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第一幕 不死になった異世界転移  作者: hubuki
第一章
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第二話「大凶の世界」

‥‥くそ、何もいい案が思いつかない


暗い街灯に照らされた道を宛てもなく歩きながら、彼はそんな悩みに苛まれていた

何も考えずに、ただぶらぶらと時間をつぶしながら、結果を出せなくなった

そんな自分に多少の怒りも覚えつつ、

妹に『たまには、外の光を浴びてきたら?!!』と追い出され、近くのコンビニまで歩いて行くことになった。

だが、結局頭にあるのは作品のことだけ


「てか、今、夜なんだけど‥‥‥」

「‥‥はぁ、結局は時間の無駄だったな」


気分転換にもならず、作業もせず潰した時間

妹の言った通りに、外に出たことを多少後悔しつつ、帰路を辿る


学生では珍しい、白い髪。だが、それ以外はあまり特徴がない少年は、この物語の主人公だ。

ごく平均的な身長

生まれついての筋肉質な体だが

鍛えていないせいで、細身な外見で

目立たないように黒いフード付きのジャンパーを羽織っている。

中には白いTシャツ、黒いズボン、チャックを占めれば黒ずくめ


少し鋭い目は、近づきがたい印象を持つが、目に光はなく、表情も死んでいて

人に紛れれば、すぐに消えてしまいそうな影の薄さだ。


その影の薄さと見た目のおかげか、学生であるにもかかわらず

こんな時間に一人で出歩いていても、補導に合わずに済んでいる

運が悪いのか、良いのかよくわからない人物だ



――だが、今日確実に、そして明確に、少年の運は尽きた

いや、正確には悪運に向いたというべきか


グラっと少しの間、意識が傾く

と同時に辺りが、光で包まれた。

その光の強さに一瞬目を瞑り、再び目を見開くとそこは――


一切見知らぬ土地が広がっていた。



「――――は」

いきなりの事態に困惑する


少年の立場から見てみると、当然の話‥‥

先ほどまで、少し街から外れた道端を歩いていたのにも拘らず

今目の前には、洋風建築が立ち並ぶ、まるで作り物のような世界が広がっていたのだから。

こんな転移のような現象を目の当たりにすれば、誰であれこんな反応にもなるだろう


そんな焦りの気持ちを抑え、少年はあたりを見渡す


目の前を通り過ぎる通行人は、少年を『奇怪で危ないやつ』といった雰囲気で見ている

それもそのはず。

ここに居る多くの人の"ごく一般的な服装"は、

どこかの民族衣装、鉄の鎧、魔法使いの帽子といった、物語に出てくるような物。

それとは大きくかけ離れた珍妙な自分の見た目

理由は一目瞭然だ。


その視線にさらされながら、少年は片手で頭を掻き

意外にも冷静に納得する


「‥‥‥なるほど」

「本当にあるんだな。こんな現象‥‥」


おとぎ話や、創作物の中にしかないもの、と

そう今まで決めつけてきたのだが‥‥


ため息をつき、そして結論を出す


「――これが異世界転移ってやつか」


そうつぶやく俺を、"かわいそうな人"といった表情で、小さい女の子が横目に見ていた


******


この物語の主人公であり、『他人の人生の脇役』

鷹城 暦(タカシロ コヨミ)、十七歳

彼は、小学生の頃そのあだ名を友達だと思っていた、クラスメイトに付けられた

それが後のひねくれた性格に繋がってしまう


彼の性格を一文で表すならば、『利己的で偏屈、そして完璧主義』だろう

過去、誰であれ友達になれる。

人間は皆優しいものであると、考えていたが、先のこともあってか歪んでしまう

"自分以外は信じない、やられたらやり返す。何十年でも恨み続けいつかぶん殴る"


