄く時間短縮にはなった。

 そのお陰で味噌と醤油、に近しいものを完成させられたんだ。

 多くの魔王を従える(予定の)大魔王の魔法で味噌造りしてますが、なにか?

 大魔王の魔法は世界征服にしか使っちゃいかんって決まりがあるわけでもなし、有効に利用することになんの問題もない。リアルテ当人も納得してんだし。

 発酵食品の開発研究には、ほんっと役立つんだよね。

 海産物系の出汁が手に入りにくいのが残念なところだけど、それでも美味しいよ、味噌汁は。

 海産物もそのうちなんとかするつもりはある。

 ただね、海産物に関しては地理的問題だけじゃなくて政治もかかわって来るんだよね。

 海には『海の民』ってのがいて、海産物のみならず塩関係の多くも彼らが支配してる。新鮮な海産物を王都でも食べたいと思ったら、彼らと話し付けないといけない。

 あてがないわけじゃないから、そのうちなんとかしようと思ってるけど忙しくてね。

 茸出汁も鶏出汁も豚出汁も美味しいからいいけど。

 まあ、僕が知ってるのとどれも微妙に違うんだけど、贅沢言っても仕方無いよね。まったく同じ物なんて存在しないんだから。

 茸欲しさにこっそりと栽培もしてる。原木と菌床、両方の栽培方法で量産中。

 僕の数少ないツテを使ってね、王都近郊の貴族領の特産品にする計画が進行中。

 取引のあるニマール紹介のハゲ狸会頭は全部自分に任せて欲しかったと拗ねたけど、おっさんが拗ねたからって可愛くないからどうでもいい。

 大体、ニマールには他の商品で多大な貢献してるんだ。1つの商会に権力を集中させるのは宜しくないからね。

 だから酒類に関しても別商会を使う予定。

 酒類は市場がでかくて儲けも莫大だから、1つの商会だけにやらせると不均衡が生まれるだろうから、地域によって3つぐらいに振り分けようかと思ってる。その辺はまだはっきりしてないのだけれど、領地によって作物に差があるからね。

 日本酒だって同じ国の米でも産地によって色々あったから。

 米の品種の違い、杜氏の違い、水の違い。すべて同じでも年によっても違う。

 実に多くの種類があったからね。……沼だね。研究しても明確な答えなんてないんだろうけど、調べずにはいられない。

 まあいいや。どうせ安定したら人に丸投げするから。

 丸投げして、ロイヤリティとして売上の一部を受け取る。夢の不労所得。

 不労所得もね、それを得られるようになるまでが大変だよ。

 将来のんびりイチャイチャして過ごすための蓄えだね。

 各地の地酒を出させようと思うと、各地の領主とも話を付けないとね。儲かるとなれば向こうから寄って来るだろうけど。

 最初は僕の婚約者たちの親元からだよね、やっぱり。

 ……こういうとき貴族のツテが少ないと困るよね。信頼できる人も少ない。婚約者たちの身内だからって全面的に信頼していいかって問題もあるけど、そこ疑うと、もう僕は身動きできないからね。

 裏切られたらそれはそれでいい。どうとでもやりようはある。


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