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中間管理職は辛いねえ
でも、ここでも問題になるのが僕の動機。
2人の兄を暗殺したところで、待っているのは不安定になった玉座。王太子派とも第2王子派とも反目して国家運営なんてまともにできるわけがない。
「王太子殿下はともかく、リューイ殿下が助かるのが大前提としてなら僕を巻き込む意味もあるのか」
「では、第2王子殿下が関わっていると?」
「まさか。リューイ殿下は僕以上に王位なんて要らないと言ってる人だよ」
「あなた方ご兄弟は揃って王位に価値なしとされていましたな」
え、なに、その呆れ顔。
将軍、そんな人間っぽい顔できたの?
「王太子殿下、第2王子ともに亡くなった場合。
王太子殿下は無事で第2王子のみ亡くなった場合。
王太子殿下が亡くなり、第2王子が生き残った場合。
2人ともご無事だった場合。
パターンとしてはこの4つかな。
お2人が亡くなれば王位は当然僕のところへ来るけど、疑われるのも僕だよね。そして、僕が玉座についてもとてもじゃないけど国を安定させられない。疑惑付きとなれば余計に反発する貴族も出るだろうからね。
第2王子のみ亡くなった場合、王太子殿下は僕を罪人として裁くことができるし、自分の地位を奪う可能性のある者を2人とも排除できる。けど、そもそも現在王太子殿下一択で話が進んでるのに兄弟殺しをしてまでややこしくする必要はない。
王太子殿下のみ亡くなった場合、第2王子殿下は唯一の競争相手である僕を罪人として裁くことで継承の地位を確たるものにできる。国家運営も王太子派を取り込めるだろうしね。本人のやる気はともかく、第2王子殿下を担ごうとする者にとっては都合がいいね。
2人ともご無事だった場合は、現在がこれだけど、僕が疑われるだけだよね」
あれ、近衛の副団長さん、なんでそんなぽかんとした顔してるの?
「殿下、子供のふりをするのをお忘れですな」
って、将軍、なにその失礼な言い様。
ふりもなにも、僕は子供だよ。
って、ロゼ、何故笑いを噛み殺す?
立派なドリル状巻き毛が揺れてるよ。
「ふりってなにさ」
は、と将軍も笑う。
おまえのような子供がいてたまるか、って顔で。
心外だ。非常に心外だ。
9歳児だよ、僕。
身体も小さいでしょ。
「それで、第2王子殿下が有力とみてよろしいので?」
「まだ分からないよ。リューイ兄上も狙われたって話が本当かどうか確認しないと」
もし狂言だとすれば容疑は一気に濃くなる。
けどリューイ兄上が王位を欲しがるとは思えないし、第2王子殿下派は大きくないし、強行手段に出そうだなんて話聞いたこともない。
「ただね、外に容疑者を考えるのは難しいかなって。
ただし、それは国内に限っての話。王位が目的じゃなくて、国の弱体化を狙ってのことだとすれば僕ら3人を一度に屠れる、失敗しても混乱を招けるいい手段だよ」
「外国勢力をお疑いで?」
「まあ、そうかもね、という話。
だって、僕以降の継承順位となるとね」
現国王の直系は僕ら3人だけ。
それ以外となると力が無さ過ぎ。
一応4位以降も決まってはいるけど現実的じゃない。
王弟であるリンドバウム公爵はとっくに失脚してるしね。やったの僕だけど。
でも血筋的にはワンチャンあるのか。
ただ、あそこは現状策を巡らす力はないはずなんだよね。僕も監視してるし。
うちのリアルテを冷遇していた実家だからね、許してないよ。
「戦争と飢饉、疫病。そういうのが終わって、今は復興期だよね。それもやっと軌道に乗って来たところなのに、今、王位を巡って争おうとするのは相当愚かな行為だと思うのだけれどね」
「残念ながら、そういう愚か者は後を絶たないのですよ」
戦争について、この場の誰より知っている将軍は小さく吐息した。
うちの国は弱くないけど、戦争を賛美する国でもない。
ドラクル将軍はいざ事が起これば立派に役目を果たすだろうね。記録でも、かなり活躍してたのが分かる。
それでも、本意ではなかったのかもしれない。
「今現在のところ、王位絡みを動機とすると王子という立場の者は3人しかいない。
でも、その3人も僕を含めて兄弟をどうこうしようとは思ってない。兄上たちが僕の想像以上に役者で腹黒いというなら話は別だけど」
「レリクス殿下以上に腹芸に長けた方はおられますまい」
……。
将軍は僕になにか言いたいことがあるのかな?
ロゼも、ああ、ですよねえ、みたいな顔をしない。人を腹黒の悪党みたいに言うなんて失礼な。
「ですが殿下、それでも矛盾しませんか? 王位継承権上位の方々が怪しいけれど、皆様そんなことはしない、と」
「そうだね。兄弟だから欲目というか、贔屓目もあるかもね。でも、そうとしか思えないんだよ」
ロゼの疑問も尤もで、僕もおかしなこと言ってる自覚はある。
うちの子に限って、と我が子可愛さの余り目が曇ってる親のようだ。
一番怪しいのが兄弟だって、考えたくないんだよね
というかね、僕でなく、長兄でもないと次兄ってことになっちゃう。
でも、あの人は違う。違うと思う。確証はないから、個人的な希望だね。
……いや、そうでもないか。リューイソーン兄ならこんな間抜けな計画は立てないな。もっと巧妙に、僕の裏をかくような方法を採るに違いない。
あの人、行動力には問題あるけど思考能力は優秀だから。
あれだ、ホームズさんちのマイクロフトさんみたいな。
妻は1人でいいと駄々こねて王族としての役割を怠っている人ではあるけど、悪い人じゃないし、兄弟を陥れるような人でもない……と思う。
「あれだ、父上がどっかで落とし胤でも作っていたら、その人が怪しいってことになるんだけどね」
「殿下、さすがにそれは不敬では?」
「将軍はあり得ないと言える?」
あ、将軍がそっぽ向いた。
あのオンナスキーなパパンだからね、隠し子いないとは言い切れないよね。
隠してなくても、知らない間に子供がいたっておかしかない。
王宮に何人も妃や愛妾がいるのに、外でも愛人作るような人だから。
ホントにね、知らない兄弟がもう1人いたら、真っ先に疑うところだよ。
「あ……」
いけない、思わず声が出ちゃった。
あり得なくはない可能性。そんなことを思い付いた自分が嫌になる。でも、そうであるならば筋は通るんだ。
そして、この世界の医学レベルなら完全犯罪も不可能じゃない。
「殿下、なにか思い当たることでも?」
「いや、なんでも……ないことはないな。でもね、これは口にしたくはないことなんだよ。将軍は信頼してる。アンネローゼ嬢もだ。それでも、今思い浮かんだことは言いたくない。
これを伝えるとしたら、陛下のみだ」
これで将軍もロゼもそれ以上の詮索はして来なかった。
僕がそこまで言うのだから、余程の大事だと察してくれたんだろう。有能で忠義者の2人だからこそ、僕を問い質したりしない。
副団長さんは、まあ、発言権ないよね、今は。




