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王太子暗殺未遂事件~存在しない容疑者~  作者: S屋51
第一章 日常・嵐の前の静けさ
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 リアルテは起きる前に一度ぎゅっと僕を抱き締める。

 毎朝これやらないと気が済まないみたい。

 うん、ちょっとね、男の子の朝の生理現象があるから誤魔化すのが辛いんだけど。

 日頃から僕にべったりだから、男性の身体の仕組みというか、女性と違う部分については気付いてはいると思う。その辺の教育はラーラに任せてある。

 さすがに9歳児が8歳児に性教育ってのも、なんか駄目でしょ?

 重要なことだからね、教育はしないと。

 ただ少し早い気はするけど、10歳そこそこで結婚なんてのも貴族ではあり得るから、教育自体は早くていいのかね。

 リアルテも大きくなったら嫁いで行くんだよね。いや、相手って僕だな、そう言えば。

 分かってるのに、時々意識から抜け落ちるのは、婚約者というよりも保護者的な心情になってるからかもしれない。

 リアルテは娘じゃ無くて婚約者。将来のお嫁さん。

 今は可愛らしい女の子でも、いつかは僕の奥さんになるわけで……勝てる気がしねえ。

 大魔王だからなあ。

 将来自分は大魔王になる、とリアルテは主張してて、その片鱗も見せてる。

 特異な魔法使えたりするから、今現在でも戦力で考えると騎士団を1人で相手に出来るんじゃ無いかな。

 日頃から無闇に魔法を使わないよう、特に人間相手には使用禁止と教育しているから良い子のリアルテはきちんと守ってくれている。それだけじゃなく、積極的に魔法で僕の手伝いもしてくれてる。

 家庭教師たちが物覚えの良さに褒めちぎってる。

 まだちょっと僕以外の人相手だとぎこちないというか、人見知りして無表情になってるけどね、そのうち治るでしょ。

 来年か再来年には学校へ行かせようと思ってる。学力の問題よりも、将来のことを考えると人との交流が出来ないといけないからね。

 公爵夫人、女公爵、どちらの立場であっても人の上に立って指示を出さないといけない。嫌かもしれないけど頑張って貰わないと。

 まあ、今のところ当人は学校へ行くのを拒否してる。他人が大勢居る場所になんて行きたくないらしい。

 ベッドの側でぬいぐるみに埋もれて眠っていたペットのノワールがのっそりと起き出して、頭をベッドの上に突き出す。

 ノワール

 真っ黒なドラゴン。

 以前に僕が森で卵を拾って来て、煮て食うか焼いて食うか考えていたらリアルテが孵すと主張。できるのかどうか半信半疑で、腐っちゃうんじゃ無いかと心配しながら見守っていたら、リアルテは眠るときも卵を抱いていた。

 そんなリアルテの努力の結果、3日目の朝に殻を破って出て来たのがノワール。

 命名は僕。

 安易だとは思うけど、響きがいいと思って。

 ブラックやシュバルツだと格好良いけど硬い感じがして、飼い主のリアルテに合わないからノワールにした。

 最初は鶏ぐらいの大きさだったのが今はダチョウぐらいにまで育った。

 どこまで育つかははっきりしない。

 うちのエルフたちに聞いたら、種によってばらばらだけれど、たぶん人が乗れる程度の大きさにはなるとのこと。

 今でもリアルテなら余裕で乗れそうだ。しかもノワールは飛べるから、将来的には僕らを乗せて飛んでくれるかもしれない。……目立ってしょうがない。

 ドラゴンは数は少ないものの、小型のものなら飼い慣らしている国もあるとか。

 ドラゴンナイトとか憧れるけど、そんな国に攻められたらたまったものじゃない。実際には数が少ないし扱いが難しいから実用ではなく、国の箔付け、守護獣としての存在なんだって。

 こんなのを操る騎士が10人もいたら国を落とせそうだから、いなくて良かった。

 大魔王が巨大なドラゴンを従えたら……。

 あと何年かしたら、リアルテとノワールだけでうちの国ぐらいなら滅ぼせるかもしれない。

 ちなみに、大魔王と対になるはずの勇者や、そのパーティーメンバーである聖女、聖騎士、僕の婚約者にいるから。

 狙ったわけじゃないよ。

 そういう裏事情(?)が最初から分かってたのはリアルテだけ。そのリアルテも飽くまでも自己申告。

 他の子は婚約した後に判明したこと。

 でもさ、あり得る? 婚約者の大半が伝説上の存在だったって。

 家庭内勇者vs大魔王戦争がやれる顔触れ。

 この両勢力のぶつかり合いは世界を巻き込んだ規模のものであるはずなのに、何故かうちの家庭内で9割ぐらい話が済んでしまう。

 理由は僕にも分からない。

 何故か、僕の婚約者に偏りがあったってだけ。

 僕自身が選んだのってエレンとカミラの2人だけなんだけどね。

 今のところリアルテと勇者たちに険悪な雰囲気はない。むしろ仲は良い。

 予定ではリアルテが僕の正妻になり、他は側室になる。現在の地位もリアルテが一番高いから、他の婚約者たちから不満は出てない。みんなリアルテが女主人になることに異論はないみたい。

