路地裏のあいつ
(あいつ、ただものじゃない)
路地裏に現れたあの男を思い出す。
(あのまま行けば、依頼は完了。
対象はすべて"処理"できたのに。)
私の役目は、"上"からの依頼を達成すること。
目的、背景など、質問は許されない。
手段は問われない。
失敗も許されない。
たとえ99%達成していたとしても、"上"は失敗と判断する。
そして、私は失敗した。
こちらの言い分は関係ない。
状況も考慮されない。
決まっていることなのだ。
失敗したものがどうなるのか、実際のところはわからない。
質問は許されず、失敗した者への質問もできない。
行方がわからないからだ。
(身分を変えて生きているのか。
それとも...)
だからと言って、黙っているつもりはない。
生き方にこだわりなどないが、生きることにはこだわっている。
(やはり、森を行くべきか)
"上"がどの程度の規模なのか、見当もつかない。
最大限の警戒をするならば、すべての街道は見張られていると考えるべきだろう。
そう考えた私は、東側の森を抜けることにした。
(追手は...まいたか)
この森に来るまで、追手とおもわれる気配を探知した。
私が今日まで生き残れたのは、このスキルのおかげだ。
友達...というのか
親しい間柄の人間はいない。
よって、やったことはないが
これは自慢になるだろう。
わたしの探知スキルは、群を抜いている。
探知スキルを使えるものは、珍しくはない。
しかし、私のは精度と範囲が桁外れなのだ。
これは、油断や思い上がりではなく、定量的に計測した結果に基づいている。
その私が"まいた"、"周囲には誰もいない"と、判断したのだ。
間違っているはずがない。
今この瞬間に生きていること。
それ自体も、スキルの性能を証明している。
"信頼"など自己放棄だと、遠ざけてきたわたしが信頼する、数少ないもの。
それを否定するような
目を耳をすべての感覚を疑うような
生きることへのこだわりを捨ててしまいそうな
そんな衝撃。
あの男が、わたしに与えたもの。




