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王太子暗殺未遂事件~存在しない容疑者~  作者: S屋51
第四章 庭師の少年

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「では、どうしてその子供が第3王子の宮の者と証明できる?」

「証明、でございますか? それならば、メイドが第3王子の宮で見掛けたと申しておりますから」

「レリクス、おまえの宮に庭師はいたか?」

「専属はおりません。王宮付き庭師が時折手を入れに来てくれるだけです。庭師の子供も存在しません」

「第2王子殿下、そのような嘘に惑わされてはなりません。調べれば分かることでございます」

 ラッツさあ、その調べることをやらなかったのが君たちでしょ。

「調べてもいない者がなにを言うか。

 レリクスの宮に専属庭師も、庭師の子供もおらん。おまえの言うように調べれば分かることだな」

 次兄、嫌味たっぷりだね。

 例え3番目であろうとも僕は王族。それを下に見る連中を見過ごすことはしてはならない。次兄もそのことをちゃんと分かっている。

「庭師の子供はいました。本当です」と言ったのはメイドだ。

 たぶん、彼女は本当に見たことがあるんだろうね。庭師みたい格好をしてる子供を。

「ということだが、レリクス」

「何度聞かれても僕の宮に庭師の子供はいませんよ。ただ、庭師みたいなことをする子供ならいますけどね」

 知ってて話を振ってるでしょ。

「それで、その子供はなんという?」

「レリクス」

 メイドたちが怪訝な顔をする。そうだよ、僕の名だよ。

「うちの宮にいる子供はね、僕とリンドバウム公爵令嬢の2人だけなんだよ。

 僕は趣味で色んな作物を育てたりしているから、時々動き易い格好で土いじりをしてる。専門家の庭師に意見聞いたりしてね」

 いや、庭師って畑の専門家じゃないけどね。

 でも質問すると答えてくれるし、分からないことは調べてきてくれる。

 メイドも門番もぽかんとしてる。

 そりゃそうだよね。庭師の子供のせいにしたのは、平民ならどうとでも抑えつけられると思ったからでしょ?

 まさか、王子が土いじりしてるとは思わんよね。でも、事実そうなんだよ。庭師の子供なんてのは存在しないの。

 ロゼも将軍も、そして当然リューイ兄も知ってること。

 だからメイドたちの証言を聞いた瞬間、誰かが僕を陥れようとしていると気付いた。

 お粗末な話だよ。

 庭師の子供がいないなんてことは、ちょっと調べればすぐ分かることなんだから。

 そもそも、庭師が子供連れて来るわけないじゃん。

 弟子を連れて来ることはあっても、もうちょっと年齢上だよ。10歳未満の子供を連れて来て、もし貴族や王族相手に粗相があったら首が飛ぶんだから、相応に礼儀が分かってる者しか連れて来られないよ。

「もう一度聞こうか、誰が王太子殿下の宮に果物を届けた?」

 門番とメイドは自分たちの置かれた状況を理解したようで、リューイ兄に問われても答えられなかった。

 青褪めた顔で身体をぶるぶる震わせているのは、命の危険が迫っていると分かったんだね。

 どういう理由で嘘を吐いたのかは知らないけれど、この罪は重いよ。

 王族を貶めるための偽証をした上に、王族に嘘をついている。

 2人ともたぶん平民だと思うけど、貴族家でも実家が潰されるレベルの重罪。平民なら一族郎党処刑の可能性すらある。

 冗談じゃなくて、本当にそれぐらい重い罪なんだよ、王族相手にやらかすってのは。

「でも兄上、勘違いというのは誰にでもあることですから」

 助ける義理なんてないんだけどね、2人ともまだ若い。漏らしそうなぐらい怯えてるの見て可哀想になっちゃった。

 リューイ兄が僕の意図を察して咎める眼をした。

 王族に対する罪をなかったものにはできない。厳罰に処さないと王族のメンツに係わる。

 それは分かってますよ。分かってますけど、命だけは勘弁してあげませんか。

「ねえ、2人とも。記憶間違いをしたんだよね? 別の日に来た別の誰かと間違えた。王太子が毒を盛られたなんて大事件だから、2人とも動揺してたんでしょ?」

 2人とも必死で頷く。

 良かった、伝わったみたい。

「けどね、例え記憶違いであっても重大なことを誤って報告したんだから罰は受けなければならない。どんな罰になるかは、これから君たちがどれだけ協力的であるかで決まる。重労働1年で済むか、それとも終生となるかは君たち次第だ。分かるよね?」

