扇風機にチャレンジ
ツッコミに重点をおいたコメディです。テンションの高さをお楽しみください(?)
今、俺達はアケミさんという学校一の美少女の家に居る。
「とりあえずあれだ、なんだこの状況?なんで俺達がアケミさんの家にいるんだ?」
心底意味不明という表情で俺に聞くのは親友のトモキ。
とりあえず、ここまでのいきさつを説明しよう。
俺達は朝の街中、二人で喋りながら歩いていた。
そこに現れたのは強盗をしたばかりの強盗。逃亡者と言ってもいいかもしれない。とにかく、かわいらしいピンクのバックを片手に強盗は走っていた。
「ま……待って……」
すると後ろから息を切らした、それでいてキリッとした締まりのある女性の声が聞こえた。
後ろを見た俺達は仰天することになる。
そこには、私服姿で走っているアケミさんの姿があったのだ。うん。実にいい。
「ご……強盗です……その人……チーフですっ……!!」
英語で言うとなんかかっこよくなる強盗は、あろうことかアケミさんのバックを盗んだのだ。
「タクヤ……あのさ、今更だけどこれ、ひったくりじゃね?」
「今大切なのはそこじゃないだろ!! 俺も気になってたけどもう強盗でいいじゃん!! さあいくぞトモキ!! アケミさんにいい所を見せるんだ!!」
「お前……本人目の前にしてスゲエな……」
そうして俺達は走り、十分後、疲れ切ってた強盗を捕まえた。
「ありがとう。私、アケミっていいます。同じ学校だよね? 二人の名前はなんて言うの?」
当たり前と言ったら当たり前だが、アケミさんは俺達二人の名前を知らなかった。少し残念に思いながらも名前を教え、バックを手渡す。
「あ~よかった!! このバックなくなったらホント困ったことになってたの」
「そのバックの中って何が入ってるんですか?」
「下着よ」
……!?
マジでっ!?
「さっきまで履いてたやつ」
ま……マジでっ!?
「上下セット」
ま……ままままマジでっ!?
「しかも勝負下着。真っ赤なんだから」
ま……ままままままままマジでっ!?
「三日間履いて臭い凄いんだけどね」
ま……マジで……。
「え?二人共、見たい?」
「見たいですっ!!」
「嗅ぎたい?」
「嗅ぎたいですっ!!」
欲望のまま返事したトモキをグーで殴り、制する。俺だって見たいよ。嗅ぎたいよ。けど流石に駄目だろ。ほら、アケミさんも笑ってるし。
「じゃあお礼と言ってはなんだけど、私の家に来ない? ジュースくらいならあった筈だから」
こうして俺達二人は今、アケミさんの家、もっと詳しくいうとアケミさんの部屋に居る。
まず初めに目に入ったのは、ホラー系のポスターだった。以前問題になった祭りの胸毛ポスターが、阿鼻叫喚地獄絵図バージョンになっている。
というか、ホラー系のグッズしか部屋にはなかった。
「……アケミさんって結構変わってるんだな」
……同感だ。
次に目に入ったのが、部屋の中で唯一ホラーに関係していない、白い物体だった。
扇風機。
「これだけ普通だな。勉強机すら赤いのに」
「机どころかベッドもだぜ。俺、正直楽しみだったんだよ。アケミさんが毎日寝てるベッド。でもこれ見たらなんか……萎えちまった……」
ベッドには何故か、人間の首から上が乗っかっていた。何故だ。何故なんだ。世の中何か間違ってる。
という訳で、俺達の興味は扇風機にいった。
「なあタクヤ。これだけ普通なんて普通は有り得ないと思うんだ。普通ならこれもなんか訳ありってのが普通だろ?」
「普通普通うるさい。俺も同感だ。絶対なんかある。それは間違いない」
よし、そうと決まれば早速、と言うと、トモキは扇風機の電源をつけた。コンセントは刺さったままだったらしい。皆、待機電力のこと忘れんなよ!! コンセントは絶対抜いてくれ!! レッツエコライフ!!
「何ぶつぶつ言ってんだよ。ほら、回り始めたぞ」
トモキの言う通り、扇風機は回り始めた。ブーンという音がする。
しかし、ここで異変に気付いた。
「トモキ……これ、風が来ないぞ!!」
「え? ……うわ、マジだ!!」
音はする。扇風機のプロペラも回っている。
なのに、風が来ない。
「これ扇風機じゃないじゃん!!」
「怖っ!! スゲエ怖いっ!! ……いや待てタクヤ!! ここを見てみろ!!」
言われてトモキが指さす所を見ると、風の強弱を操作するリモコンがそこにあった。
弱。中。強。
そして……無。
「無ってなんだよ!!」
「いらねえだろこのボタン!! 需要何%!?」
叫びながら、俺達は弱のボタンを押した。今度はちゃんと風が起きた。
「ああ~涼しい~」
夏真っ盛りのこの時期だ。クーラーがついていても、暑いものは暑い。
しかし、ここでまた俺は気付いた。
「トモキ……これ、プロペラが回ってない!!」
「え!? うっわホントだ!! 回ってないのに音するし風も来る!! 何これ!? どういう原理!?」
怖い怖いと言いながらも内心楽しくなってきた俺達は、次に中ボタンを押してみた。
すると、扇風機のプロペラは回るのを止め、プロペラを補強する部分……つまり、よく指で音を出したくなるあのカバー部分がどういう訳か回り始めた。
「こ……これどうなってんだよ!?」
「嫌だよこんな扇風機!! 音もブーンじゃなくてガガガガガだし!! ていうかなんでこれで風が来るんだ!?」
もう訳わかんねえと二人で言い合いながらも本気で楽しくなってきた俺達は、最後の強ボタンを押してみた。
するとカバー部分の回転が止まり、今度は高さや角度を調節する首が時計と同じ向きに回り始めた。
つまり、風は俺達には向かず、天井に向かって起きていたのだ。
「涼しくない!! 使いどころがわからん!! 風が起きる原理もわからん!! この首の所どうなってんの!? 土台から離れて独立してねこれ!?」
「最終的に満足して風に当たれたの四つ中二つじゃね!? 二分の一の確率ってどうなのそれ!?」
「タクヤ君、トモキ君、ジュース持ってきたよー……って二人共、何してんの?」
と、ここにスカートに着替えたアケミさんが現れた。ていうか何で着替えてるんですか?
「うん。ノーパンだから」
……?
ちょっと本気でわかんなくなった俺達はスルーを決行し、ジュースに手をかけた。青色のトマトジュースだった。作り方教えて下さい。
「すいませんアケミさん。この扇風機なんですけど、普段どうやって使ってるんですか?」
「え? 普通に使ってるけど。普通じゃないそんなの。この扇風機普通過ぎるくらい普通なんだし」
「普通普通うるさいです。じゃあ、どのボタンで使ってますか?」
「弱だよ」
うん。まあそれくらいしかまともなのなかったしな。十分まともじゃないけど。
「あれ? 二人共、扇風機使ってたの?」
するとアケミさんは俺達に真顔で聞いた。今更過ぎるでしょ。その質問。
「はい。あ、駄目でしたか? 勝手に触ってたんですけど」
「いや……駄目ではないんだけど……寧ろ嬉しいんだけど……二人の痕跡が残るし……」
さっきから誘ってるんじゃないかとしか思えない言動を一旦頭の隅に置いて、アケミさんに訳を聞いた。
ゴクリと唾を飲み、ためにためたアケミさんは俺達にこう言った。
「だってコンセント、刺さってないよ」
コメディの笑いとしては弱いかもしれません。アケミさんをどこかでまた出したい自分がいます(笑)。