練習
練習することにした。
もちろん、この身体を上手に使うためだ。
正直、体が軽すぎて歩くのもぎこちない。
こんな状態では、カッコよくて渋い動きなどできないのだ。
「まずは歩こう。」
カッコいい男は、歩き方もかっこいいのである。
(それに、いきなり戦う練習って危ないしな)
生兵法はなんたらのもと と昔からいうもので、俺のような素人がいきなり戦う練習など...
この間の魔法だって、たまたま発動したからいいものの、本当に危なかった。
下手をすれば、魔力暴走という厨二心をくすぐる...いや。
(安全第一。安全第一っと。)
というわけで今日は、歩く練習をしている。
ただ歩くのも退屈なので、街の外周を観光することにした。
「まるで要塞だな」
街にはぐるりと壁が建っている。
おそらく魔物の侵入を防ぐためだろうが。
高い。長い。
これだけの壁となると、
どうやって建てたのか
まだ拡張しているのか
すごく気になる。
(公共事業とか?
税金を使って建てているんだろうか?)
よく見ると材質が違ったり、つぎはぎだったりしている。
正門付近や魔物が出る東側はしっかりしているが、他は穴が空いてたり、簡易的な補修にとどまっていた。
「外壁補修の方ですか?」
見上げると、物見台に人が立っている。
「そのプレート、冒険者の方ですよね?」
俺の冒険者証をみて、声をかけたらしい。
「ち、違いましたか?
壁をじっくり見てたのでそうかなと」
どうやら冒険者ギルドでは、そういった依頼も受けているらしい。
「いや。
俺じゃないな。」
"そうですか"というと、彼は困ったような表情をしていた。
(ふむ。困っている人を助けるのも、チート能力者の務めだよな)
「俺で助けになれるか?」
何を隠そう。
俺はヒーローにも憧れている。
だってかっこいいからだ。
「依頼してた人が時間になっても来なくて...
お願いできますか?」
物見台さんは、申し訳なさそうに答えた。
「構わないが、報酬はもらうぞ?」
無報酬でもよかったが、この場合はもらっておく方が良いだろう。
「もちろんです!
よろしくお願いします!」
彼の説明によると、仕事は主に資材運びだそうだ。
「悪いが経験はない。
運ぶくらいしかできないが、構わないか?」
「大丈夫です
運ぶ資材が多くて困ってたんですよ」
単純作業のようでよかった。
(トレーニングにもなるし、一石二鳥だな)
格闘漫画や映画でよくある、"全然関係ないのでは?"的なトレーニングで強くなるパターンだ。
これは、思わぬ収穫だった。
「ではさっそく
こちらをお願いします」
そこからは、資材を運ぶだけの簡単なお仕事だった。
いや、前世なら全然簡単ではないのだが、今世の身体はすごい。
これが標準だというのだから、この世界の住人は本当に身体能力が高いのだと思った。
(この量に対してひとりというのが疑問だったが、
なるほど納得だな)
「終わったぞ。
次は何を?」
「次は、アレをお願いします。」
「ああ。
わかった。」
物見台さんから指示をもらって、次の資材を運ぶ。
(これは、本当にいいトレーニングになるな)
俺はというと、軽々運べて全然疲れない体に感動していた。
もしかしたら、女神様が少しおまけしてくれたのかもしれない。
(やっぱりすごいなぁこの体!
女神様、ありがとうございます!)
楽しく作業していると、時間はあっという間にすぎていった。
「もう、おわりか?」
「は、はい。ありがとうございました。
報酬は、こちらをギルドに提出してください。」
「わかった。
ありがとう。」
物見台さんにお礼を言って、現場をあとにした。
外周をもう少し回ろうかと思ったが、お腹が空いたので帰ることにした。
労働の後に食べる夕食は、格別の味だった。




