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「王族への不敬、正式に裁けばお家取り潰しまであり得ます。10人近い貴族の令息たちですよ。10近い家を潰しますか?
マルエイ伯は文官として長く王家に仕えた功労者です。他の令息たちの家も、近衛騎士になれるぐらいならそこそこの家門でしょう。
潰してしまっては影響が大きすぎます」
「しかし」
「表立っての処分はなしないというだけです。彼らは後日、体調不良などで除隊になります。嫡男であれば、廃嫡になるかもしれませんね」
公式な処分はせずともやらかした当人たちは今日のことを忘れない。こちらも忘れない。なにが起きたかは実家に内々に報せる。後は各家での判断だ。
王族に無礼を働いたものを次代の当主のままにしておこうという家はないだろうね。あったら、改めて潰せばいい。
これは貴族家に対して大きな貸しを作ることにもなる。
やらかした当人だけで処分を済ませてやる、ってことだからね。
家を潰してしまえば大きな恨みを買う。それは避けないと。
噂は流れるだろうね。やらかした連中が近衛をクビになった、と。それはいいんだよ。噂だから。そういう処分だったと噂が広がるよう宮廷雀たちに囀らせてもいい。公式記録はどうなっていようと、王族に無礼を働いたものは相応の罰を受ける。そのことさえ知らしめることができればいい。
「さっきは陛下の裁可を待つと言ってなかったか?」
「最終的にはそうですよ。僕の一存で決められることじゃない。
でも、そういう選択もできる状況を作っておかないと、全部公表してしまったら後から取り返しが付かないでしょ」
パパンが全員を処罰し、お家お取り潰しと決めるならそれでもいい。
決定権はパパンにあるからね。
「はい、異論ないなら動いて動いて」
ここで喋ってても時間がもったいないだけだからね。
本当は王太子重篤って情報は即座に流した方が良かった。ま、それでもなんとかなるでしょ。
相手に悟られてうまく行かなかったとして、それだけの話だからね。
暫く時間をおいて、王太子は無事復帰しましたってするだけの話。やってみる価値はある。
「兄上に仮病で寝込んでろと言えばいいんだな」
「信用できる人間以外は面会できないようにしておいてくださいね。宮の人間でも、大半の者には危ない状態だと思わせといて」
「進言するだけしてみるよ。王后殿下がどう言うか分からないけど」
このデマが敵と味方のリトマス試験紙になるって、王后なら分かると思うよ。
僕発案って言うと、嫌な顔をするかもしれないけど。
「殿下に無礼を働いた者たちは隔離しておきましょう。近衛騎士団にも今日のことで、第3王子殿下に係わることは口外禁止にしておきます」
と副団長。
頼むよ。ラッツみたいなのは困るからね。
副団長と補佐官、それに将軍が出て行こうとしたから、
「あ、将軍は話があるから残って」と呼び止めた。
将軍と2人だけで話したいんだけど、ロゼが残ってた。
「ロゼ、離宮に帰ってリアルテに今日は遅くなるから先に寝ているように伝えて」
「それは構いませんが殿下はまだなにかなさるのですか?」
「ううん、ちょっと」
汚い大人の仕事。
「わたしが申し上げるのもなんですが、リアルテ様は殿下のことを大変心配なさっておられました。短い時間でも一度殿下がお戻りになられた方がよろしいかと」
朝食の席から抜けて来ちゃったからね、あの子が心配してるだろうことは僕も予想できるんだよ。
でもね、今はリアルテと顔を合わせたくない。
悪いことばかり考えてるから、あの子の純真な眼で見られると心が痛みそうで。
うん、あの子のせいじゃないよ。リアルテはなにも悪くない。なにもね。
「殿下もお分かりでしょう。リアルテ様がどれほどお心を痛められるか。一言二言だけでもいいので、どうぞお戻りを」
僕の逡巡を察したロゼは、それでもリアルテのために戻るように進言してから一礼して出て行った。
有能なんだよなあ、ホント。
「それで、殿下、私になんの御用でしょうか?」
僕がリアルテのことで悩んでいたものだから、将軍から聞いて来た。
「ああ、将軍には馬車を用意して貰いたいんだ」
「馬車、ですか?」
そんなもの、別に将軍でなくとも用意できる。将軍も、何故、という風だ。
「できるだけ大きくて、中でゆったりとできる、揺れの少ないもの。王族用から選んでくれればいい。僕の名を使って。
それとその馬車を護衛する者と女性医務官を2人と助手を2人。必要なら彼女らの馬車も用意して、こちらは普通の馬車。全員、口の堅い信頼できる者でお願い。
旅程は、片道3日ほどだったと思う」
「誰かをお迎えにあがる、ということでしょうか?」
「そう。貴人を迎えに行って貰いたい」
「ふむ、して詳細は話していただけないので?」
どこに誰を迎えに行くのか。
普通はそこから話すよね。分かってる。分かってるけど、今は駄目なんだ。
