来るの来ないのどっちなの
ホラー……だと思います。
「来るの来ないのどっちなの?」
目の前の少女はこう言った。
少女の髪は薔薇を思わす朱をしている。ポニーテールなのに触れたら怪我をしそうだ。矛盾してるかもしれないが、私の直感がそう言っている。
「来るの来ないのどっちなの?」
こんなことになったそもそもの原因にあたる会社の同僚は、いつの間にか姿を消していた。
私は今、心霊現象で有名なトンネルの前に居る。
車でここまで来た。BGMは貞子さんのフレーズを繰り返すテープだった。私がいくら「止めてよ」と言っても止めなかった同僚三人が今は懐かしい。
「来るの来ないのどっちなの?」
少女はクルクルと回り始める。薔薇の刺繍が入ったスカートを揺らし、クルクルと回り始める。
同僚三人は私が気付かない内に消えていた。文字通り、一片の残骸も残さずに跡形も無く消えていた。
私がそれに気付いたのは車の運転が止まったからだ。耳障りなBGMが流れる中、当時後部座席に居た私は目を疑うことになる。
私はトンネルの目の前に着いていた。
「来るの来ないのどっちなの?」
冷静を保ちながら車を出て、トンネルの前に立ち尽くす。
すると声が聞こえた。成熟する前の、実り切ってない少女の声。周りを見渡すと、息を呑む程可愛い少女が居た。
トンネルの前に立つ笑顔の少女は、その場の雰囲気に明らかに場違いだった。
「来るの来ないのどっちなの?」
何度目かになるこの質問も、少女の存在を不安定にさせる一躍を買っている。
この子は何者なのか。
私はこの確証がしたかっただけだった。
「あなたはどこの子なの?」
こう尋ねると、少女は笑っていた顔を冷たい表情に一変させた。
「来るの……来ないの……どっちなの……」
その恐ろしい声は私の恐怖を復活させる役割を持っており、私は一瞬にして自分の立ち位置を理解した。
駄目だ。
少しでも反応を間違えると、同僚と同じく私も消される。
「…………」
少女は沈黙に入った。私を見つめ、ただただ立ち尽くす。少女のその視線は私を見通しているかのようだった。
時間が一秒でも過ぎる度に私から汗が出る。答えなくては駄目だ。早くしないと、少女に消される。
「来ない」
私は自分の安全を考え、少女にはっきり言った。
緊張の一瞬。それが私と少女を包む。
「…………」
少女は何も言わない。私は車に乗って逃げようとした。その時だった。
少女はまた、笑顔に戻った。
「そう。トンネルの中には来ないの」
私の意識はここで切れた。
「来るの来ないのどっちなの?」
翌日の夜。私は薔薇の刺繍が入った服を着て、トンネルの前の女性にこう尋ねていた。
私の後ろにあたるトンネルの奥には、少女を含めた女性数十人が裸で複数の男性の上に腰を下ろしていた。男性は全員息をしていない。だが、男性は全員恍惚の表情をしている。
その中に裸じゃない女性が居た。彼女達は裸の女性達に手厚い歓迎を受けている。時が経つのを忘れる程の歓迎だ。当然、彼女達も恍惚の表情をしている。
瞳孔が開き切った複数の男性の中には、同僚三人が居た。
「来るの来ないのどっちなの?」