始まりの町
「ここから始まるのか」
頬が緩むのを抑えきれない。
笑ってしまえばいいのだが、それは俺が思い描く異世界チートではない。
なので、我慢する。
(やっぱりこう...寡黙でカッコいいキャラ がいいよな!)
特に怒っているわけではないが、眉毛のあたりにギュッとチカラを入れてみる。
(鋭い、鷹のような目...そう、こう言う感じかな)
鏡がないのでよくわからないが、たぶん上手くいっているはずだ。
(さーて、この辺で試してみるか)
運良く人気のないところをみつけたので、どうしてもやってみたかったアレを呟いてみる。
「す、す...ステータス!オープン!」
何も起きない。
(あれ...?違ったかな..?)
その後もいろいろ試してみたが、ステータス画面が表示されることはなかった。
(うーん...なるほど!)
こう見えて、たくさんのラノベで予習してきた俺だ。
こういう時の原因は、わかっている。
(そうか。
ステータス画面のない世界だったか!)
これでは、チート能力がわからないじゃないか。
と思ったが、先は長い。
この人生はボーナスステージだと思って、のんびり楽しむことにした。
(まずは装備だな)
理想の異世界チートは、カッコよくなくてはならない。
これだけは譲れないのだ!
しかし困った。
当然のことながら、俺には土地勘がない。
よって、服屋さんの場所もわからない。
というか、服屋さんでいいのだろうかとも思う。
"さっそく装備していくかい?"とか、聞かれる店の方がいいんだろうか。
もう一つ困っている。
寡黙でカッコいい俺像は、"あのーすみません"などと、道を尋ねることはないのだ。
かと言って“おい、服屋を知らないか?“などと、いきなり失礼な聞き方をするのもなんかイヤだ。
そんなことを考えながら、街をうろうろする。
もちろん、眼は鋭いままだ。
(さすがにちょっと、眉毛の辺りが疲れてきたなぁ)
そう思っていた頃、運良くフリーマーケットみたいなところについた。
(露天っていうのかな?
しかしありがたい
今日はついてるな!)
俺の財布というか、革の袋には、ジャラジャラと支度金が入っている。
これは、転生の女神様が最後にくれたので、そこだけは覚えている。
(貨幣価値なんてわからないが、足りるかなぁ)
(ん?あれは)
なんと、分かりやすく、貨幣の絵で値段表示をしているお店を見つけたのだ。
(いやぁ、なにからなにまで、幸先がいいぞ!)
さすがにちょっと疲れてきたので、あんまり鋭くない眼で店主に話しかける。
「すまないが旅に出たいんだ。
適当に見繕ってくれないだろうか。」
俺の眼に、店主はすこし驚いた様子だったが、すぐに。
「ああ、かまわねぇぜ。
旅って、どこまでいくか決めてるのかい?」
なるほど、盲点だった。
どんな気候かわからないと、装備なんて揃えられないのだ。
とりあえず、"1番近くの街まで"というと、いくつか見繕ってくれた。
なかでも、真っ黒なマントがとても気に入ったので、それにした。
「ありがとう。」
店主にお礼を言い、お代を払う。
「こっちこそありがとな。
それで...」
「さっそく着ていくかい?」
"はい"を選んだ。
楽しい人生になりそうだ。