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すぐに読める短編の集  作者: 狩人二乗
学生時代の短編
2/16

ある言い伝え

アクションです。多分。会話文が一切ありません。

 いつ誰が伝えたかはわからないが、昔々の話しになる。

 ある日、一人の男が一降りの果物ナイフを持って、銀行強盗に挑戦した。

男の名前は伝えられていないが、男は大層充実した生活を送っていたらしい。家には冷蔵庫があり、テレビはプラズマテレビだった。今考えたらそれ程でもないが、昔々の話しなので相応なのだ。

 男は家庭に恵まれ、友好的だった。休日にもなると、必ずティッシュとハンカチを持ってボーリングに行ったものである。

 そんな男も、今年で二十歳を越す。好青年の男は、既に結婚し愛人も持ち、子供があちらこちらに何人もいた。充実し過ぎだと思われるが、仕方がない。それだけ男の見た目がよかったのだ。

 そういう訳で、男はよく異性関係に悩んだ。最近では、車を担げる程の力を持つ大男ならぬ大女から求愛を受け、切り刻んだことが挙げられる。

 女は廃校になる寸前の学校の教室に彼を呼び出し、求愛した。女は当時、小学生だった。

 流石に男も断った。当然だ。いくら見た目が自分のストライクゾーンど真ん中を捉えていたとしても、女は小学生。例え小学生にしては大き過ぎる自分と同じ背丈を持ち、汚れのない黒の髪をツインテールにまとめ、体は車を担げるとは思えない程スラリとし、その上大きく丸まるとしたつぶらな両目で自分を上目使いに好きなんですと言われても、相手は小学生。駄目なものは駄目に決まっている。

 断った直後、一瞬にして教室から机が失われた。彼女の目には殺意が浮かんでおり、床には机の破片が散らばった。

 少しした後、学校の外からガシャンと大きな音が連続して起こった。ここは三階。何だと思い窓からグラウンドを見てみると、そこには粉々に砕かれた机の破片が山となって積み上げられていた。

 女の右腕から、幻覚とは思えない白い煙りがあがる。女が何をしたかは、一目瞭然だった。女は、教室にある三十以上の机を一瞬にして砕き、一瞬にして巻き上げ、一瞬にして外へ撒き散らしたのだ。

 男はその姿を捉えることが出来なかった。女のただならぬ潜在能力に恐れを抱く。その女の視線は、もはや男にしか向いていなかった。

 愛せないのなら、愛してくれないのなら、いっそ粉々にしましょう。いいですよね。いいに決まってますよね。

 彼女の朱い唇から、静かに発せられる。男は恐怖から、教室を出た。

 女は右手に教卓を軽々と持ち、左手には壁からひきちぎられた大きな黒板を持っている。教室の扉とそれに隣接する壁を一回の蹴りで一蹴した後、階段へと向かう男に教卓と黒板を投げ付けた。

 男は、ここで死ぬのか、と悟った。

 死。死。死死死死死死死死死死死死死死死死死……

 自然と前日見た映画が思い返される。タイトルは忘れたが、アカデミー賞をとった日本の映画で、死者の体を綺麗にする仕事を題材にしていた。自分もあんな風に綺麗にされるのなら死んでも構わない、と思った。

 その時、男は無意識にポケットの中にあった果物ナイフを手に取った。今日の朝、妻の負担を少しでも軽くしようと、一つの林檎を切った代物だ。何故かはわからないが、ポケットの中に入っていた。

 その果物ナイフは、自分の体を迫り来る教卓と黒板へと強制的に向かわせ、自分の右手を動かした。

 向かい来る巨大な風を、一閃する。

 絶妙な切り口だった。果物ナイフは、折れることも傷つくこともなく、教卓と黒板を真っ二つにし、勢いを殺したのだ。男の髪は巻き上げられ、女は目を一層丸くする。

 それでも女はめげずに男へ走って向かった。音がする度に廊下はへこみ、緊迫感が近付いてくるとわかる。

 先に言っておくが、男の目は彼女を捉えてはいなかった。線で描かれた影が自分の目の前に来たとしか、感覚で掴めず、男は普通なら反撃が不可能だっただろう。

一方女は勝利を確信した。一秒に何メートルも移動出来る自分の体を、男は見切れていない。男の前でピタリと止まった女は拳を振りかぶり、コンクリートくらいなら簡単に砕くことの出来る一撃を放とうとした。

