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ギルドに来た男


その日も、いつも通りに終わるはずだった。


「あ、ギルドマスター」


「そろそろ休憩じゃないかな?」


私は、この冒険者ギルドのマスター。

今日は急病で受付がひとり足りない。

休憩の間に受付をすこし代わるくらいには、気がきく男だと思っている。


「わたしが代わろう。」


「いつもすみません。」


「なに。これも仕事のうちさ。」



朝受注した依頼を冒険者達がこなしている時間帯。

この時間はいつも暇だ。

私は受付に座って、自分の仕事を進めていた。


(なんだ?)


最初に感じたのは、違和感。

空気が密度を増していくような感覚。

それが、徐々に増していく。


腰に伸ばした右手が空振る。


(そうか...ギルド内では剣を...)


常識的に考えて、元最高ランク冒険者の私が、ギルド内で剣を振るう必要はない。


このあたりは低ランク魔獣ばかり。

初心者の街などと、冒険者の間で噂されているほどだ。


故に、ギルド内の揉め事も、素手で対応してあまりある。


(危機感を感じている?私が?)


自分の行動が信じられない。

引退してから、数十年。

身体も戦う感覚も鈍ったことは、否定できない。

しかし、生き残るための勘だけは、常に研ぎ澄ませてきたつもりだ。


額をつたう汗の量に比例して、違和感は実体化していく。


(来る...向かってきている)


もはや脅威として認識されたそれは、確実に我がギルドへ向かっていた。


この時間に広間に溜まっているのは、大抵が低ランク冒険者だ。

その彼らですら、危険な何かが扉の前に来たことに気づき、鎮まりかえる。


冒険者ギルドはシェルターの役割も果たしている。

よって、全ての扉は分厚い鋼鉄製だ。


特に、正面の両開きの扉は、頑丈で重く、大型魔獣の体当たりにも数回は耐えられる。

さらに、大きな荷物の搬入や、大人数の出入りができるよう、特別大きく作ってある。

使い勝手が悪いため、普段は脇の通用口から出入りしている。



全員が見守るなか、広間に光が差し込む。

光は、巨大な扉の隙間から差し込んでいる。


重く、錆びついた鉄が擦れる音と共に、光量が増す。


"それ"は、そこから入ってきた。

ひとりで。片手で。

あの巨大な扉を、窓でも開けるかの様に。


私は身構える。

気づかれないよう。

慎重に。

腰をわずかに椅子から浮かす。


(あの力...)


扉は、腕力があれば開くということではない。

それを支える脚力も体幹も必要なのだ。


(それほどのバネがあれば...)


ヤツは、私の元まで一足飛びに来るだろう。


光が強く、顔は見えない。


(おそらく男。耳は...人間族。)


必死に情報をかき集める。


(あの膂力

どうやって?

マジックアイテム?

マントは隠す?

いやスキル?

わざわざ扉?虚勢?)


考えはまとまらない。


男の首が動く。

まるで、ギルド内を見渡すように。


(来客?まさか...)


ギルド内の緊張感とは裏腹に、男の行動には気の抜けた雰囲気がある。


男が歩き出す。

一歩。また一歩。


人間族とみて気が抜けたのか。

なにかタネがあると踏んだのか。


いく人かの冒険者が、クチを開く。


「あいつ、見ない顔だな。」

「ただの見掛け倒しよ。みろよあの装備。」

「やめなよ」

「へぇ、なかなかいい男じゃない」


(冒険者は舐められたら終わりとは言え...)


軽率な行動に肝を冷やす。



男が私のいるカウンターに着く。


(まさか、本当にただの来客..?)


(緊張を解くか?いや、まだ)


広間が再び静まり、男がクチを開く。


「薬草採取クエストはあるか?」


広間がドッと笑いに包まれる。


「なんだよあいつ!あの雰囲気でかけだしかよ!」

「だーっはっはっははは!!こりゃ傑作だぜ!!」

「よう!兄ちゃんよ!あんた、大道芸人にでもなった方が稼げるんじゃねえか」


(何かの冗談...か?)


私は状況が飲み込めず、男の言葉を待つ。

来ない。次の言葉が。

そして気付く。

こちらをまっすぐに見つめる鋭い眼に。


(まさか、本当に?

いや、何か意図が...)


はっと我に返り、確認する。


「ぼ、冒険者登録はお済みですか?」


初めてみる冒険者には、確認することになっている。


(明らかな強者だが、私が規定をやぶるわけには..)


ふたたび広間が静寂に包まれる。

間違いなく、彼の言葉を期待しての静寂だ。


「いや。まだだ。」


また、笑いが起きる。


(なにか事情があるのか...)


冒険者登録は、重複できない。

魔力パターンを識別するため、嘘があればすぐわかる。


「それでは、ここに手を。」


魔力認証用の魔道具を差し出す。


男が手を置く。


(ない...魔力が...)


魔力がないことは珍しいことではない。

しかし、それでは説明がつかない。


(身体強化魔法もつかわずに、どうやってあのチカラを?)


確かに筋肉質ではあるが、馬鹿力があるようには見えない。


(他種族ならまだしも、人間族で..?)


私はますます混乱したが、詮索するわけにもいかない。

規則通りに登録証を発行し、薬草採取のクエストについて説明した。


男は薬草図鑑を借りると、来た時と同じ扉から出て行った。


「マスター、何者だったんですか..」


「...君もギルド職員なら、詮索はするな。

 命が惜しかったらな。」


男が去った後も広間は騒がしかったが、すぐにいつもの様子に戻っていた。


(ディーター...ディーター・フォン・デンツ...か。)





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