場違いな納品男
「忙しいところすまない。
さっきの男は?
なにか納品だったのか?」
「あ、マスター!
聞いてくださいよぉ〜
この騒ぎなのに、薬草ですよ!?薬草!」
「薬草?それだけか?」
「それだけですよ!
しかも1番安いやつを3本!
品質だって、最悪だったし」
「ほう?」
「だって、焦げてるんですよ!?」
「焦げてた?」
「そうですよ!
どんな管理してたら、ああなるんだか」
「そうか...
他に気になるところはなかったか?」
「他ですか?
んー、あ!
なんか、ホコリっぽかったです!
薬草採取で、どうやってあんなにホコリかぶったんですかね?
なんでそんなこと聞くんですか?
「いや、いいんだ。
ありがとう。」
(あの男、ただものではないと思ったが
思い過ごしだったか?)
1日で薬草3本といえば、並のかけだし冒険者と同程度だ。
むしろ、少ないと言っていい。
(焦げたにおいと、ホコリ...か...)
あの騒ぎに巻き込まれたとも考えられる。
(にしては、妙に落ち着いていたな)
遠くからであったが、納品の一部始終を見ていた。
ディーターという名で登録したあの男だ。
(この騒ぎの中、ただ薬草探しを?)
どうしても納得いかない。
ただの駆け出しならなおさらだ。
魔獣の鳴き声や隕石による爆発は、街からでもわかるほどだった。
それを気にしてもいない。
質問すらしていないようだった。
(まさか見ていた?
いや、討伐したのはもしかして..)
と、考えて踏みとどまる。
(ありえない。)
今回の魔獣。
発生場所は調査中だ。
普通、このあたりにあんな魔獣は出ない。
もっと魔素の濃い、危険な地帯にですら、ごく稀に出現する程度だ。
そして出現した場合、最高ランクパーティが連携して、やっと倒すほどの脅威。
(それを1人でなどと..
馬鹿げている。)
もはや予想ではなく、妄想となってしまったそれを、鼻で笑い飛ばす。
(いやまて、もし...もしもだ...
ヤツが隕石を呼ぶ魔法を使ったとしたら..)
理論的には、魔法で隕石を呼ぶことはできる。
古い文献には、成功したという記録も残っている。
空の彼方にあるという石、もしくは岩を引っ張ってくるだけ。
なのだから、原理は単純だ。
(隕鉄性の武具が出回っているくらいだ。
空の彼方には石や岩が確かに存在する。)
しかし、大きな問題が二つある。
まず、空の彼方にあるという石もしくは岩が、見えないということだ。
身体強化魔法を極めたものなら、強化した"目"で見れるかもしれない。
しかし、そんな精度の魔法を維持しながら、岩を操作するなど不可能だ。
もうひとつは、精度の問題だ。
自然落下してきた隕石は、過去に何度も観測されている。
記録にも残っている。
そしてどの記録にも、おそろしいほどの速度が記録されている。
(そんな速度の...
しかも岩を。
正確に制御できるだろうか?)
今回の爆発は、小石をぶつけた程度で起きるとは思えない。
あれは間違いなく、岩が降ってきている。
もし岩を操れるとして、なにしろ、超高速だ。
少しの制御ミスで狙いは大きく外れる。
そうなれば、術者自身を、街を、跡形もなく吹き飛ばすだろう。
(そんな危険な賭けにでる者がいるだろうか?)
それこそ魔法など行使せず、神に奇跡を願ったほうが、よほど成功するだろう。
と、ここまで考えて、また膨らみすぎた妄想に笑ってしまう。
馬鹿馬鹿しい。
(さて、私も暇ではない。
この騒ぎを治めることに注力しなければ)
作業に没頭しているうち、妄想はどこかへ消えてしまった。
"ディーター"という名への不安感だけを残して。




