キコリが見たまぼろし
酒場のカウンターに、いつもの面々で腰掛ける。
彼らはキコリ仲間で、飲み仲間だ。
喋りの上手いもの、相槌のうまいもの、あまり喋らない者など、3〜4人で飲みにくる。
店が暇になる時間帯。
この時間はマスターである私も、共に飲みながら仕事をする。
お腹も膨れてきて、いい感じに酔っ払っているようだ。
会話の切れ間。
皆が酒やツマミで誤魔化し、次の話題を探る時間。
いつもはあまり喋らない男が、こう切り出す。
「あれは...まぼろしでもみてたのかなぁ...」
すると他の面々は、"珍しいな"という表情で相槌をうつ。
「まぼろしぃ?
おまえさんにしては、いやに大袈裟な話題だな!」
ひとりが煽る。
「いや、本当にまぼろしだったのかもれねぇ...
いま思い出しても...うーん...」
「なんだなんだ?
ここまで来たら話してみろよ!
気になるじゃねぇか?なぁみんな?」
「おうよ!
普段しゃべらねぇおめぇさんが珍しいこった!
雲をみて、ドラゴンとでもみまちがえたかい?」
焦れた面々が再び煽る。
「まぁまぁみなさん、お話聞いてみましょうよ
面白そうじゃないですか」
この街は平和だが、それだけに話題が少ない。
"まぼろし"などと始められては、私も気になる。
(作り話であれ面白ければ、話のタネにいいかもしれないしな)
「じゃ、じゃあ...
知っての通り、おらはあんまりうまく話せねぇとおもうが...」
「よ!まってました!
なぁに!俺らがうま〜く誘導してやるからよ!」
「マスター、こいつの大冒険が始まる前に、一杯もってきてくれ!」
「はいはい、わかりましたよ
わたしもいただきましょうかね」
各々に酒が届く。
なにかが始まる気配を感じたのか、他テーブルからも注文が相次ぐ。
ようやく注文をこなし、テーブルにもどると
みな、待ちくたびれたと言わんばかりに私をみた。
「お待たせしました」
わたしの言葉を合図に、彼が話しだした。
まばらに客がいるはずだが、不思議と鎮まりかえっていた。
「き、今日、東の森の入り口を通ったときのことさ」
「東の森ぃ?なんであんなところを?」
「あ、あそこはちょっと開けたところがあるだろ?
おら、たまに休憩にいくんだ」
「あ〜、冒険者共が薬草とりにいくあたりだな」
「そうそう!
その薬草ってのが全然みつかんねぇでよ
一日中探して数本っていうじゃねぇか
割にあわねぇはなしだわな
はっはっは!」
「そ、そうなんだ
おらが見たのはその、薬草取りの冒険者..だとおもうんだ...」
「ああ?
あの依頼は、駆け出しくらいしか受けるやつがいねぇからな
そら幻だわな!
あーっはっは!なんだよそれかい?」
「ち、ちがうんだよ...
その...抱えるほどだったんだ」
「なにが?」
「や、薬草だよ!
抱えるほどにもってたんだ!」
「バカ言うな!
薬草には探知スキルもきかねぇんだぞ?
薬師の目利きだって、一日中さがして、手のひらいっぱいってなもんだ!
それをおめぇ」
「そ、そうなんだよ
だからオラもおかしいなって...」
「おおかた、雑草を薬草と間違ってつみまくったんだろ?
かけだしのよくやる失敗さ!」
「そ、そうじゃねぇんだよ!
おらだってきこりのはしくれだ
小遣い稼ぎに山で薬草つんでくことだってある
だからわかるんだ...
あれは全部、"そう"だった...」
「"そう"って...
薬草...か?」
彼は黙って頷いた。
あまりに真剣な姿に、圧倒されたか
店はまた鎮まりかえっている
すると1人がこう、質問する。
「ど、どっかから運んできたんじゃねぇのか?」
そうだとして、抱えているのはおかしいとは思う。
普通は荷車などを使う。
しかし、とても1人で採取できる量ではない。
それを考えれば、運んできたと考えるのが自然だ。
「おら、見たんだ...
あの男わかってるみてぇだった...」
「わかってるって...なにが...だよ」
答えはみんな予想できているだろう。
しかし、信じられない。
そんなことがあるはずがない。
そんな表情で、返答をまつ。
「その...薬草の...場所を。」
「そ、そんな...」
いつもは饒舌な男が言葉を失う。
「な、なにかをボソっと唱えると、脇目も振らずに歩いていくんだ
そしてつむんだ...迷わず」
だれもが"信じられない"という顔をしている
「そ、それで
その男は、冒険者ギルドへ向かったんだろ?
なら、わかるはずだ!
冒険者ギルドに聞けば!なぁみんな!」
不安を拭うような大声で、1人が叫ぶ。
「そ、それが...
消えちまったんだよ..
何かをつぶやいたあとにスッと...」
もはや、彼の言葉を煽る者はいない。
「だから...
だから、まぼろしだったのか...って話したんだ。」




