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王太子暗殺未遂事件~存在しない容疑者~  作者: S屋51
第三章 毒殺未遂

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第三章は3分割

 僕が王太子の身になにが起こったのか知ったのは夕刻過ぎてからのことだ。

 取り調べを受けていた僕は、考えの足りない騎士たちが業を煮やして過激な手段に出て来たらどうしようかと考えていた。

 話を進めたければ、なにが起こったのかを教えてくれればいいのに、白状しろの一点張りだから僕としてもできることがなかった。

 膠着状態で困っていたところで別の騎士がなにか言伝を持って来て、僕を連行した騎士たちは舌打ちしながら取り調べを中断した。

 で、僕は牢屋に放り込まれた。

 一般罪人が入れられるのと同じ牢屋にね。

 これもまた王族に対するやり方じゃない。著しく反している。

 薄暗く、不潔で臭い牢屋に入れておけば僕が泣き出すとでも思ったみたい。

 そりゃ泣きたい気分だったよ。なんで、こんなアホな連中に付き合わなければいけないのかって。

 捜査能力も尋問能力もない。法的知識も常識も欠如してる。

 世襲制、血統が良ければそれだけで厚遇されることの弊害だね。著しく能力値が低くても近衛騎士になれちゃうなんて。

 やることもないから座ってぼうっとしていたら時間が過ぎてた。

 いつぶりだったかな、こんなのんびりしたのは。

 牢番は戸惑っていたよ。王族をこんな牢に入れてもいいのかって。そらそうだ。それが普通の感覚なんだよ。あの騎士たちにはなかったものだ。

「なにか御用がありましたら仰ってください。その、騎士様に咎められるんでできることは少ないですけども」

 不安そうに、それでも気を遣ってくれる牢番。

「君は真面目に仕事してくれればいいよ。お咎め無いないようにするから」

 僕はそう言って安心させてやった。

 牢番って平民なんだよね。騎士の命令に逆らえる立場じゃない。ただ仕事してるだけの人を咎めちゃ悪いからね。


 暗くなってきて、燭台に明かりが灯される頃に慌ただしい足音が複数やって来た。

 近衛騎士団副団長とロゼ、それにドラクル将軍が幾人かの手勢を連れてのご到着。

 3人は牢の中の僕を見て唖然として、副団長に至っては真っ青になって急いで牢を開けるよう牢番に命じた。いやはや、普段顰め面ばかりのドラクル将軍の驚いた顔ってのは非常にレアだよ。

 副団長のハイネルは事の重大さをちゃんと理解していた。理解してたから顔色を失って、牢から出た僕にその場で膝を突いて謝罪の言葉を並べた。謝罪の言葉じゃ済まないのも分かっていたろうにね。

 見ていて可哀想だったよ。彼自身はなにもやっていないのに子供に平身低頭詫びなければいけないんだから。

 でも団長不在の現在は副団長が近衛騎士団の責任者。部下が暴走したとしても、その責任は取らないといけない。気の毒だとは思うけど。

 いや、将軍、剣を渡そうとしないで。ここで使ったりしないから。

 そうなんだよね。ここで僕が副団長を手打ちにしても、それは正当な罰ってことで処理されちゃう。あの騎士たちの暴走はそれぐらいのことなんだけど、たぶん、当人たちは理解してないんだろうね。

「副団長の処分は陛下に預けるよ。それより、詳細を教えてくれる。なにが起こったか全然聞いてないから」

 僕の言葉に将軍がただでさえ恐い顔の皺を濃くした。

 この人、ホントにあのカミラの父親なのかね。全然似てない。10歳に満たない子供と似てるもなにもないかもしれないけど、それでも親子なんだから共通パーツあっても良いのにね。