そんな思考回路になったせいか、中学校ではいじめられ、

それをやり返していったことで罠にはめられた。

そのまま、誰にも信用されず停学。

暴力沙汰になることもあったせいか、いつしか完全に人との面倒事を避けるようになっていく


その後、結果として高校には入らなかったものの、運と本人の気質、才能のおかげか

若くして漫画家になった。

家に金は入れて今までの恩を返していくが、両親との仲は悪くなる一方

唯一、彼のことを信じていた妹と共に、別居することになった

だが気が付けば、一日中家にこもって作業、作業。


そんな生活が長く続くはずもなく、発想力に限界がきて‥‥‥‥

残っている貯金での生活が始まる。

それを見かねた妹が、外に放り出し、現状に悩み続けていたところで――、


「異世界転移、か‥‥‥何度整理しても意味が解らねえよ」


現状を確認し、コヨミは頭を抱え、ため息をつく


街の真ん中でいつまでも立ち止まっていては、白い目で見られ続けるため

人目を避けれる場所に移動し、薄暗い路地裏で座り込んでいた


「よくアニメや漫画である、異世界物に巻き込まれるとはな‥‥‥。」

「しかも、降り立った場所が、文明があまり発展していない中世ヨーロッパ系統の国‥‥‥」

「ロボットとかはなしで、俺が元書いていた漫画の世界みたいな鬼がいるわけでもなし

‥‥おそらくは剣と魔法で、みたいな世界だろう」


暴力的な性格と、昔から信用はしない一方、人をよく分析していた影響で

突然の状況でも冷静に物事を考えることができる

例えそれが『異世界転移』であってもだ。


情報を整理していく

まずは、ここが"どこで"、今は"何年"か、ここにどういった文化があるのか、もう少し知る必要がある

最低限の情報がなければ、日本じゃあないし、すぐに死ぬ危険性があるからな


「まあ、こんなとこだろう」


魔法とかそういうのがあれば、面白そうという期待はある

だが、そういったことは二の次だ


「一旦言葉が通じるのか話しかけてみよう」


多少怪しまれるかもとは考えつつ、コヨミはその場から立ち上がり、

近くの通行人に話しかけてみることにした。


「あのーすいませーん」


敬語は慣れておらず、棒読みになりつつも

適当に、近くにいた白いローブを纏った少女に声をかける

少女は、フードを被っていて顔はよく見えない、如何にも関わっちゃいけない奴だ。

普段なら絶対に話しかけはしない手合いだが、どういうやつに話しかければいい?

なんてのはこの状況じゃわからない

なので、身の安全も考えて、自分よりも弱そうな

小柄な少女に話しかけることにしたのだ


「Who are you? You're creepy.」(貴方何ですか。気持ち悪い)


