主人公登場
「これで、終わりだ」
鋭い眼光、漆黒の装い。
その男はおもむろに包帯を解き、巨大な魔獣に向かって左手をかざした。
あたりが暗くなる。
それが巨大ななにかの影だと気付くのは、全てが終わった後だ。
なおも怒り狂い、突進してくる魔獣。
絶望的な光景に死を覚悟し、目を閉じた。
鳴り響く轟音。
魔獣の仕業でないことは明らかだった。
恐る恐るまぶたを開く。
魔獣がいたであろうあたりから猛スピードで土煙が迫ってくる。
私はすぐにその場に伏せた。
数秒も経たない間に、熱風に包まれる。
ヘルメットに砂や細かい砂利が勢いよく当たっている。
(これが飛ばされたら...)
安売りでヘルメットを買った自分を恨む。
(たのむ、耐えてくれ)
私は祈るように顎紐を握りしめた。
身体のすぐそばを、大きなものが通りすぎる。
1つや2つではない。
岩だろうか。
当たればひとたまりもない。
この視界では避けることもできず、ただ祈るしかなかった。
数分は経過しただろうか。
熱風がやわらぐ。
薄目であたりを確認し、ゆっくりと体を起こす。
背中に積もった砂がサラサラと崩れていった。
魔獣の足音やけたたましい鳴き声はもう聞こえない。
(そういえば、あの男は!?)
辺りを見回す。
依然として視界は悪いが、先ほどと変わらぬ場所に男は立っていた。
「すまない。騒がせた。」
黒衣の男は、なんでもないことのようにそう言うと、そこから立ち去っていった。
「あの、お名前は」
「ディーター。
ディーター・フォン・デンツだ。」
それだけ言い残し、ディーターと名乗った男は土煙のなかへ消えていった。