家族になって、他人になって
短編で終わらせる予定です。よろしくお願いします
義妹っていうのがあるだろう?
その多くは漫画や小説の準ヒロインだったり、はたまた物語を潤滑に動かす存在だったり…言うなれば定番とも呼べる存在だ。
近親婚は出来ないからとガチの血縁関係があるのは出し辛い、逆にそういう背徳感を押し出した作品も多々あるが今はそれは置いておくとしよう。
で、その義妹の話だ。そういった事情でガチ妹がヒロインとして出し辛い中義妹という存在は本当に便利だ。
何せ血が繋がっていないから結婚しても問題はない。子供を作っても問題ない。
確かにそれでも背徳感は多少は残るだろう。これまで築いた関係が妹や兄をそういう目で見るのを難しくするだろう。しかし、それは逆にそれ程までの高い関係性を構築したことと同義でもある。
つまり、一度でも気持ちが傾けば一瞬で勝ちヒロインに昇格する存在というわけだ。
おっと、話が逸れたな…じゃあ本題に移ろう。
散々義妹の話をしたからわかっているとは思うが、俺にも義妹がいた。過去形ということはつまりそれは昔いたということだ。現在では違う。
よくある両親の再婚で俺はとある女の子と兄妹になった。そいつは確か外国人の娘で…どの国にいたかは覚えてないな。
俺の父とそいつの母は俺達が生まれた時にすぐに亡くなり、俺達には片親しかいなかった。
父も母になった人も寂しかったのだろうな、何せ子供が生まれてからこれからということで子供と二人身になるなんて…だから他を求めた。
それは断じて悪いことじゃない。むしろいいことなのだろうと思う。未来にちゃんと目を向けているんだなと思う。
本来の物語であれば二人は夫婦円満、今も仲良く過ごして新たな子供が出来そう…っていうのが理想なのだろうが、俺達の場合は違った。
最初はよかったさ、最初は二人とも仲良く過ごしていた。…でも、外国人の義母と日本人の父。
付き合っている時には発覚しなかったお互いの価値観のズレが顕著に現れてしまった。
結婚してようやく気付いたのだろう…本来的にはあまり価値観の合わない存在だったのだと。
そうなりゃ喧嘩は絶えなくなる。俺とその子は家の中で佇むことになる。一緒に隣り合って座っているのに何故だろうな、一人ぼっちになってしまうのだ。
そのうちその二人は離婚した。俺が小学生1年の頃に結婚して、小5の時に離婚したから約四年の付き合いだった。その子は確か俺の一つ下だったのでその子が小4の時に別れた。
今更の話さ、そこから六年が経ち、高校二年になった最近ではその子のことも思い出すことは少なくなっていた。薄情と言われればそうかもしれないが、時の流れは時に残酷なんだ許してくれ。
父がまた新しく再婚し、新たな義妹が出来たことが更にそれを拍車に掛けている。
…マ、その義妹は俺のことを家族とは認めないとか言って結構肩身が狭い状況になっているけどね。別にいいけど。
さてと、長々と話をして申し訳ない。最終的にどうしてその昔の元義妹の話をしたかというと…。
「お久しぶりです。東雲義明さん」
綺麗なプラチナブロンド、日本人離れの超絶美人が突然俺に話し掛けて来る。
そいつは一学年下で噂になっていた転校生…確かドイツからの留学生とか云々…それについては詳しく知らない。
「私を覚えていますよね」
人によっては意味深にも聞こえる言葉、しかし俺にとっては『アン? テメェ人の名前くらい覚えているよな?』という重圧としか思えなかった。
その子のことを思い出したのはそのプレッシャーとか生命の危機とか色んな理由がある。まるで走馬灯の様に多くの過去を今し方思い出したばかりだ。
「あ、あー…カノン…だよな?」
「…正解、よく覚えていましたね。義明さん」
流暢な日本語でそう言って来る。昔のことはよく覚えていないが、確かカタコト…? だった気がするのに今ではこんな感じとは恐れ入る。
彼女の名前はカノン…なんとかだ。元の苗字は全く覚えてない。なんたってその時は義妹だったのだから…ファーストネームを覚えるのだけでよかった。
「貴方のことですから正直私のことを忘れていると思っていました。貴方、そういうところは結構ズボラですから」
「さ、流石に覚えているよあははー」
全くの嘘だ。けれど今思い出したのだから別に問題なくない? いいよね?
