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第四章も3分割
あれ、3分割多いな
面倒だから僕に無礼を働いた近衛騎士と、僕の宮からの使いという庭師の子供と接触したというメイドと門番には1つの部屋に集まって貰った。
メイドと門番は特に拘束も何もしていないけど、騎士たちは全員装備を取り上げられて後ろ手に縛られてる。
その騎士たちを将軍の部下たちが監視している。
「レリクスぅ」
僕が姿を見せるとなんとかいう騎士、僕を連行したとき主導していた騎士が僕を睨んで苦々しく言った。
いや、あのさ、この期に及んでまだ自分の罪が理解できないの?
言っておくけど、僕がどうこうじゃなくて法が許さないんだよ。
「黙れ」
拘束された近衛騎士を監視していた兵が僕への不敬を見咎めて十手で殴った。
そう、十手、あの時代劇の奴。
なんでそんなものがあるかと言えば、僕が普及させた。
犯罪者を生かして捕らえるには便利だからね。こういうときの手加減もできる。
提案しただけで、実用性を考慮して広めたのはドラクル将軍とノイグ第一騎士団長。当然、パパンの裁可も得てる。
悪即斬が普通の社会だけど、できれば法によって裁きたい。だから衛兵には持たせている。
守るなら剣よりこっちのがいいしね。
「副団長、将軍閣下、何故そのような賤しい者に従うのです。反逆者の血が……」
懲りない人だね。
近衛騎士はまた一発食らって、やっと黙ったよ。視線は僕を射貫いてるけど。
しかし、反逆って、まだそんなこと言ってる人いるのか。そんな噂が流れたのは大分前だ。国のまずい歴史でもあるから知ってても良識ある人は口にしない。つまり、それを堂々と言う時点でこの騎士には良識も常識もない。
「近衛騎士というのは、精鋭が揃ってると思っていたんだけれどね」
ドアを開いて入って来たのは次兄・リューイソーンだった。
ドアを開けたのは次兄の護衛騎士。どうやら、今の言葉は廊下にまで聞こえていたらしい。
「兄上、何故?」
「王家の兄弟を狙ったことなら、おまえだけに任せておく訳にはいかないだろう。王太子殿下はご静養中だけど、僕らに任せると仰せだよ」
どうやら僕が牢にいる間に次兄は長兄を見舞っていたらしい。
次兄の見舞いを受けられる程度には元気なんだろう。少し安心した。
将軍とロゼ、それに副団長も頭を下げる。
王族が姿を見せれば、それが普通だよね。
「兄上のところも狙われたとお聞きしましたが、大事なかったようでなによりです?」
「おまえのところの侍女というのが持って来たそうだけど、そんな怪しさ満点なもの食べるわけないだろ。
おまえなら自分で私に手渡しするか、一筆書くだろうし」
さすが兄弟、分かってる。
兄弟と言っても立場が立場だからね、口に入るものを気軽にやりとりはしないよ。なにかあったら事だからね。
だから僕が食べ物を届けるときは自分で行くか、手紙を添える。それが間違い無く僕からだと分かるようにね。これは逆でも同じだよ。まあ、兄上たちから僕へ食べ物の贈り物って記憶にないけど。
長兄もちゃんと注意してりゃ分かったろうに。
「第2王子殿下、騙されてはなりません。その小僧は国家転覆を狙い、恐れ多くも王太子殿下と第2王子殿下に毒を盛ったのです。見た目に騙されてはなりません」
殴られても立場が理解できないのは困りものだね。
というか、完全に僕を悪者にして自分を苦難に遭っている正義の味方とでも思い込んでいるんだろうか?
