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ガラの悪い男
「なんだったんだあいつは」
あいつってぇのは、さっきの黒マントのことだ。
「ぜってぇ、ただもんじゃねぇ...」
思い出しただけでも、震えがくる。
それなりのランクの冒険者である、俺がだ。
あの路地は暗いが見通しは悪くねぇ。
なのにあの黒マントは、気づかねぇうちに現れやがった。
(この俺が気づけなかった...?)
そのあとの身のこなしも、ただもんじゃなかった。
鋭い眼光は、こっちの動きを見透かしているようだった。
握りしめた拳からは、尋常じゃない握力を感じた。
(極めつけはあの半歩だ。)
こっちの気持ちが萎えた一瞬を狙って、追い討ちをかけるように...
あれで、仲間もおれも、すっかりビビっちまった。
(なにもんだ?あいつは...
いや、あんな危ねぇ野郎、関わらねぇほうがいい。)
俺はいつものカビくせぇ安宿で、安酒あおって眠ることにした。
「チッ、ついてねぇぜ。」