 知ってることを素直に話せば死罪を重労働刑で済ませてやる、と言えば大抵の人間は口が軽くなる。

 もしそれでも喋らないとすれば、自分の信念に基づく行動だったか、或いは自分の命より大事なものを人質にされているか。

「それじゃ、別室で詳しい話を。今度は間違えないようにね。なにか困りごとがあるなら相談に乗るから、隠し事はしちゃいけないよ」

 最後ににっこりと微笑む。

 この微笑みが救いの天使に見えるか、地獄の底から見上げる悪魔に見えるかは当人たち次第。もちろん、僕は天使のつもりだよ。極刑回避のための選択肢だからね。

 将軍に目配せすると、彼は部下に指示を出してメイドと門番を別室へ連れて行った。誰に頼まれて嘘の証言をしたのか、全部話してくれるといいけどね。

 さて、残ったラッツと愉快な近衛騎士団。

「さて、卿が言った弟が犯人であるという根拠はあっさりと覆ったわけだが、この責任をどう取る?」

「違う、そんなはずはない。いや、例え証言が間違いだとしても賤しい身で……」

「黙れ!」

 おっと、リューイ兄が珍しく怒鳴った。

 びっくりした。

 声を荒げるなんてしない人だから。

「マルエイ伯・嫡子ラッツ、いつから王族とはなんであるかを決められる身分になった?」

「?」

「一伯爵家、しかも当主でもない者が王族の価値に言及するなど思い上がるにもほどがある。

 レリクスは我が弟であり、第3王子。王位継承権3位の王族。国王も国法もそれを認めている。そのレリクスに対しての不敬は我ら王族すべてに対する不敬。そのこと分かっての発言であろうな」

 うん、まったくもってその通り。

 僕が王族として駄目だとかをラッツにめる権利なんてないんだよ。

 僕を王族として扱わないというのは、僕を王族と認めている王や兄姉たちに反する行い。王族内で浮いた存在だったとしても、それは王族内での話。外の人間、それも臣下がその価値について言っていいはずがない。

 酒場で愚痴る程度ならまだしも、公務中に堂々と発言したら立派な不敬罪なんだよね。それも盛大にやらかしてるからお家は取り潰され、主だった者は死刑台送りになるぐらいの。

 この世界、まだまだ人の命が軽いからね。簡単に死罪になる。

 昔々もそういう時代はあったでしょ。江戸時代とかの階級社会。斬り捨て御免なんてことが罷り通ってた。

 今も似たようなものだよ。貴族は無礼な平民を手打ちにしても罪に問われない。

 貴族は王族に不敬を働けば程度によっては死罪。更に悪質なら一族もろとも。

 そんなこと貴族なら普通に知って居ることだし、子供の頃に教えられることなんだけど、ラッツはそれを知らなかったのか、自分の裁量で良い王族と悪い王族を決めていいと思い込んでいたのか。

 ラッツだけじゃなく、彼と一緒にいた騎士たちも止めなかったわけだから、きっと立場の弱い王子を侮ってもいいと盛大な勘違いをしていたんだろうね。

 勘違いするのは勝手だよ。好きにすればいい。ただ、行いには報いがあるものだ。

 ラッツ以外の近衛騎士はもうずっと静かだ。とっくに自分たちの行いがどんな結果を招くのかについて想像が及んだんだろう。手遅れだけどね。

 僕を連行した時点で有罪確定。ただ、そこまでなら事件の混乱もあってやり過ぎただけという言い訳もできたかもしれない。けど僕に浴びせた暴言の数々や、他の人たちがいる前、とくに次兄がいる前での暴言は取り消せない。

 ラッツに至っては、何故自分が責められるのか未だに理解していないみたい。

 ラッツに罪の意識があろうがなかろうが彼に下される処分に関しては関係がない。子供じゃないんだから同情する気も無いよ。

 気になるのは伯爵家だね。ラッツの行いの責任、その一端は伯爵家の教育にある。常識と礼儀をきちんと教え込んでおけば良かったのに。

「ドラクル将軍、陛下がお戻りになるまで騎士ラッツ及びレリクスを連行するときに同行していた者すべてを牢に入れておけ」

「お待ちください。我々は騎士です。不手際があったとしても、然るべき扱いをされるべ……」

「おまえたちはレリクスに相応の部屋を用意したか?」

 異を唱えたラッツにリューイ兄が睨みを利かせる。

 まだ13歳だけど、さすが王族。相手を威圧する睨み方を心得てるんだね。


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