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第五章は6分割
1つ1つがちょっと長めです
「それはそうと、父上に報せは?」
王太子に毒が盛られ、命に別状はなかったというものの倒れたのだから大事だ。当然、視察のために遠方へ行っている国王にも報せるべきことだ。
「急使を走らせた。5日もすればお戻りになるだろう」
携帯どころか固定電話すらないからね。
急な報せも人を送るしかない。つまり、時間がかかる。
急使だから休みも最低限で行くだろうけど、それでもパパンに報せが届くまで2日から3日。そこから急いで王都へ戻ったとしても……次兄の言うように5日で戻るなら早い方だね。7日ぐらいかかってもおかしくはない。
使いがすんなり国王一行と出会えるとも限らないしね。
国王一行の予定は知っててもさ、その通りに行動できているかどうかは分からないんだよ。そうすると行き違いがあったりして、合流までに余計な時間がかかる。
連絡手段をちょっと発展させるだけで社会が変わりそうだよ。
「では、折角ですから王太子殿下には暫く生死の境を彷徨って貰いましょうか」
僕の提案にリューイ兄だけじゃなく将軍も顔を険しくする。
「王太子殿下に不幸があった場合、誰がどういう動きをするかを見る良い機会です」
「そういうことか」
なんですか、リューイ兄上。
王太子殿下になにかするとでも思ってるんですか?
「万一に備えて身の振り方を考えるのは普通のことです。けれど、万一を起こそうとする輩がいるかもしれません」
王太子重体となれば次の王太子となるリューイ兄に擦り寄って来る人間は当然いるだろう。処世術としてそれは間違ってない。
問題はこの機を狙って謀反起こそうとか、王太子殿下の寿命を縮めようとする人間がいるかもしれないこと。
彼らは狡猾だから何事もなければうまく隠れているだろうけど、王太子危篤、王が不在の機会とみればなんらかのアクションを起こすかもしれない。
王家が隙を見せたとき、誰がどういう動きをするか。
王太子が無事だったからできる作戦。
「転んだなら、タダで起きる手はありませんよ」
って、兄上、なんでそんな引いてるんですか。
副団長も。
将軍は……表情が読めないな。ロゼが驚いてるのは分かる。まあ、実の兄が倒れたのを利用しようって言うんだから褒められたものではないね、確かに。
「将軍、今日のことについて箝口令を」
「王太子殿下が無事であると、既に知られておりますがいかがします?」
「回復したように見えて容態が急変することは珍しくないでしょう。リューイ兄上、王太子殿下に面会して病床にいるふりをしてくれるよう頼んでください。
副団長もリューイ兄上と一緒に行動して、慌てているよう見せかけて。
それと『王の影』たちに有力貴族の動向を探らせてください。既にやってると思いますけどね」
どこの国にも諜報をする機関はあるものだ。大小やどれぐらい隠しているかは国によって違うけれど、うちの国では『王の影』がその諜報組織に当たる。
王直属だからね、僕は頼みはできても命令はできない。できないけどさ、王太子に毒が盛られた時点で諜報部隊は動いてるはずだよ。それぐらいできないようじゃ役に立たないでしょ。
『王の影』についての頼みに関して、僕はその場にいる誰に対しての言葉かは明言しなかった。そら諜報機関だからね。誰が所属しているのかも内緒だよ。全容を把握してるのは限られた人間のみで、僕はそこに入ってない。それでも当たりを付けることはできる。
今ここにいる人員はロゼ、将軍と補佐官、近衛騎士団副団長にリューイ兄上と兄上の護衛2人。みんな、僕が一体誰に対して言ったのかと怪訝に思ってるだろうね。『王の影』の人間以外は。
王位継承権を持ってると、成人したときに『王の影』の窓口として1人与えられるらしい。僕もリューイ兄上もまだ未成年だから窓口はいない。
だからね、リューイ兄上だって『王の影』の話は聞いていても誰がそうかは知らないはずだ。
「おまえ、誰が『王の影』か知ってるのか?」
「いえ、知りませんよ」
あ、兄上が脱力した。
「それじゃ、今のはなんだ」
「誰がそうであるかは知りませんが、この顔触れの中に紛れていてもおかしくはないでしょうし、そうでなくともこの部屋の様子を窺っていないようなら役立たずです」
仮にも王族が近衛騎士に連行されたんだからね。
王宮内で起こった広義では謀反とも言える事件を諜報機関の人間が気付かなかった、知らなかったじゃ済まない。王への報告もしなけりゃならないんだから。
「まったく、あなたという方は」
将軍が苦笑いしてる。へえ、笑うことあるんだ。
「なにをしてるんです? 急いで行動しないと折角のチャンスが無駄になっちゃいますよ。王太子殿下は急変して危篤状態。それで行きましょう。異論があるならお早く」
「第3王子殿下、まだ毒を盛った犯人も分かっておりませんが、そちらはどうなさいます?」
これは将軍の補佐官から。
補佐官と言っても、確かドラクル将軍の甥のはず。カミラの従兄だね。風貌は将軍とは余り似ていない美男子。
将軍には別に長年の相棒として副官がいたはずだから、補佐官は甥を鍛えるための役職かな。いずれ自分が引退した後に継がせる気かもしれない。
「当然、並行して捜査継続だよ。門番たちから誰に頼まれたか聞き出せても、最後までは辿れないと思うけど」
何人も人を介してるか、絶対口を割らないような脅しのネタを持ってるか。さっきの様子からすると前者だと思うけど、どうかな。
「ああ、それと、今日、僕は近衛に連行されていないことにしますから」
「はあ?」
と口に出したのは兄上だけだけど、将軍以外が全員そういう顔をした。
「王太子殿下の急を聞いて、詳細を知ろうと近衛騎士団詰め所を訪れた。けれど近衛騎士団も大騒ぎになっていたから長く待たされた。それだけのことです」
「レリクス、そういう結論になった理由を説明しろ。おまえは時々過程を省くが、誰もがおまえと同じ考えをするわけじゃないんだ」
?
そうですか? そんな難しいこと言ってるつもりはないんですが。
「ラッツを始めとした面々は近衛騎士団のお飾り部隊でしょう」
実力ではなく、血筋での採用。貴族の令息たちが箔を付けるための部隊。
副団長を見やると、普段は堂々たる騎士なのに今日は肩を竦めてしまって、
「まあ、そういうことです」
言いにくいだろうね。役立たずの集まりです、なんて。




