主人公の出番
森を抜けると、広い場所に出た。
(魔獣は...あっちか!?)
何人か逃げてくる。
追われているのか。
(逃げ遅れた人は!?)
魔獣の方へ急ぐ。
(あいつか!)
巨大な身体
馬鹿でかい咆哮
地響き
激怒
突進してくる
まだ距離はある
(あ!)
魔獣の前を何人か走っている。
逃げている。
(助けないと!
俺がおとりになる!)
全力ダッシュで魔獣の前にでる。
「こっちだ!」
魔獣の気を引くが
(素通り!?
何かを追いかけている!?)
脇目もふらず走り抜けていく
(あっちはまずい!街が!)
葛藤する
(どうする...
どうする!?
あんなの倒せるわけがない
おとりにもなれない
やっぱり逃げるか?)
正直なところ逃げたい。
だって怖い。
せっかく転生したのに。
いまから楽しいのに。
(でも...)
ここで逃げて、この先も楽しめるのか?
いつか忘れられるのか?
(そうだ。ダメだ。
イヤだ!)
覚悟を決める。
俺には女神様のチートがある。
攻撃スキルは全然練習してないけど、あるかもしれない。
だとしたら...
「ここでやらなくて、いつやるんだ!」
俺は踏み出す。
魔獣へ向けて一歩ずつ。
逃げていく人々とは逆へ。
人々の悲鳴
逃げろと言う声
腕を掴まれる
「あんた!どうするつもりだ!
逃げろ!」
ヘルメットを被った男
引き止められる。
覚悟からか諦めか
それとも女神様への信頼か
口元がゆるむ。
「任せておけ。」
ヘルメットの男は呆然としている。
腕を離す。
既に覚悟は決まった。
踏み出すごとに不安は薄れ、
高揚感に満たされていく。
(見せてやる。
俺の異世界チートをな。)
俺はおもむろに包帯を解き、巨大な魔獣に向かって左手をかざす。
この包帯は、今朝巻いたものだ。
もし魔法を練習するなら雰囲気が出ると思ったからだ。
「これで、終わりだ」
地面が大爆発する様子をイメージする。
魔力の込め方...はわからないので、とりあえず手のひらをギュッとしてみる。
(俺なら、できるさ!)
「極大魔法 アースエクスプロージョン!」
とりあえず、カッコ良さそうな名前を叫んでみる。
あたりが暗くなる。
(あれ?こう言う感じ?)
予想外の展開に、ちょっと焦る。
なおも怒り狂い、突進してくる魔獣。
(あ、あれ?爆発!ほれ!ほれ!!)
焦って右手(本当の利き手)をふる。
(やっぱり、大魔法なんて...
チートなんてなかったのか..)
諦めがよぎる。
その時。
空がパッと明るくなり、鳴り響く轟音。
魔獣が大爆発する。
イメージとは違ったが安堵する。
(よ、よかったぁ...
やっぱりイメージがあまかったか?
次はもっと、しっかりイメージしないとな!)
緊張が緩み、間抜けな感想が浮かぶ。
(あ、やべ..)
大爆発したあたりから猛スピードで土煙が迫ってくる。
が、逃げるわけにはいかない。
だって、かっこ悪いからだ!
数秒も経たない間に、熱風に包まれる。
顔が痛い。
体も痛い。
急所だけはこっそり手で隠した。
身体のすぐそばを、大きなものが通りすぎる。
1つや2つではない。
岩だ。
当たればひとたまりもない。
でも、かっこ悪いので耐える。
正直めっちゃ怖い。
(だ、大丈夫...大丈夫..)
必死に言い聞かせる。
...数分は経過しただろうか。
熱風がやわらぐ。
薄目であたりを確認する。
(ヘルメットの人は!?)
後ろで伏せている。
(よかった、大丈夫みたいだ)
急いで埃を落とす。
魔獣の足音や咆哮はもう聞こえない
無事に倒せたようだ。
(はぁ〜....つかれた。)
ヘルメットの人が俺に気付く。
(えーと、ここのセリフは...)
「すまない。騒がせた。」
なんでもないことのようにそう言い、そこから立ち去る。
(ふふふ、異世界チートさいこぉおお!)
飛び上がりそうな自分を、必死に隠す。
「あの、お名前は」
ヘルメットさんは起き上がり、俺に尋ねた。
「ディーター。
ディーター・フォン・デンツだ。」
適当に考えたドイツ語っぽい名前を言い残し、俺は土煙のなかへ消えることにした。