「……どうせ覚えてなかったのでしょうが、別にいいです。実際今思い出していれば支障はありませんからね」
元義妹に考えがバレている。あからさまに反応し過ぎていただろうか…。
「この春からこの学校にお世話になります。今後ともよろしくお願いしますね。義明さん」
「あー、うん…よろしく。俺に出来ることがあればなんでも言ってくれ、力になるよ」
俺なりの定型分という名のお世辞を言った。ここでじゃーねと言えるほど俺は畜生じゃなかったのだ。
けれどその返答をしたのにも理由がある。
この金髪美少女…カノンは見た目や言動から察せる通り超絶クールな存在だ。
外国人らしくスラリとした長身、ロングの髪型が更に美人さに拍車を掛けている。
こういうタイプの人間は人の助けを借りるのが苦手…なんでも自分一人でやったりするのが定石だ。
だから俺はここで向かうからはいさよならーと言ってくれることを期待していたのだ。むしろそうなる可能性しかないと思っていた。あくまで社交辞令じゃないかってな。
が、しかし。
「では存分に力を貸して貰います。まずは校舎の案内からしてもらっていいですか? 少なくとも三年間は通うことになるので早めに慣れたいです」
すぐさまその元義妹は定石を破って来るのだった。
─
「なぁ、お前とあの転校生ちゃんってどんな間柄…?」
授業終わりのちょっとした休憩時間。
カノンがこの学校に来てから何度この手の質問を受けたのだろうか? 今回は部活の友人Dだ。クラスの友人Dも兼ねている。
「別に、大した関係じゃないよ。元いも……」
「昔義明さんに大変お世話になった関係性です」
誤解のない事実を言おうとしたところで背後から誤解のある言葉が…なんでそんなこと言うんですか? しかもそんなに強調して…。
「あ、あー…もしかして…幼馴染とかそんな感じ?」
「少し違いますね。将来ずっと一緒に居ようと言われた関係性です」
「あっ、許嫁ェ…」
そんなサスケェ!! みたいなトーンで言わんでくれ。後誤解が更に広がり続けてる。
「あのぅ〜…カノンさん? 周囲から矢のような目で見られるそういう誤解を招くような言葉はちょっと勘弁したいというか〜」
「…? 誤解じゃありませんよ。確かに私はずっと一緒に居ようねとあの時言われました」
あっあっ…周囲からの視線がまた強く…! まるで殺意の嵐の中にいる様だ。
「それと家族になろうとも言われました。あの時の言葉は嘘だったのでしょうか…?」
「い、いやぁ…それ、本当に俺が言ったの? ドラマの台詞とかじゃなくて…?」
最悪だ。更に誤解が広がった…それもこれも言う奴の見た目が悪い。
あぁ…! なんか周囲に人だかりが…なんでこんなに俺を囲むの? やめてよして触らないで…。
…カノンは超絶クール美人だ。そういった美人が言う冗談は冗談に全く聞こえない…なんなら外国人という要素も冗談を言わないだろうという先入観を与えてしまっている。
あと言い方が悪いよねぇ! そんなガチのマジで寂しそうな声としゅん…ってされるとと本当に申し訳なくなるからマジでやめて欲しい。
「そんな…私はずっとあの言葉を大切にしていたのに、義明さんは簡単に忘れてしまったのですか…?」
「あっはははぁー! そんなことないよカノンさん! でもまぁ少しだけ詳細というか仔細を確認したいのでちょーっと此方に来てもらってもよろしいですかねぇ…!?」
「それは後で二人きりでも出来るでしょう? それよりも…これを」
あ、また爆弾発言…そして渡されたのは…なにこれ、弁当箱?