「陛下の判断を仰ぐ必要があることなんだ」
「つまり、陛下が戻られ、必要となったときにすぐに出られるようにせよ、と?」
「そういうこと。これはお願いではなく、第3王子としての命令」
僕が将軍たちに命令するなんてことは滅多にない。
そりゃ、なにか頼めばそれは命令みたいなものだけど、はっきりと『命令』と口にするかどうかは大きい。
王族から命じられたら将軍も簡単には否とは言えない。ただし、僕の方もね、徒に命令を出せば後で問題にされる。僕は王族ではあっても王ではないからね。
それを承知の上で命令するのは、それだけ重要なことだから。
将軍はじろりと僕の顔を見た。
表情から考えを読もうとしているのかもしれない。
この人相手に考えを隠すって難しいんだよね。軍部の中枢にいて陛下の信頼も篤いってのは伊達じゃない。
王族としての命令の強制力があっても、この人相手だと機能するかどうか。
「陛下が戻られてからで間に合うのですかな?」
「それは分からない。でもね、間に合わないかもしれないからと際限なく越権行為をしていい理由にはならないでしょ」
「しかし、あなたが准勅を出すほどに重大事ではある」
王からの命令は勅令。それに準ずる立場にある者が発すのは准勅。飽くまでも便宜上の呼び名であって法的なものじゃない。
王ではないけれど王族が出す。
ややこしいのは、王族であっても王から委任された者が出せばそれは勅令。正式な権限がない王族が出すのが准勅令。
慣例的な話でしかないのに、後々『准勅令』と書類に明記される。
僕としてはそこまでのものとは考えていなかったのだけれど、そう受け取られても仕方ないとも思う。
「戦闘は想定されますか?」
「そうだね、想定しておいて貰いたい。立派な鎧を着けた野盗に襲われ無いとも限らないからね。まだまだ国内も治安悪いところがあるから」
立派な鎧を着けた野盗ってのは、野盗を装った貴族の従士や騎士のこと、国内という言葉を使ったのは想定される敵が外国勢力ではなく国内のものであることを示してる。
要約すると、国内貴族の私兵に襲われる可能性を排除できない、ってこと。回りくどいかもだけど、あからさまに言えないことってあるんだよね。
結構厳しい条件だよ、これ。
ある場所に人を迎えに行って欲しい。土地の貴族が力尽くで奪いに来る可能性もあるから気を付けて。ってね。貴族の領地に赴いてるときに、その貴族の私兵に襲われたらかなり厳しいことになる。周り中が敵だらけだから。
王族の使いが襲われるってのは、向こうもそれだけ必死になってるってことでもあるしね。
1人でも逃せば自分たちが王族に逆らっていることが知れてしまう。だから、襲うとなったら全滅させるつもりで来る可能性がある。
さすがにそこまでのことはしないだろうと思うけれど、あり得ないことじゃない。最悪を想定しておかないと犠牲が増える。
場合によっては問題の領地の隣の貴族に兵を出して貰って護衛にするとか、少々の戦力じゃ襲っても無駄だぞって示さないといけないかもしれない。
貴族の領地に他の貴族の兵を入れるのは問題だし、兵を出させる口実だって考えないといけない。
……考えれば考えるほど面倒臭いな。
正直、放り出したい気分。家族の命運がかかってなきゃ、絶対係わってない。
「その辺も、陛下と良く相談しなきゃだね」
将軍は納得してくれたみたいで、
「では、陛下がお戻りになられるまでに人選を済ませておきましょう」と請け合ってくれた。
いい加減なことを言う人じゃないから、将軍が請け合ってくれたなら大丈夫だろう。
「1つお伺いしたい」
「干し柿なら手元にないよ。去年の分は食べちゃったから。味は甘くて、食感が独特」
「干し柿の話も気になりますが、今お伺いしたいのは『王の影』についてです。殿下はどこまで把握していらっしゃるので?」
ドラクル将軍は厳めしい顔のままだ。
うん、冗談に真摯な対応されるとやりにくいね。
「そういう者たちがいるということ、それと、子爵の地位で将軍職に就き、陛下の信頼も篤い武門の家柄のドラクル将軍がなんの係わりもないはずがないってことかな」
後半は単なる当て推量だね。
証拠があるわけじゃない。
でも、軍の重鎮で代々王家に仕えてる人が諜報機関に係わりがないって方がおかしいでしょ。
たぶんでしかないけど、『王の影』を統率するか、それに近い立場じゃないかな。
「そういうお考えをお持ちなのは自由ですが、余り人前では口になさらぬようお願い致します」
はっきりと自分は係わっているとは言わない。僕の考えは正しかったらしい。
将軍が『王の影』と繋がっていることはカミラも知らないんじゃないかな。そういうのは親兄弟でも秘密にするものだ。伝えるときは、相手を組織に引き込むとき。
カミラは僕と同じでまだ子供だけど頭の回転は早いから、そういう仕事に向いてるかもしれない。宮廷雀たちの統括とか、情報精査とか。
僕の方で働いて貰いたいから、将来は将軍と取り合いになるかな。