……兄上、それに将軍たちも、何故見た目に騙されては、という下りで頷かれたのですかね。
「耳が腐り落ちそうな妄言だ。アンネローゼ嬢、別室で待たれてはいかがです? ご令嬢にはお耳汚しでしょう」
ロゼを気遣うのはさすが兄上。
ロゼは元々は長兄の婚約者候補だったから、以前は将来義姉になるかもと考えていた相手なんだよね。それが僕の部下って形になってるからリューイ兄も複雑かもしれない。
そして口の減らない騎士。
確かに、聞いていて愉快な内容ではないし、これから色々聞き出すのに口を塞ぐわけにも行かないから今以上の罵詈雑言が飛び出るかもしれない。
あの騎士、ええとマツザカ、じゃなくてマルエイ伯・嫡男のラッツだっけか。
こんなのが爵位継いで伯爵とか冗談でしょ。
「ご配慮痛み入ります。ですがどうかお気になさらず。現在の私は第3王子レリクス殿下の侍女。となれば此度の問題の渦中にもあります。この後に起こることを見届けるのも役目と考えております」
ああ、そう言えば書類上は僕の侍女だっけ。
実質的には秘書役なんだけど。書類仕事の補佐をして貰ってるからね。
「第2王子殿下、何故お聞き届けくださらないのですか。そのような賤しき血に塗れた者、疾く放逐するべきです。いや、処刑せねばなりません。王家を穢す毒でございます」
ラッツは頑張るねえ。
十手で更に打ち据えようとしたのを手で制した。
「我が弟が一体何をしたのか、卿が知っているというなら是非聞かせて貰おう」
リューイ兄が水を向けると、ラッツはやっと自分の言葉が届いたと表情を明るくした。
将軍もなにも言わない。この室内で一番の上位者はリューイ兄だからね。
「その者は果物に毒を盛り、王太子殿下及び第2王子殿下の毒殺を図りました。陛下の温情で王族の端にいられることを勘違いし、己の立場も弁えず玉座を狙う逆賊にございます」
おお、つっかえずによく言えたね。
色々悪評あるのは知ってるしさ、悪口もいくらかは聞こえて来てるけど、僕を前にしてここまで言う人間は珍しい。
普段から僕のことを下に見てたんだろうね。
「それは証拠あっての言葉か、それとも卿の妄言か?」
「証拠なら御座います。そこな門兵とメイドが、確かに第3王子の使いから毒入りの果物を受け取ってございます」
ラッツは凄く勝ち誇ってる。駄目だ、手の施しようがない。
リューイ兄が視線をずっと畏まったままのメイドと門番に向ける。
彼らは王太子宮に勤務していても王族と直接会話する機会などそうはないはずだ。特に門番は王太子が宮を出入りするときに見掛けるだけで、たぶん挨拶すらしたことないんじゃないかな。
長兄は立場上、身分差に関して僕みたいに緩くないから。
「間違いなくレリクスの宮の者だったのか?」
問われた2人がびくんと反応する。
気の毒なぐらい緊張してるな。でも、これも身から出た錆だよね。
……あれ、ひょっとしてリューイ兄は美味しいところだけ持って行こうとしてない?
いや、いいんだけど、それならそれで一言相談して欲しかった。
「はい、間違い御座いません。以前に第3王子殿下の宮に使いに行きました折に見掛けました。庭師の子供です」
メイドはやや震えていた。
緊張のせいじゃなく、嘘がばれないか心配してるんだ。
「ほう、どのような子供だ?」
「年の頃は10に満たぬほどでしょうか。いつも紺色の、少し珍しいタイプの繋ぎ服を着ておりました。
庭師とともに畑をいじっておりましたから、庭師の子だとすぐに分かりました」
リューイ兄、唇の端が僅かに震えてる。笑うの堪えてるな、これは。
「その子供が果物を届けたのだな?」
「はい、籠一杯の柿を持って参りました」
「どのような口上を述べた?」
「第3王子の宮にある柿の木が見事に実ったので、王太子殿下にご賞味いただきたい、というようなことでした」
「では、その子供の名は?」
「そこまでは存じません」
リューイ兄が門番に視線を向けると、門番は同意するように頷いた。
「卿はその子供の身柄を確保したか?」
問われてラッツは首を横に振る。
「いいえ、そのような下っ端を捕らえたところでなんの意味があります。諸悪の根源を捕らえれば済むことです」
「つまり、その子供を確認して証言を得ることをしなかったのだな?」
「第3王子の宮のものと分かっていれば、それで十分です」
十分なわけないでしょう。
実行犯でしかないとしても、その人物を押さえて証言を聞かないとか。駄目過ぎるだろ。