淡白な少女の返事は、英語。

こういうのって、普通こっちの言語に自動翻訳されるもんだと思ってたな‥‥‥と、

内心でぼやきつつも、自身が理解できる言語だからいいかと納得してしまう

それでも、不親切なファンタジーに腹を立てながら、


「声かけただけで、気持ち悪いはないだろ」


と、英語でツッコミ返すのだった

出来れば、友好的に話がしたかったが、

その後コヨミが話し始めるとそそくさと去っていってしまい、

一切情報を得ることができなかった


「ま、普通に恰好からして不審者ではあるか‥‥」


そうしてどこか諦めつつ、先ほどの少女が首にかけていた水色の飾りを思い出す。

妙に変な気配を感じた‥‥‥

そのことも、気になりはしたものの、

少女があまりに無干渉、興味なしを貫き通したもんだから一つも聞けなかった


やはりというべきか、おそらくは異世界で、しかも初対面。

それに加えて、こちら側の怪しい恰好‥‥あまりに不利だ。

早速難関にあたったコヨミは、他の方法はないかと行き当たりばったり歩き続ける


道中、街に並んでいる商店の札を見ると、英語でも何でもない文字が使われていた

かといって、日本語でもない知らない言語。

どうやら、この世界ではしゃべる言語と書く文字は別種らしい


理解に苦しみつつも、この状況に順応しようと思った矢先

高い建物から、ぼーっと空を眺めていた

そこから見たのは、空を飛び交う龍っぽいなにか。

遠目で見ると、人が手綱を握っている


「あれは‥‥操ってんのか。鎖っぽいので繋いでいるよな‥‥‥」


人の数十倍以上ある巨体が、鋼鉄のような鱗を纏って空を

一直線で飛んでいる


「‥‥この世界の文化形態どうなってる」


またもや、ため息をつく

先ほどから見かける、異世界あるあると言わざる終えない亜人と思われる者たちも、全てが意味不明だ

ファンタジーに難癖をつけるのは、ナンセンスだが、現実なのだから仕方ない

犬や猫の耳が生えた『獣人』、他にも『エルフ』、『ドワーフ』っぽいのもいた

いや、獣人はともかく、エルフは森に、

ドワーフは鍛冶場や鉱山とかに普通いるものじゃないのか。


――だが、それも創作での話。

現実は小説よりも奇なるものだ


そして、何より驚いたのは魔法の存在。

少し、通りすがら見ただけだったが、桶に入った水を浮かばせて物を洗っている、

もろ魔法使いの、俺と同じくらいの人間がいた

あれは何を動力にしているのか、甚だ疑問に思うばかりだ


だがこれで、ある程度の世界観をコヨミは理解した


「この世界は、中世から近世に差し掛かるぐらいの魔法世界。

他種族が同じ地で共存共栄し暮らす、理想郷であり、文化は合理性に欠けていて現代とは到底かけ離れている」

「んで、暴力殺しはだいぶありで戦争とか活発そうってところだろう」


これであっているのかよくわからない推測と、

ここが自分の頭ではまだ理解できない世界であると

再認識させられたコヨミは、再び虚空を見上げる


身分証明もできない、都合がいい力も多分ない

あるのは頭一つ体一つで、この身一つ‥‥‥‥


「まあ、ここにとどまっていても仕方ないだろう」


と、見晴らしのいい場所から、階段を降り、細い路地に戻っていく。

現代の科学知識はアドバンテージになりそうだが、今手元にあるのは、


肩から下げた小さめの黒い鞄に入った小型のノートPC(作業用)と、スマホ。

それに、思いついたことを描きまとめるため、常に持ち歩いていた、

手帳(箇条書きだらけ)とシャーペンってところだ

ネットも繋がらないので、電話もできない

充電も有限なので、慎重に、かつ極力使わないようにしよう。


それよりも、現状が分かった以上‥‥‥‥


「次の問題は、どうやって帰るか、だ」


この世界で俺が居た時間と、元の居た世界での時間の流れが、均一だとは考えにくい

ただの仮説にすぎないが、もしも『同じ宇宙の、別の星』ではないのなら

マルチバース‥‥‥多次元の宇宙ということになるだろう。

空間や時間、光の観測なんかが、一つでないのと同じように、

別の世界であれば、観測する位置が違うのだから、時間の流れも同じじゃないはず

実際、コヨミが妹に蹴っ飛ばされて、家から出た時間が大体深夜十一時。

そして、一瞬目を閉じて、瞼を開けるたら真昼間。


「状況自体が!!意味不明すぎるし‥‥‥詳しくは解らないけどなー」


少し怒鳴りながら、コヨミは一人でそうぼやく。

仮説は仮説だ、証明のしようがない

とにかく、一度別世界とつながって、俺がこの世界に来たのだから

もう一度つなげて帰ることもできるんじゃないだろうか


「とにかく、どうにか生きながらえて、原因を探すのが第一目標」


ここに来た時の、場所は明確に覚えている

空間やら座標が関係するのなら、最も必要な情報は"どこからか"だ

そのような感じで、コヨミは一応、前向きに考えを巡らせていく


「‥‥‥にしても、なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ?」


素行は悪く、口も悪い親不孝者ではあったが、

ここまでの仕打ちを受ける筋合いはない。

手違いであるなら、すぐにでも家に帰してほしいところだ


「クソッ、何がどうなったらこんな、誰に話してもドン引きされるような事態になるんだよ!!!!」


ふつふつと怒りが湧き上がってくる

誰かが意図的に召喚したのなら、そいつの顔を一発ぶんなぐって

おんなじ目に合わせてやりたい


そう心の中でぼやきつつ、額に手を置きながら、ため息をつくコヨミ


だが、この世界は、コヨミに更なる試練と不運を与えるようだ

‥‥‥進んだ道の先、コヨミの目に映るのは――白い霧のような門だった。


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