「……受け取って、貰えますか…?」
首をちょこんと傾けて、まるで貰わなければ俺が悪と蔑まれる様な言い方をしてこれを渡してきやがった。
「は、はは…あ、ありがたく頂きやす…」
なお、その弁当はとても美味しかった。購買で買う菓子パンなんぞとは比べ物にならないくらいにな。
弁当を渡した本人はさっさとクラスに戻るし、弁当は美味いけど周囲の視線が銃弾の様に痛いし…とにかく居た堪れない空気がカラスに流れている。
…早く家に帰りたい。いや、やっぱ帰りたくない…。今の状況よりも新たな義妹と家でバッティングする方がなんなら嫌だ。
思春期の女の子って怖いんだぜ? 近くに寄っただけで臭い、キモい、消えて…それなのに父親には媚を売っている。当たりが強いのは俺にだけ…。仕方ないよね…歳近いし…。
なので最近では家に帰る時間を遅くしている。家族の和を乱したくないし、俺がいなくなれば綺麗に回るのだからそうした方がいいと思っている。部活で遅くまで練習すればあっという間だ。だからそれ自体は辛くない。
けど自分も思春期なんでね…キツイこと言われると普通にキツイし、顔も合わせたくねぇなと思うわけですよ。
「はぁ……ご馳走様でした」
気が重くなることを思い出してしまった…。
いかんな、折角美味い飯を食ったのだからもう少し余韻に浸ればいいのに…。
しかし、それにしてもこの弁当美味しかったな。いつの間にこんな料理の腕が上達したのだろうか。
謎だ、謎過ぎる…あっちで勉強したのだろうか、それとも…ん?
弁当箱を片付けている途中、包まれていたナフキンにそのまま弁当箱を包もうとしている時にカチャリと金属音が鳴った。
それを確認してみると…何かの鍵、のようなものと小さく折り畳まれている紙が目に入る。
折り畳まれたそれを開いて中身を確認してみると……。
「…へぁ?」
───
知らない道を歩く。いや、正確にはちょっと知ってる道…学校の帰り際で見た別れ道の先に俺はやって来ていた。
いつもなら絶対通らない様な道、そこを進んでいくと俺の知らなかった景色が様々と目に入る。
何かのキャンペーンでアニメキャラクターとコラボしている自販機、何処にでも絶対あるコンビニ、多分ここら辺のアイドルである野良猫…。
普段なら通ることがない道…普段ならそういう道を通る際は新鮮〜とか、ふ〜んとかそんな感じの感想抱くものなんだが…。
辿り着いた先、ごく平凡なアパートが目に入った時に足を止める。
「ここがあの女のハウスね…」
今の俺にある感情は怒りだった。
あの弁当箱にあった包み紙…そこにはこの場所が示され、そしてこう書いてあった。
『弁当箱は私の家に届けておいて下さい。合鍵も渡しておきます。中に自由にお入り下さい』
「あんにゃろう…! 防犯意識を緩々にしおってからに…!」
俺がもし札付きのワルで、悪い連中とツルんでいて…もし大勢の男を引き連れてこの場所に乗り込んだらどうしたのか。
「一度説教してやらんと気が済まないぜぇ…」
「では、その説教を聞きますので取り敢えず中にどうぞ」
「どひやぁっ…!!」
気が付けば後ろに元義妹の姿が…いつも思うけどなんでこんなに気配ないの?
だ、だがここで無様な姿を晒し続けるわけにはいかない…ここは毅然と強い態度を示さなければ。
「お、お前なぁ…! いきなり人をパシらせるんじゃないよ。後合鍵を気軽に渡すな! 俺が悪用したらどうするんだよ」
「義明さんは悪用しません。取り敢えず中にどうぞ」
む、無駄〜…何を言っても聞かん坊だ。聞かん坊ならぬ聞かぬ嬢だ。
「何をしてるんです? 早くどうぞ」
俺がガックリ首を落としている間にも既に行動している。早い、何事も行動が早すぎない? 俺の二倍の行動時間を持ってたりしない?
「……うっす」
ガツンと言う機会が消えてしまった。そしてなんでか俺はその言葉に素直に従う。
案内されて入った先に待ち受けていたのは…なんとも簡素な部屋だった。
「なんもねー部屋…」
「引っ越したばかりですからね。これからものを増やす予定です」
あるのは最低限の家具、それ以外は全て段ボール箱に納められている。そしてその段ボールの数も少ない…全てを出してもそこまで乱雑にはならないだろう。
もしかしてミニマリストなのだろうか…周囲に物があると落ち着かない的な?
