はじまりはじまり
俺はもうすぐ死ぬ。
お約束のトラックでも、過労死でもなく、普通に老衰だ。
妻、子供、孫、みんなに見守られながらの幸せな最期。
(俺にしては上出来だな。)
そう。上出来なのだ。
しかしどうしても、心にくすぶる夢を捨てることはできなかった。
異世界チート。
(莫大な魔力や、超常の剣技、美女、冒険。
やってみたかったなぁ。)
こんな歳になって、我ながら幼い夢だと苦笑いする。
(老衰じゃダメだろうな。
まぁ、いいか。幸せな最期だ。
みんな、ありがとう。)
意識が薄らぎ、身体が軽くなっていく。
みんなの呼び声が聞こえるが、それも遠くなる。
「おめでとうございます。
あなた、運がいいですね!」
(なんだ?
とんでもなく場違いなやつがいたもんだ)
少しのイラつきを覚えて目をあける。
真っ白だった。
(死ぬ時は視力もなくなるのかな)
「違いますよ。
あなたは死にました。」
「え!?」
思わず声がでる。
(あれ?声が出た)
さきほど眠るように脱力していったはずだ。
こんなにはっきり声が出るなんて。
「なので、おめでとうございます!
念願の異世界転生ですよ!」
あまりの嬉しさに、その後のことは覚えていない。
しかし、俺なら大丈夫だろう。
なぜなら、異世界転生にはチートがつきものなのだから!
ちなみにゲームは、説明書を読まない派なのであった。