 しかし、その一撃が放たれることはなかった。女は自分を包む驚異の存在を感じ取り、その場を離れたからだ。男から距離をとり、この悍ましい気配の正体を探る。

 その時、女の目の前に現れたのは、白い刃の先端だった。死を覚えた女は、全力で横に体をそらす。全貌が見えた。

 彼女を襲ったのは、頼りない光りを放つ果物ナイフを持つ男だった。男の目はまだ生きている。生きているが、自分が何をしているかわからないようだ。

 女は瞬時に理解した。男は果物ナイフによって操られていると。女は果物ナイフを避け、男の体を狙う作戦に出た。汚れが少しある上履きを繰り出し、男の腹を狙う。

 果物ナイフは女の行動を許さなかった。男の手が緩やかな小さい曲線を描き、彼女の片足全体に切り傷をつける。いともたやすく血が流れた。

 女はその瞬間の出来事に激痛を覚えたが、瞬時に頭を切り替え、片足での攻撃を諦めた。もうこの足は使い物にならない。ならば、もう片方の足を使えなくする訳にはいけない。

 すかさず女は足を自分の元へと引き寄せ、右拳を男に放った。男は果物ナイフの先端を拳に向け、向かい撃つ。コンクリートをも壊す拳と、黒板をも切る果物ナイフ。

 勝敗は明らかとはいい切れないものだったが、この時の軍配は果物ナイフに挙がった。拳に突き刺さり、貫く。女は悲鳴をあげた。自慢の拳だ。負けるとは思っておらず、傷付くとは思わなかった部分に、異分子が突き刺さる。まるで警戒していなかった傷に、彼女は恐怖を覚えた。逃げようと思い、女は何が何だかわからないまま、手を引っこ抜こうとする。

 しかし、一度捕らえた獲物を果物ナイフは逃がしはしなかった。男の手と足は真っ直ぐに移動し、女の右腕を両断した。

 女は自分の右腕から一筋の傷が開けられていることを知り、命拾いをした。すいませんでした。腹いせだったんです。見逃して下さい。

 男は女を許した。だが、果物ナイフが女を許さなかった。男の意識がここで途切れる。

 次に目を覚ました時、男の視線は街で一番巨大な銀行へと向いていた。状況を理解出来ない男を、果物ナイフは容易に動かす。男の体はすでに果物ナイフへ抗うことが許されていなかった。

 自動扉が開き銀行が男を招くと、果物ナイフがその場を一閃した。男の目では、美人な銀行員や椅子に座って待つ客が、重要なワンシーンを見ずに死体になったという風にしか捉えられなかった。

 男の服が赤色に染まる。男は意識があるまま、銀行強盗をしただけでなく、街の人々を細切れにしだした。男は止まらない。果物ナイフが無くならない限り。


 以上がこの街に伝わる殺人鬼の言い伝えだ。何故果物ナイフが男を操っのか。男はどうなったのか。どうやって果物ナイフを止めることが出来たのか。言い伝えには書かれていない。

 だが、男はどうなったのか、という疑問と、どうやって果物ナイフを止めることが出来たのか、という疑問はこの場で語ることが出来る。

 男はまだ生きている。歳をとることもなく、まだ生きている。果物ナイフを止めることなど誰も出来ない。果物ナイフが人を襲う理由すらわからないのだから。

 男は私だ。右手には果物ナイフがある。ようやくここまで意識の主導権を手に入れることが出来たが、果物ナイフは私に真相を瞬時に語らしてはくれない。だから、自制心を常に持ちながら、言い伝えと称して語るしか危険を告げる方法がないのだ。

 先程まで聞いてくれていた彼は、私に染められた何年もの血の臭いに気付き、大分前に逃げ出してくれた。それでも助かるかはわからないが。

 私の体は、果物ナイフの意思により強制的に動かされた。刃の向かう先は、死。






これは何も考えずにキー連打が止まらないように淡々と書いていった作品です。自分の文章をあるサイトで否定されたのでやけになりました。設定くちゃくちゃですね。オチは書いている途中に思いつきました。もう2度とこんなことしません(笑)

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