「…あ、そうだコレ…ご馳走様でした」
取り敢えず今日受け取った弁当を返さないと…。
「はい、お粗末さまです。明日も作りますので受け取って下さいね」
「りょーかい…ではなくっ! なんでいきなり弁当を渡して来たんだ? それをする義理はお前にはないよね?」
「お前ではなく名前で呼んで下さい。その方が嬉しいです」
「え、あー…了解ですカノンさん」
「カノン…。呼ぶ捨てで、昔はそうでしたよね?」
聞き分けの悪い子供に言う様に、カノンは俺の唇に指を当てそう言ってくる。…魔性の女感半端ないな、この大人の様に見える姿がそれを助長しているのだろうか。
「…カノン、一つ聞きたいことがあるんだが…」
「はい、どうぞ」
許可をもらったところでこほんと一つ咳払いをして姿勢を正す。
「…なんでこんなに距離感近いの? 俺ら仮にも離婚した親子の娘と息子だよね…普通険悪な関係になると思うのだが…」
義妹でも他人でしかないのに、それに元が付けば尚更だろう…何故ここまで俺と接しようとするのか意味がわからなかった。
「しかも円満離婚じゃなくてほぼ喧嘩別れみたいな感じだぜ? 俺のことが嫌にならないのか?」
「ふむ…」
元義妹は少しだけ考える様に可愛らしく唸ると…。
「…それ、私達に関係あります?」
そんなことを宣って来た。これまた可愛らしく眉を顰めながら。
「いや、だってさぁ…」
「思い出して下さい。確かに私のママと貴方のファーターはとても険悪な関係になりました。結婚した当初の幸せなんてなかったかの様に」
その言葉にうんうんと唸る。あの時は本当にヤバかったね、家の空気が。
「ですが私達はそこまで…というか普通に仲が良かった筈です。一緒に遊んだりしましたよね」
「あー、うん…結構仲良かったよなぁ」
何が理由とかではない。最初のキッカケは忘れたが、仲が良くなる起因となったのは段々と険悪になっていく空気を見兼ねて…確か俺からカノンに話しかけた様な気がする。
「でしたら私達がわざわざ喧嘩をする必要はないのでは? 仲を悪くする理由はないのではないでしょうか」
……それは、…そうだな! 親の感情に子供である俺達が引っ張られる必要はない…とんでもない正論だ。ぐうの音も出ないってやつだ。
「それに今の私が日本で頼れるのは義明さんしかいませんので…出来れば私生活も含めて力を貸して欲しいのです…」
元義妹の甘え、クール過ぎる容姿からそんな甘えた声が出ている。ちょっと脳が溶けそうだった。
「その分のお礼はします。このお弁当はその一つです。他に要望があれば可能な限り受け付けます」
元義妹…カノンはちょこんと俺の服の袖を引っ張る。…段々と思い出して来た。
カノンは昔引っ込み思案で、何を言うのにも時間を必要とする子だった。だからこそ再婚当初は全く俺達の前に姿を現さなかった。
そんな彼女が唯一自分の意思を伝える方法…それがこれだ。
今は言葉を出せる。だから袖を引く必要がない。…けれど、カノンにとってこの行動が勇気を出しているものだということを俺は知っている。
「…お願いします。私と 一緒に過ごして下さい…義明さん」
「よーし! 任せろー!!」
ノータイムでそう言ってしまった。…昔からこの子のお願いという言葉に弱いのだ。俺は。
「…ふふふ、有難うございます」
俺は見過ごしていた。聞き逃していた。初めて彼女が見せてくれたその笑顔に見惚れて何もかもを逃していた。
彼女が右手にスマホを隠し持っていることを、先ほどの言葉の不可思議な空白に込められた言葉を。
「どうか…末永くよろしくお願いしますね? 義明さん…?」
彼女の目に映るのは義兄なんかではなく…一人の異性であることに、俺は気付いていなかった。
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