 うん、はっきり言っておくとね、今のところ最弱は僕だから。

 子爵令嬢のカミラは常識枠だと思ってたんだけど、彼女は将軍の娘。

 子供の頃から剣術やら普通令嬢はやらないことを仕込まれてたんだって。剣術、僕より強いんだよね。

 格好付かないんだよね。

 通常生物界では強い個体が遺伝子を残すわけだけど、人間に関しては社会的地位なんかが絡むから、まあ、歪んでる。

 親が強い個体で地位を築いたら、その子や孫が脆弱でも遺伝子を残せる可能性が飛躍的に高まるわけだからね。

 特に長子相続なんてものは、権力を得るのが優れた個体とは限らないから、場合によっては弱体化の原因になる。

 兄弟間で血で血を洗う争いを繰り広げるよりは平和的だけどね。

 ああ、僕は別に長兄が後を継ぐことになんら異論はないよ。僕は僕で家庭を築ける算段立ってるし、長兄は天才ではなくとも良い王になろうと努力を怠らない人だし、それなりに有能な人だから。

 国王なんて面倒臭いポジション願い下げだしね。


 頃合いを見計らってラーラが入って来た。

「さあ、お嬢様、着替えましょう」

 とリアルテの手を引いて隣の部屋、リアルテの部屋へと向かう。

 ノワールは1つ欠伸をしてからどうしようかと考え、それからリアルテの後を追った。

 ノワールもまだ子供だから、朝は眠いらしい。

 僕は僕でクローゼットに向かって今日の衣装を選ぶ。

 普通ね、王族の着替えってメイドに手伝って貰うし、服だって自分で用意しない。僕はオマケみたいな王族だし、1人でやる方が気楽でいいから1人でやる。

 ラーラは立場に見合った相応の振る舞い、を求めて来るけど、そういうのは人前だけでいいよ。

 さすがに洗濯や掃除は任せちゃってるけどね。リアルテを引き取る前は、掃除もたまに自分でやってた。

 今でも離宮近くにある工房という名の小屋の掃除は僕がやってる。

 これは安全上のためだね。色々と置いてあるから、良く分からずに触ると怪我しちゃう。

 前に1回、ちょっと調合を間違えて小屋を吹き飛ばしたことがあるから、僕がいないときに他人を入れたりするのは正直恐い。

 僕がいるときでも、限られた人間にしか入室を許可しないけどね。

 着替えを済ませて朝食室へ向かう。

 寝間着は適当に放っておくと、優秀なメイドたちがちゃんと処理してくれる。ベッドメイクもね。

 リアルテが考えたぬいぐるみたちの配置も夜までには元に戻ってる。いや、ホント優秀だわ。

 リアルテの実家である公爵家から引き抜いた使用人たちは、さすが行き届いてる。

 今の当主のやりようや夫人と娘(リアルテの妹)に愛想尽かしてたのもあって、ラーラを介して交渉したらあっさりこっちに転職してくれた。

 僕は3番目の余り物王子とか言われてるけど、それでも王族だからね。公爵家から王族の家に転職ってのは、世間的に見ても決して悪いものじゃない。

 彼らの給料は王族用の歳費じゃなく僕のポケットマネーから出てるから、厳密に言えば王宮というより僕個人に雇われてる感じだけど、外からはそんな内情分からないしね。

 今のところ不満も出てないようだからいいんだろう。

 朝食室は簡易なテーブルセットのある部屋。

 他にちゃんとした食堂がある。

 あるけど、リアルテを引き取る前は殆ど使ってなかった。

 だって個々で食事するのって僕だけなんだよね。婚約者たちとお茶会することはあっても食堂は使わないから、朝も夜も朝食室で済ませてた。

 昼食は文化的に浸透してない。食べたい人は食べるかな、ぐらい。

 僕はサンドイッチとかを適当に仕事しながら摘まんでた。

 そういうマナーに適ってないことはリアルテの教育上悪いからやめた。

 食堂もちゃんと手入れして使用するようにした。

 その他、僕の住まうおんぼろ離宮で使っていなかった使うべき場所と機能を復活させ正常稼働かせたから、今は僕も王族として一応の体裁が整う程度の生活はしてる。

 着替えとか湯浴みとか、見えないところではサボって庶民仕様になってるけどね。

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