「殿下は騎士を名乗る不逞の輩どもに取り調べを受けていたのでは?」

 わあ、ご立腹だ。

 騎士を名乗る不逞の輩って、歴とした騎士だって知ってて言ってるよ。可哀想に、副団長は今にも失神しそう。

 ドラクル将軍は軍人であり忠義の人だからね。娘の婚約者だからって僕に肩入れしているわけじゃなく、近衛騎士達の暴挙に腹を据えかねてるんだよ。

 僕はこれまでのことを説明した。

 うん、ドラクル将軍、恐いから殺気飛ばさないで。

 副団長はもう真っ赤になるやら真っ青になるやら忙しいね。

「取り敢えず、どこか落ち着ける場所へ移動しよう。牢の前ってのがどうもね」

 昼食もなしにずっと牢だったからね。疲れたし、身体も拭きたい。

 なにせ牢の中は不潔だから。

 虫はいるし汚物の臭いはするし……うん、王族が入るような場所じゃなかった。副団長がどう責任を取るべきか悩むのも分かる。

 副団長の首1つで済む問題じゃないからね。

 副団長が人を呼び、僕は結構豪華な部屋に通された。

 湯浴みの用意もすぐにされる。凄いね、急だったのに。

 さっぱりしたところでどっかから服まで用意されたよ。僕のじゃないけど、僕のサイズに合うもの。

 それからまた移動して騎士団のお偉いさんたちが会談する場所で副団長たちと再会。

 そこでやっと王太子が朝食で一服盛られたと教えられた。

 あの騎士たちはその容疑者として僕を連行したんだろうけど、だったら最初からそう言え、と。

 なんで頑なに言わなかったの?

 言ってくれれば話はスムーズに……行かなかったかな。あの人たちじゃ。

「それで、王太子殿下のご容態は?」

 僕は副団長に問う。

 責任を感じてる副団長はさ、ずっと膝を突いて頭を下げたままなんだよね。僕もここで甘い顔するわけにも行かないからそのままにしてる。

 でも目上の人に傅かれたままっていうのは、どうにも居心地が悪い。

「幸い摂取量が少なかったためお命に別状はありませんでした。しかし体調を崩されたので、今はご静養を。

 その犯人捜索で慌ただしく、あの者達の暴走に気付くのが遅れた次第です」

 成る程、そりゃそうだよね。

 王太子が毒を盛られたとなれば犯人捜しに近衛総出にもなるよね。いや、犯人捜しと他の王族の保護も必要となるから手一杯だったんだろうね。だからって、許されることじゃないけど。

「ひょっとして、あの騎士たちは僕の保護担当だった?」

「左様に御座います。急遽王族の方々の警備を強化するとなった折に、あの者たちが率先して殿下の元へ行くと。

 まさか、あのようなことを考えているとは露ほども思わず、申し訳ありません」

 そらそうだよね。

 警備増員ということで手を挙げた連中がさ、まさか僕を保護どころか拉致して牢にぶち込むなんて予想できないよ。

 つまりあれだ、副団長としてはあの騎士たちが僕を保護してると思ってたわけだ。

「彼らの暴走にはいつ気付いたの?」

「はい、調べを進めているところへ彼らがやって来て、もう犯人は牢に入れたから調査の必要はないと報告して来たときです」

「そこに私も行き会わせました」

 と、ドラクル将軍。

「将軍はアンネローゼ嬢から?」

 僕が将軍に尋ねたんだけど、将軍とロゼはアイコンタクトで意見交換してロゼが説明に出た。

「離宮に戻りましたところ、リルフィーネ様から事の次第を伺い、すぐに近衛騎士団へ赴いたのですが要領を得ず、今王都にいらっしゃる中でご助力願えそうな方は将軍閣下だけでございましたので、軍部へ赴き、面会を申し込みました」

 国王も不在、ミリアたちも王都にいない。

 ノイグ団長は陛下に随行中。

 僕ってツテが少ないからね。確かに後は次兄かドラクル将軍ぐらいしか当てがないね。

 次兄は王族なんだから面会申し込んでも即日会えるとは限らないし、将軍という選択はいい判断だった。

 それでも夕方になったのは、将軍への面会も待たされたんだろうね。

 将軍だって暇してるわけじゃないから、捕まえられただけでもラッキーだったね。

「お迎えに上がるのが遅くなりましたこと、心よりお詫び申し上げます。よもや、王族であられる殿下に対し、あのようなこと……」

 ロゼは悔しくて仕方無いという顔をした。

 そうか、牢の様子は令嬢であるロゼには刺激が強過ぎたか。

 ロゼや副団長の反応は至極常識的だ。王族に生まれたと言うだけでそういう扱いを受ける。それは僕が望むかどうかは関係のない話だ。貴族が貴族であるためには、王族を蔑ろにしてはいけない。それは自己否定にも等しい行いだ。

 普通はこんなこと貴族なら常識として学んでるはずなんだけどね。


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