補修の代理人
「はぁ〜
こんな時だからこその補修なのに...」
壁補修の仕事。
これは、薬草採取とならぶ下級冒険者の定番だ。
仕事量の割に実入りが少ない というところも共通している。
せめて報酬を上げたいが、長らく平和だったこの街では、期待できないだろう。
平和ということは、冒険者ギルドの収入も少ないということだから。
「にしても、どうしたものか..」
困ったことに、今日から作業員がいない。
原因は、この間の隕石騒ぎだろう。
あれのせいで、下級冒険者の数が減っている。
それも仕方のないことだが。
「初心者の街だってのに、あれじゃあな...」
関連は調査中らしいが、巨大な魔獣と隕石で2件。
1日で。だ。
この街にしては...いや。
どこの街だって、異常な事態だ。
「さて、どこかで暇そうなやつでも捕まえてくるか」
"実入りは少ないが、トレーニングになる。"
これが俺の誘い文句だ。
別に嘘は言っていないし、実際良いトレーニングになると思っている。
今までもそうやってだまし...励ましては、連れてきていた。
「お?あれは」
物見台から見回していると、興味深そうに壁を観察している男がいた。
あの冒険者証。
おそらく最下級だろう。
(連絡はきてないが、壁補修依頼か?)
そう思って声をかける。
「外壁補修の方ですか?
そのプレート、冒険者の方ですよね?」
男がこちらを向く。
先ほどはわからなかったが、鋭い。
見透かすような目つきだ。
あわてて再確認する。
(最下級...だよな?)
「ち、違いましたか?
壁をじっくり見てたのでそうかなと」
「いや。
俺じゃないな。」
低く、落ち着いた声。
自分が動揺し始めたのがわかる。
(やばい...なんかこの人やばい...)
最下級冒険者には良く会う。
大抵は
虚勢をはっているか
おどおどしている
ことが多い。
彼は違う。
確かな経験。生きた年数。
それらに裏打ちされたような、本物の落ち着き。
そしてまったく動揺しない。
頭上。人間の死角。
そこから声をかけられれば、多少の動揺があるはず。
(気づいていた...?)
あり得ない事もない。
しかし、圧倒的優位な位置からの声かけ。
悪意のあるものならば、攻撃してくるかもしれない。
そんな中。
目が泳ぐでもなく。
手足が居場所を探すでもなく。
ゆっくり。
確かに。
こちらを見ている。
「そ、そうですか」
(困ったな...
立ち去ってくれないか...)
「俺で助けになれるか?」
突然の申し出に、また動揺する。
普段なら二つ返事だが、この人に?
(最下級だし、おかしくはないんだけど...)
考える。時間が過ぎる。
しかし、彼からの催促はない。
待っている。
鋭い眼ながら、柔らかな雰囲気で。
(ふふ。
なんか、じいさんを思い出しちまったな)
俺は、落ち着きを取り戻した。
「依頼してた人が時間になっても来なくて...
お願いできますか?」
わざとではないが、少し嘘がまざった。
同情を誘いたかったのか。
甘えたかったのか。
「構わないが、報酬はもらうぞ?」
「もちろんです!
よろしくお願いします!」
彼に仕事の説明をした。
といっても、主に資材運びだ。
(いきなり壁の補修は難しいからな。)
「悪いが経験はない。
運ぶくらいしかできないが、構わないか?」
「大丈夫です
運ぶ資材が多くて困ってたんですよ
ではさっそく
こちらをお願いします」
説明が終わると、彼は手際よく資材を分別しだした。
(経験がないって言ってたけど、大丈夫そうだな)
この場は任せて、俺は壁の補修に向かった。
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「終わったぞ。
次は何を?」
(終わった?なにが..?)
彼に任せたのは午前中だが、まだ昼にもなっていない。
普通に考えて、あの量を運び終えることなど不可能だ。
そう思って資材を確認に行く。
(お、終わってる...)
積み上げられた資材が綺麗さっぱりなくなっていた。
所定の場所にも運ばれている。
(あれ?)
気付く。おかしい。
馬を使って運ぶ予定の資材もあった。
それがない。
彼に確認すると
"大きな荷車に乗せて運んだ"
と言った。
(馬鹿な...馬4頭で引く荷車だぞ?
それを引いた?
資材を載せて?
ひとりで?)
どう考えても普通の人間族には不可能だ。
上位ランク冒険者にだって、可能だろうか?
(いやまて、魔法ならあるいは?)
そう思い直して、次を頼むことにした。
「次は、アレをお願いします。」
「ああ。
わかった。」
今度は遠巻きに観察する。
(そんな...)
彼は魔法など使っていなかった。
身体強化をしている様子もない。
ただ持ち上げる。両手で。
木箱を持ち上げるように。
バランスよく、しなやかな動き。
その動きを見るだけで、いかに鍛錬を積んだかわかる。
(すごいな...)
あまりの光景に見惚れてしまう。
資材を運ぶ動作の一つ一つに。
彼ほどの者なら、この目線に気づいているだろう。
しかし、それを気にするでもなく、淡々と運ぶ。
作業はスムーズに進み、あれほどあった資材は綺麗になくなっていた。
「もう、おわりか?」
「は、はい。ありがとうございました。
報酬は、こちらをギルドに提出してください。」
「わかった。
ありがとう。」
彼は礼を言って、現場を後にした。
(あれほどの人がなぜ?)
疑問は尽きない。
どう考えても最下級冒険者ではない。
(まぁ、詮索は野暮だよな)
そう思い直して、明日からの壁補修の段取りを考えるのだった。




