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第1章は6分割
建国神話によれば、遙か昔、混沌とした世界は大魔王とそれに従う47柱の魔王に支配されていた。
人々を虐げる大魔王たちを人類連合軍、勇者たちが討伐し、勇者は初代国王と手を取り合って国を興した。
らしい。
まあね、真相の分からない大昔の話だからね。
大体こういう話は王統を神格化するために話を盛ってるんだよね。
ただ、勇者=初代国王としてないのがちょっと引っ掛かるかな。
こういうのって勇者が王になるとか、王女と結婚するのが定番、みたいな感覚あったんだけど違ったみたい。
勇者は建国の協力者ではあっても王でも婿でもないらしい。
そんじゃ国ができてからの勇者はどうしたかは分からない。
伝わってないんだよね。
伝えることができなかったのか、しなかったのか。
国の根幹に係わることだから、もし現在の支配体制や王家の姿勢に対して触りがあるような内容だと敢えて消された可能性もある。
例えば初代国王や勇者が万民平等の世を作ろうとしてた、なんてことになったら今の階級社会は始祖の目指したものとは違うってことになっちゃうから非常にまずい。
消せ消せ消せ、ってなるよね。
実際はどうだったか知らないよ。
今現在、僕が入手できる国史関係の書物には勇者のその後はないんだから。
大魔王さえいなくなれば用はない。と、さくっと暗殺された可能性もあるにはある。
王より人気を集めかねない存在ってさ、王にとっては邪魔でしかないんだよね。代替が出来ないうちはともかく、不要になれば消えてくれってね。
ただね、勇者パーティってのが総勢で20人ぐらいいたんだけど(多い? ゲームみたいに数人で怪物退治って無理ゲーでしょ。現実の話としてはさ20人でも少ないと思うよ)、彼らの何人かは国の要職についてるし、そうじゃなかった者も別の道で名を残してたりするんだよね。
大賢者は国を跨いだ学術組織『賢人会議』の前身組織を作ってるし、聖女たちのうち2人は王の妃となって子を成したって正式な記録がある。
現国王はその聖女さまたちの血を引いてる。
そういうのを正当性の主張に使ったりしてるし、効果あるらしいよ。
となれば、その3男である僕もまた聖女の血を引いてるってことだけどね。
聖女と言ってもそこまで凄いものじゃない。と言ったら教会関係者に怒られるから外では言わないけど、治癒術、治癒魔法に特化した女性って意味だからね。神託を受けた聖女ってのもいるけど、こちらは超レア。
勇者パーティーには複数人の聖女がいて、神託の聖女とされているのは後に王家に嫁いだ2人だけ。
これもなんだか嘘臭いよね。
神託の聖女だったから王の妃となったのか。それとも王の妃となったから権威付けのために神託を受けたことにしたのか。
神託ってのもね、夢で神様に告げられましたって自己申告なんだよね。
教会の認定を受けるには他にもなにか要件がありそうだけど公開されてないから分からない。将棋とチェス仲間の教皇に聞けば教えてくれるかもしれないけれど、公私混同は避けたい。
今現在も100年ぶりぐらいに神託の聖女はいる。
まあ、僕の婚約者なんだけど。
初代王の頃の神託の聖女と違って、王家に嫁ぐから神託の聖女とされた可能性はないよ。
生まれた頃からの付き合いだけど、神託受けたのは6歳のときだから。
当人が神託を受けたと自己申告した後に教会から正式に認められた。
僕の婚約者だから認められたんじゃ無いかって?
それならさ、次期国王である王太子の婚約者を聖女認定するでしょ。
王になる予定のない3番目の王子の妻を聖女にするって、ズレてるよね。
僕はまだ成人前、帯剣式(男児の成人式ね。一人前になった証に父親から剣を一振り貰って腰に吊す)も済んでない子供だから王宮に住んではいるけど、成人後、王太子が結婚するとか、子ができるとか、そういうタイミングで外に出されるのが決まってる。将来的に臣下になる人間の伴侶に権威を授けても教会に旨味は少ないよ。
うちの国の場合、貴族も王族も、家を継ぐのは長男。次男は補欠兼補佐で三男以降は万一の際のスペア。
長男が無事成人しちゃえばお家騒動の元だから弟たちが王宮から出されるのは慣習的なもの。
大抵は長男が王位を継ぐときに王族籍からも抜けて臣下になる。
王の兄弟ということで発言権は強いけど、王じゃないし、普通なら王になることもない。
僕は途絶えた公爵家を継ぐことが内定してる。
公爵家を継いで領地に引きこもってのんびりするのが僕の目標。
僕が生まれる前は戦争とかあって大変だったらしいけどね。今は戦争してないし、国内も安定してる。
ある意味、良い時代に生まれたよね。
しかも3番目だから国を背負って立つなんて重責に悩まされることも無い。
割と良い転生先だと思う。
公爵領という土地の責任者にはならないといけないけど、国王に比べたらずっと気楽だよ。
戦争や疫病で減った貴族の数を増やすためにと、貴族男子は多妻が求められ、僕にも何人も婚約者がいて、それはこれからも増えるかもしれない。
彼女たちと地方でのんびりイチャイチャして過ごせるなんて天国じゃない?
今はまだ王宮(正確には離宮)住まいだし、王子としての公務多いけど、それぐらいは仕方ないよね。
庶民に比べて遙かに良い暮らしをさせて貰えてるんだからさ、今ぐらいは一所懸命に働いて恩を返して置かないと。
後数年したら、僕は王宮を出て行く。王都も出て領地として与えられた地方へ行き、妻たちと楽しく暮らす……予定。
今現在の婚約者は、
公爵令嬢リアルテ
伯爵令嬢ミリア
伯爵令嬢シーラ
騎士団長・宮中伯令嬢リーチェ
子爵令嬢カミラ
男爵令嬢エレンシーヌ
正式なところだけでそれだけいる。
後は侯爵家で標準的な爵位コンプリート! じゃなくてさ、……多いよね?
大体、王族に嫁ぐとなると高位貴族が原則なんだけど、今は男子が少ないし、カミラの家は子爵でもお父上は軍の将軍、エレンシーヌも特段の事情がある。
今の時代情勢に合わせた特例だね。
それでも多いんだけど。
産めよ増やせよ、なんだよね、今って。
僕だけが特別じゃなく、貴族男子は頑張ってる。けど、男児の出生率は良くないんだよね、何故か。
パパンも子供は沢山いるけど、男児は僕を含めて3人だけ。
どういう理由でか、減ってんだよね、男の子。
僕が一番若い王族男子ってことになる。
長兄であり王太子でもあるラズロにも20人近く婚約者候補がいたはず。正式に婚約者になったのは今のところ3人ぐらいだったかな。王になる頃には20人全員と結婚してるかもしれないけど。
次兄はね、1人だけを愛するんだって言って1人しか婚約者がいない。
個人的にはその姿勢を悪いとは思わないけど、僕らは王族なんだから義務は果たすべきだよ。
パパンみたいに欲望のまま何人も愛人作れとは言わんけど。
ドアの前に人の気配がしたと思ったらノックされた。